第17話
「おはよう、波留ちゃん、マリリンちゃん」
翌日、登校してきた礼音は、すでに教室にあち波留と麻里矢に挨拶。
気が付いた2人は礼音に近寄り、心配げな眼差しを向ける。
「礼音ちゃん、大丈夫なの?
急に走ってどこか行っちゃって……
何事かと心配しちゃったよ」
「ごめん……ちょっと思うところあって。
せっかく昨日は待ってくれていたのに、私からほったらかしみたいにしちゃって……あの、怒ってるよね?」
「ええ、怒っているわよ。
今も2人で相談していたのよ、もし礼音ちゃんがのこのこ登校してきたら、どう血祭りにしてやろうかって……」
「またそんなこと言って……安心していいわよ礼音。
せいぜい私達の宿題の肩代わり一年分程度で許してあげるから」
「…………」
言葉を失ってうつむく礼音に近寄り、2人してギュッと抱き締める波留と麻里矢。
「何本気にしてるの?
私達がそんな酷いこと言うわけないでしょ?
全くこの子は」
「まあ、全然怒ってないと言ったら嘘になるけど……もう二度と昨日みたいな真似をしないと誓うなら許してあげる」
「ごめんなさい、波留ちゃん、マリリンちゃん。
誓うよ、もう2人の好意を無駄にするようなこと、絶対にしないよ」
朝から3人抱き締め合う光景を、不思議そうに見守るクラスメート達の図。
「よしよし。
よく謝れたわね、偉いぞ。
ご褒美にうんと頭をナデナデしてあげようね」
波留は力強く礼音の頭をなで回し、髪をクシャクシャにする。
「ああ、やめて波留ちゃん!
……本当はまだ怒ってるんじゃない?」
「いーえ、全然怒ってないわよ。
私、心が広い乙女だもん。
ゼーンゼン怒ってないわよォ」
「それで礼音、本当に大丈夫?
こんな風でも私達、真剣にあなたの心配してたんだから。
昨日の様子だとまるで何かから逃げてるみたいに見えたけど……博人君に何を言われたの?」
麻里矢の質問に顔が強張るのを感じる礼音。
あまり見られたくない顔と承知しているから、2人から顔を逸らしてしまう。
「やっぱりそうなの?
博人君と何かあったのね?」
「ほら、だから私が言った通りでしょ?
私達の友達に酷い真似して……あの男、見てなさい。
3人でお礼参りに参上してやるから」
波留の過激な発言に、礼音は慌てて止めに入る。
「止めて!
博人君が悪いわけではないから……」
「礼音ちゃん、やる時にやっておかないと。
変に甘やかしてつけあがらせることがいいことだとは、私には……」
「本当にいいから!
ちょっと……複雑なの、色々と。
いずれは説明しなくちゃいけないと思ってるけど……それで博人君は?」
博人の席に目を向けると、空席のまま。
まだ登校してないのか、教室の中に姿は見えない。
「まだ来てないみたい。
きっと昨日のことが後ろめたくて、ズル休みする気よ、きっと」
もう波留の中ではすっかり博人は極悪人に祭り上げられているらしい。
「それはないと思うけど。
あまり不正するのをこころよく思わない一面があるから……」
「甘い。
男なんて一皮むけば保身のかたまりよ。
最後は自分さえよければ誰が犠牲になろうが構わないと……」
「おはよう」
博人の唐突な挨拶に、3人凝り固まってしまう。
「お、おはよう」
ぎこちない挨拶を返す礼音に、軽く頭を下げる麻里矢、そして憮然とした表情で見据える波留。
「やあ、昨日はごめん。
変なこと聞いたりして」
博人の言葉に、首を横に振る礼音。
「それじゃあ、また機会を改めて。
波留さん、今日はまた朝から不機嫌そうだね」
「誰のせいだと思ってんのよ、コラ……」
慌てて波留の腕を取り、引き止めにかかる礼音と麻里矢。
「礼音がいいと言ってるのだから、意見を尊重しなさい。
心が広い乙女なんでしょ?」
「波留ちゃん、もう気にしてくれなくていいから。
その気持ちだけで私、十分に満足だから……」
「……もう。
わかったわよ、何もしやしません。
それでいいのね?」
波留にコクリと頷く礼音。
「……にしてもまあ、ずいぶんと澄ました顔で挨拶してくれちゃって。
あまり罪悪感なんて感じてないみたい」
「その辺にしておきなさい。
あまり人のことは悪く言わないの、あまりそういうこと口にしてると、いつか必ず自分に返って来てしまって、大変なんだから。
はい、十分の咳に着く」
麻里矢に促されて、渋々自分の席に戻る波留と礼音。
礼音はじっと博人の様子を見つめていた。
何?どこか普段と違うように見えるのだけど…‥
この時ー
すでに異変は起きていた。
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