第8話

北川辺博人は麻美の受け持つクラスの男子生徒である。


勉強がよくでき、テストでも常に高得点を取ることから、クラスでは秀才として知られる存在だ。

そんなところが麻美に気に入られているからか、クラスでは学級委員の立場を仰せつかっている。


博人は学校からの帰宅後、日課となったワイドショーチェックを行っている最中だった。

秀才といえど、自分が在籍するクラスメートが関わる事件である。

関心がないと言えば嘘になってしまう。


何か進展はないかと期待を込めながら、次々とリモコンを駆使してチャンネルを変える博人だが、これといった進展や新情報もなさそうなので、あきらめてテレビを切り、リビングを出て自分の部屋へと向かう。


博人の普段行っている日課では、帰宅したらすぐにその日の勉強の復習をしている時間帯なのだが、事件が気になってしまい、おろそかにしてしまっている。


部屋に戻り、すぐに机に向かわずベッドに寝っ転返り、新しい日課となりつつある事件の復習を開始。


全く呆れる話だ、自分がこんなに関心を持つなんて……いなくなった2人がたまたま同じ班のメンバーであるからって、のめり込み過ぎじゃないか?


自分はこんなにもミーハーな男だったのか。

思わず苦笑いの博人、天井を見上げながら事件の詳細を振り返る。


クラスメートの相次ぐ行方不明、言葉は悪いが震えた。

こんな報道されるような大犯罪がこんな身近で起きるなんて。

口ではびっくりした、心配だ、などと言ってはいるものの、内心は嬉しくて仕方ない。

2人には申し訳ないが、僕は神様にありがとうと言いたい。


薄情だと思われても仕方ない、これが僕の正直な気持ちなんだから……まだ結末はわからないが、少しでも残酷な結末を期待する博人。


神様、僕は悪い子だと思います?

人間なんて、こんなものでしょ。

世間じゃ一刻も早い発見をとか言っちゃってるけど、本音じゃないだろ。


残酷な結末を望んでる人の割合、きっと高いと思うね。

どうしてって?

他人の不幸は蜜の味ってことわざあるじゃない?

世の中、最悪の結果を期待する人間て多い。


もっと深く掘り下げれば、自分を安全地帯に置いた対岸の火事。

これこそ最も博人が望むシチュエーション、考えただけで期待で胸が膨らみ、笑いがこみ上げてきてしまう。ウヒヒ。


そういえば……ふいに博人はある日の給食時間中、寧々とケイが話し合っていたことを思い出していた。


学校ではランチタイムになると、それぞれの班ごとに机を向かい合わせ、食卓を囲んで食べるような格好となる。


前述したように、博人は寧々とケイ共に同じ班のメンバー同士だ。

だから自然に他の班の男子メンバーよりも、話をする確立が多くなる。


あの話は何がきっかけになって始まったのだっけ?

そう……確かあれは…………


「ねえねえ、博人が好きな物って何?」


唐突に聞いてきたのは寧々。

今までまるで関係ない話をしていたから、突然投げかけられた質問に面食らってしまった博人。


話が脈絡なく変化するのは寧々独特か。

それとも女子全体で見られる現象であるのか。


「好きな物……うーん、考えることとかかな?

一つの物事を深く考えるのって、何だか頭の体操になる気がしてさ。

後はエビピラフとか果汁100%のフルーツジュースとか……苦手なものならパパッと出てくるけど」


「さすが秀才の答え。

そんなこと言うの、クラスの男子でも博人君だけだよきっと」


面白そうに笑いながら答えるケイの表情にちょっと戸惑い気味の博人。

そんなにおかしな答え方したっけ?


「好きな物がどうかした?

何かのアンケート集めてるの?

それとも占いの材料とか?」


「ううん、そういうのではないの。

人ってどんな好き嫌いがあるのかって、見かけだけじゃわからないから……博人はないかな?

まさかあの子があんな変な一面があったなんて!って思うこととかさ」


「うーん、そんなにびっくりするような話、聞かないなあ。

どうなのかな、女子と男子じゃ他人の性格に興味を抱く比率に差が生じるのではないかなあ」


「いちいち例えが先生みたい。

ま、あまり男子はそういうの気にしないのかもね。

……でもさすがにあの子の隠された一面知ったら、誰でもびっくりするよね」


「びっくりどころじゃすまないでしょ、みんな敬遠しちゃって近寄らなくなっちゃうって。

ちょっと変わってるって思ってたけど、あれはそんなの通り越して気持ち悪いの何のって……ああいうのを変態ってのよ、絶対に」


「だよねえ、思い出しただけでキモいよねえ。

あんなの見ちゃったら、もう普通に話しかけられなくなっちゃうよ。

それも同じクラスにいるからなおさら気になって仕方ないしさ」


「誰のこと話してるの?」


博人の質問に2人は一瞬口をつぐみ、すぐにパッと笑ってごまかす。


「それは秘密。

でも気を付けなさいよ博人、人間て見た目だけでは何もわかりはしないんだから。

仲良くしている友達連中にしたって、どんな一面を持っているか、本当のところわかりはしないのだからね。

同じ班のよしみでアドバイスしてあげるから、たくさん知識が詰まった頭の片隅にでも押し込んどいてね」


……あれは誰のことを話していたのだろう?

2人の話から推測するに、同じクラスの誰かではあるらしい。

そしてその誰かはとても気持ち悪い一面を隠し持っているらしい……


これは2人が行方不明になった事件に関係ある話だろうか。

判断がつかなかったこともあり、今日のホームルームに行われたアンケートには書かないでおいたが……


「調べてみる価値はあるか」


博人の探究心がくすぐられ、どのようにすればターゲットをピックアップ出来るか、頭を回転させる。


もしかしたらもしかして、自分が事件解決のきっかけになるかも……それは博人の欲求を弾ませるのに、十分過ぎる理由だった……



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