第3話

「寧々ちゃんとケイちゃん、いなくなっちゃったんだってね」


「そうそう、私びっくりしちゃったよ。

テレビを見てたらいきなりキャスターが知ってる子の名前を読み上げるんだもん、えーウッソーってなっちゃった」


「誘拐か事故に巻き込まれたとか報道してたけど、本当のところどうなんだろうね?

詳しい内容、何にも話してなかったじゃん?」


「極秘情報だから公表しないのよ、もしも誘拐とかだったら犯人側に知られないようにするのが警察には都合がいいわけだし」


「それはどうだか。

公開捜査に踏み切ったくらいだから、大した情報はないんじゃない?

少なくとも現段階で警察はお手上げ状態だと思うよ、大人だからって何でもかんでもわかるものでないし……」


「冷めた意見だけれど同感。

頼りになる大人なんてそんなにいるもんじゃないしね、ただ大きくなっただけの子供みたいなの、結構多いし」


「うちのママがそうかも。

報道を見ててさ、まあ大変、とか言ってたけど、どう見ても口元が緩んでるんだよね。

他人の不幸話が楽しくて仕方ないみたいな?

自分の親ながら嫌になっちゃう、野次馬根性丸出しなんだから」


「そんなもんだって。

私のママだって似たり寄ったりのところあるから……寧々ちゃんとケイちゃん、無事に戻ってくるかな」


「さあね、一体どうなることやら。

もしも誘拐とかだったら犯人にどうにかされちゃう可能性もあるから……最も戻ったら戻ったで、周囲からあれこれ聞かれて変な疑念持たれて大変だろうね」


「変な疑念って?」


「例えばね……犯人に少女趣味があって、お下劣なことされちゃったとか」


「お下劣なことって?」


「カマトトぶんないでよ、本当はわかってるくせして。

本人達がいくら否定しようとも、何もされてないという証明にはならないわけだし……どんな結果になるかわからないけど、先行きは暗いわね」


「わあ、悲観的な意見。

冷たいんだ」


「だからね、そういうのイラつくんだけど」




小学校では白岡寧々と蓮田ケイの行方不明という、かつてないビッグニュースを受け、全校生徒の格好の話ネタにされていた。


テレビや新聞でしか知らなかった警察がらみの事件、それが平穏に生活してきた自分の身近で起きるとは。


自分は行方不明になっている2人と同じ小学校に通っている、生活に深く関わる場所がテレビに映し出され、幾度も名前を連呼されている。


子供達が夢中になるのは致し方ないのだろう、大人であれどそうであるのだから。


報道を受け、小学校は揺れていた。

かつて経験したためしのない事件を受け、教師らの動揺は計り知れないものであった。


教師といえど普通の人間として生活を送ってきた大人に違いない。

そんな彼らに警察のような冷徹さを求めるのは、少なからず無理があるというもの。


対応に追われた教師らは緊急の職員会議を開き、意見や怒号が飛び交った。


警察の捜査への協力、生徒や保護者、さらにはマスコミ連中への接し方、事件の経過の把握、及びどのような解決パターンでも真摯に受け止めて対応する。


中でもデリケートに扱われた問題が、当事者となった寧々とケイのクラスメートへの配慮、接し方である。


突然と起きた同級生の行方不明に、動揺を隠せないのは仕方のないところ。

そんな生徒らをどのように扱うのがベストであろうか。


トラウマになる怖れを考慮し、必要以上の情報をシャットアウトする意見もあれば、包み隠さず現状を伝えることで、それぞれが見出した意見を尊重するという案などが検討されたものの、どれも決めてに欠けることで意見は紛糾。


出された結論は捜査の進展を見守りながら臨機応変に冷静に対処するという、聞こえはよいがようするに、これといった非難につながるような行動は控え、特別何をするわけでもないという、by責任逃れ。


大人は極力、非難を浴びる行動を避ける傾向強し。

立場ある者であればあるほどそれは強く、いかに自分を守るべきかに力を注ぐものなり。


そしてそれは時にはスケープゴートを生みだすきっかけとなりえるものなり。


この職員会議で吊るし上げにされたのが、寧々とケイのクラスの担任である土呂麻美。


今年から配属されたばかりの新任教師であるが、受け持ったクラスでこのような事態が発生してしまい、矛先を向けられてしまった。


「こんな事態に陥ってしまった原因に心当たりはないのか」


「クラスで学級崩壊のような悪しき傾向が起きてなかったか」


「行方不明になっている2人の女子生徒に普段から問題はなかったのか」


「担任の教師であるのに何もわからないのか」


「少々、教育という崇高な仕事に対する姿勢に軽率な考えがあるのではないか」


「これだから新任の教師は……etc」


明確な返答ができず、麻美はうつむいてただじっと非難に耐える。


これはいささか難儀ないわれようである。

たとえベテランの教師であれ、この事態に備えていかなる方法が有効であったというのか。


よほど問い質してみたいところであるが、新任教師の麻美にそれが出来る筈もない。

反抗的な態度を見せたことにより、ますます不利な立場に追いやられるのが目に見えている。


聞きたいのは麻美の方に他ならなかった。

なぜこんなことが起きてしまったのか。

あのクラスに2人が消えるような原因が果たしてあるというのか……







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