第11話
蛇丸神社の境内にある御神木の根元に、人間が埋められているとの通報を受けて、捜査陣は色めき立った。
ついに死体が姿を現した。
捜査官の誰もが、現在行方不明になっている2人の女子生徒の死体であろうと結びつけて考えていた。
普段は人がいない平穏な神社に、警察の一団が津波のように押し寄せたのを見た近所の住民らは皆一様に驚き、何事が起きたのかと野次馬へと早変わりし、続々と神社に駆けつけてくる。
それは皮肉にも、初詣や夏祭りを大きく上回る人出でごった返すという結果になってしまい……
警察関係者が我先にと、現場となった御神木の根元へと駆けつける。
しゃがみ込んで発見された指先を凝視する捜査陣。
プロの捜査官らがまじまじと見つめていた中、1人がおもむろに声を上げる。
「これ、子供の指先じゃないんじゃないですか」
その指先は小学生の女子生徒のものにしては、確かに大きい。
「そもそもこれは女の子の指ではないな。
成人した男の指先じゃないか。
……とにかくこの仏さんを掘り出してみろ」
号令がかかり、警察官らが総出で埋められている人間の発掘へと取りかかる。
このような作業が行われている間にも、境内の外にはひっきりなしに野次馬が集まり、人員整理を行う警察官を駆り出さなくてはならない騒ぎに発展していた。
死体を傷つけないよう、慎重に、かつスピーディーに土を掘り出してゆく作業は地味で気分のいいものではない。
神聖な神社の境内で死体を発掘するという、神様への冒涜と思える行為に腰が引ける者もいれば、気にすることなく黙々と作業をこなす者もある。
理由はどうでおあれ、手を抜くような捜査官の姿はなかったが。
やがて完全に埋められていた死体を掘り出し、青いビニールシートの上に丁寧に寝かせる。
それは見紛うことなく、成人男性の死体であった。
衣服は着けておらず所持品もなし。
身許を示すようなものは何も見つからない。
年齢は30代後半から40代後半にかけてか。
中肉中背の背格好に、暴行を受けたような形跡もなし。
手術痕もなければ身体の一部が欠損している箇所も見られない。
気に食わないほどのきれいな死体であった。
「死因は何だ?
暴行によるものではないだろう?」
捜査官が死体を検死中の検死官に話しかけて確かめる。
「ええ、外傷は見られませんね。
殴られた傷も首を絞められた痕も見られない。
考えられるのは毒物による中毒死ですが、それとも違うように思えるのですよねえ……」
「何だって?
それじゃこの仏さんはなぜ死んだんだ?
何か死因があったから死んだのだろうが」
「その筈なんですが……現時点では正確な死因の判断は難しいですね。
病死の可能性も考慮する必要がありますし……司法解剖に回してからの結果待ちになるでしょうね」
「……参ったな。
大人の男ってだけで、他には何にもわからず終いかよ。
女子生徒の事件に関係あるのかないのかもわからないな」
「え?
関与が疑われる仏さんではないのですか?」
「は?
何を言うんだ、何の証拠もなしになぜそう断言出来るんだ?」
検死官が捜査官の言葉に驚き、捜査官が検死官の言葉に驚く。
「なぜって……この仏さんを発見した警察官があちらの捜査官らに話しているみたいですよ。
行方不明になっている女子児童の名前が書かれた紙片を現場で見つけたと」
寝耳に水の捜査官、見ると他の捜査官らの前で、興奮気味に発見の経緯を語る警察官の姿が。
「ええ、見るとそこの御神木に藁人形が打ちつけられているのを発見しましてですね……」
苦虫を噛み潰した表情でズカズカと警察官に詰め寄り、胸ぐらをつかむのに時間はかからなかった……
死体発見の経緯に携わった警察官の話に、行方不明事件の捜査陣は当惑を隠せなかった。
現場に藁人形と一緒に打ちつけられていた紙片に書かれた2人の女子生徒の名前、さらに蛇誅という見慣れぬ文字。
その土中に埋められていた謎の男の死体。
現時点で男について全くわかっていない状況下。
一見、捜査に新展開が見られるように思えるが、それでいてまた余計な謎が増えたと考える捜査陣。
どう解釈したらよいかで意見は分かれた。
一つは行方不明事件と関与ありとし、発見された男も事件に関わっていたと見る。
もう一つは行方不明事件とは切り離し、男の事件は基本別々に扱うべきだとする。
どちらにも言い分があり、どちらか一方に指針を示すのが難しい判断に迫られた捜査陣。
そこに加えられたのが、例の怪しい人物からの電話の件である。
あの電話の主は、死体発見現場をわざわざ名指ししてきた。
プレゼントと言っていたのが死体であるのか紙片であるかはわからないが、とにかくその主は事件について、何らかの詳しい事情を知っているものと思われる。
具体的な関与ははっきりしていないが、行方不明事件と男の死体発見は、何らかのつながりがある可能性あり。
その線で捜査に当たる旨が決定され、四方に散る捜査陣。
そして同様に決定されたのが、男の死体発見の会見を開くこと。
その際、一緒に発見された紙片の内容については、当面伏せておくこと。
そねことが捜査陣に切り札につながるかはわからないが、なるべく情報をおさえて報道されてない情報を知り得る者を見つけたい思惑があった。
が、捜査陣の思惑は、ものの見事に打ち砕かれてしまう。
新たに起きた事件の全容をこと細かく伝えるニュース番組が同日夕方、一斉に全国放送されてしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます