第16話

同日夜ー


博人の自宅に一本の電話がかかってきた。


「何だかずいぶんくぐもった声でね。

この季節に風邪でもこじらせたのかしら」


先に電話を取った母親が、怪訝な表情でそう口走る。


「そうなの?

おかしいな、友達に風邪ひいてる奴はいないのだけど……もしもし、博人ですけど」


「事件について興味があるみたいだね」


ろくな挨拶もなく、いきなりそんな切り出し方をされて博人は驚き、身構える。


「あの……何の話をしておられるのですかね?

僕には心当たりが何もないのですけど」


「とぼけなくていい。

私には君のことなら何だってお見通しなんだから。

白岡寧々と蓮田ケイの事件が気になって仕方ないのだろ?」


博人はこの人物は受話器にハンカチか何かを被せて話していると読んだ。

相手に正体をわからせないための、使い回された手段に、思わずクスリと笑う。


「何かおかしいか?」


「ええ、あんまりおかしくて笑いの一つも出ますよ。

こんな時間に正体不明の相手から電話がかかって来て、妙なことを話している。

笑いたくもなりますって」


「そんなにおかしいか?

私は至極まともな質問をしているつもりだが」


「どこがですか?

怪しさ満点の電話ですよ、これ。

失礼ですがイタズラ電話の類いとみなして、通話を切らせていただきます」


「いや、君は切らないね」


「なぜですか?」


「今から私が話を聞かずにはいられない話をするからだ」


「へえ。

ずいぶんと自信がおありのようで。

それでは何の御用でありますかね?」


「まず、私は警察に蛇丸神社での事件を伝えた者だ」


相手の言葉に、受話器を握る手に力がこもる。


「……本当に?」


「本当だ。

ほら、もう通話を切りたくはなくなったのではないかな?

私はここで話を止めても、一向に差し支えないが」


自分のペースだと思っていたが、簡単に相手に主導権を握られたことに唇を噛む博人。


「話を聞く意思がありそうだから続けようか。

私は決してふざけているつもりはない。

相手が君のような子供であれ、真剣に話をしているつもりだ。

私は警察が把握していること以上の情報を知っている。

なぜなら私が事件に大きく関わっているからだ」


博人は黙って相手の話に聞き入る。

これは本物の犯人からの電話なのか、それとも……


「信用してないのかな?

急に黙りしてしまったようだが?」


「当然です。

あなたの話が本当かどうか確かめる方法がないじゃないですか」


「……ふん。

ではこうしよう。

君だけにこっそりと、2人に会わせてあげようか」


突拍子もない申し出に、前のめりになって声を潜める博人。


「2人って……

まさか白岡寧々ちゃんと蓮田ケイちゃんのことですか」


「他に誰かいたかね?

もちろんその2人のことさ、君が散々探している尋ね人に会わせてあげようと言っている」


「2人は……生きているのですか?」


「それは君が実際に会って確かめてみたらいい。

どうも私の話だけでは信じてもらえないみたいだからね。

これは最早2人に直に会ってもらう他、信じてもらうのが手っ取り早い。

君にとってもこの条件は願ってもない提案だろ?」


「……どうして僕にこんな話を?」


「君という人間が私のメガネに叶った、そんなところかな」


「有難い申し出ですが、どうもきな臭いね。

証拠もなく話すだけならば、誰にだって可能ですからね。

何か2人にまつわる証拠でもご提示いただかなくては、申し出を受ける気にはなれませんね」


電話の奥で相手がふふふと笑う声。


「生意気なことを……

いいだろう、それではこうしてお近づきになれたお祝いに一つ、君にプレゼントをあげよう」


「プレゼント?」


「そう……それは君が明日、学校に登校してのお楽しみだ。

君がどんな顔をして驚いてくれるか、今から楽しみだよ。

では頃合いを見計らって、また連絡する」


「あっ、もしもし……」


電話は切られてしまっており、仕方なく博人も受話器を戻す。


……プレゼントとは何だろう?

何か2人に関連しているものであろうか。


博人の中で、期待と不安が激しく交錯し、武者震いが起きる。

明日がこれほど待ち遠しいと感じたのはこれが始めてかもしれない。

博人は気分が高揚し、なかなか寝つくことが叶わなかった……

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