第23話
「やあ、きっとかかって来ると思ってましたよ」
開口一番に博人が口にしたセリフに、相手は不敵な笑い声。
「フフフ、その様子だと私からの電話を待ちわびていたようだね。
昨日の君と比べるとずいぶんな温度差を感じるが、どういう風の吹きまわしかな」
「色々とお聞きしたいことがありましてね、あなたならそこらへんのことは、きっとおわかり頂けてる筈ですがね」
「ほう、何の話かな。
私で答えられる質問なら、君へのお祝いを兼ねて答えてあげようじゃないか」
「僕へのお祝い、ですか」
「そうだよ、誰にも言われてないかね?
ならば私が、一番始めに言わせてもらおうか。
生還、おめでとう」
相手のお祝いにカッと熱くなるのを感じる博人、落ち着いて対処するよう、自分に言い聞かせる。
「ありがとうございます。
あなたからそんな言葉を頂戴してもらえるとは……残念でしたね、予定通りに僕が死ななくて」
「今日はね」
余裕さえ感じられる相手の言葉に、凝り固まる博人。
「それはどういう意味ですか」
「とぼけたことを。
君のような秀才ならば、わかるのではないかな。
私が何を言いたいのかくらいはね、フフフ……」
「……学校での不思議な出来事、あれはあなたが関係していることではないですか?」
「そうだよ。
今日起きたことは全て私が起こした騒ぎに他ならない。
中々見応えのあったシーンだったと思わんかね?
君にも重要な役割を演じてもらったわけだが、いかがだったかな?」
「気分は最悪ですね。
どうして僕にあんなひどいことをするのか、さっぱりなのでね。
僕だけじゃない、行方不明になっている2人にもあなたは……何の罪もない子供にすることとは思えない」
「……無知とは怖いな。
君は何も知らなさ過ぎるんだ、博人君。
もっと自分がターゲットにされた意味に気が付くべきだね」
「何ですかそれ。
僕もあなたに狙われるべき理由があるような口振りですね。
もったいつけずに、どうぞおっしゃって教えて下さいよ。
僕は一体、あなたに何をしたのですか」
博人が飛び降り騒ぎを引き起こした当日夜の一コマである。
騒ぎを起こして死んだと思われたが実は生きているという、一躍マスコミ連中の餌食になってしまった。
警察らの力により、自宅まで押し寄せて来ていた連中の取材攻勢をかわしての帰宅は、およそ現実のものとは思えなかった。
あまりにも常軌を逸した一日に、かつてない疲労を感じていた博人。
悪い意味で時の人になってしまった気分は非常に憂鬱である。
「答えて下さいよ。
僕はなぜあなたに狙われなくてはならないのかを。
少なくとも僕にはそんな覚えが全くもってないのですがね」
「そうだよ」
「はい?」
「今現在の君には何の罪もない。
今、君自身が口にしたじゃないか。
その通りだよ、今の君に私は何の恨みもない。
ただの子供をどうにかしようとするほど、無差別に狙っているわけではないからね」
意外な話に、言葉を切って驚く博人。
あまりにも呆れてしまって、つかの間抗議することさえ忘れてしまっていた。
「……その意味では現時点で、君を狙った行為は早急過ぎた感は否めない。
その点については素直に謝罪しようと思うが、やはり君をターゲットから外すわけには行かないんだよ」
「どうしてですか」
「興味あるかね?」
「……まあ」
「だろうね。
実際、私が言っていることは、今の君にはずいぶんと支離滅裂に聞こえるだろうからね。
よかろう、それでは直接会って話をしようじゃないか。
いずれはそうなるつもりでいたのだが、早いか遅いかの違いだ。
これもまた巡り合わせ、教えようじゃないか。
君という人間が存在する罪深さを」
「いいでしょう、ぜひお聞かせ願おうじゃないですか。
こんな酷い目に合わされたんです、その動機というのか、あなたの視点から見た事件の真実を知る権利がある」
強い言葉で返事をしたのは、決意を表明する意味と、不安を悟られないための強がりでもあった。
「ふん、知る権利か……ここまで言っておいてアレだが、知らない方がよかった真実というのもあるのだよ」
「どうぞ遠慮なく。
それから忘れてないでしょうね、例の2人に会わせるという約束……はっきり言ってこちらはあまり信用してませんが」
「フフフ……それも君と会う時のお楽しみとしようじゃないか。
では早速だが場所の指定だが……」
博人は真剣に相手の話に耳を傾ける。
自らを窮地へと追い詰める話と意識しながら……
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