第2話奈落に落ちた女

キラキラ輝く夜景の中、誰もが羨む高層マンションに住む若夫婦。

2人には、とてもかわいらしい娘がいる。

娘の名前は、「河里朱莉(かわざとあかり)」。

若い父親は、祖父の会社で不動産業をしていた。

若い母親は、以前同社で受付をしていた。


教育熱心な母親の元、「朱莉」は、成長した。

15歳の彼女は、美しく、優しく、誰からも好かれていた。

頭脳明晰スポーツ万能、ピアノ、絵画、華道、茶道、書道は、人並み以上。

英語、フランス語、中国語も堪能だった。

ただ、毎日毎日習い事の彼女に友達はいなかった。

高校、大学は、カナダで過ごした。


大学を卒業し、日本に帰ると、いくつものお見合いを勧められた。

申し分のない相手ばかりだが、「朱莉」に結婚の意思はなかった。

カナダから帰った彼女はボランティアに精を出した。

老人ホーム、孤児院、病院を巡った。

同時期に大学院に入り、医師免許と弁護士の資格を取った。


順風満帆の「朱莉」だが、資格を取得した頃に奈落に落ちた。

彼女の誕生日レストランに向かう途中で大事故に遭ってしまった。

家族皆で乗っていた車が大破した。

相手は大型トラックだった。

「朱莉」は、意識不明の重体だった。

他の家族は皆即死だった。


1年半眠り続け「朱莉」は、目を覚ました。

彼女は、記憶喪失になっていた。

彼女は、何もかも無くしてしまっていた。

祖父の会社は損失を出し潰れていた。

家も財産も消えていた。

彼女は、母親の姉のもとに身を寄せることになった。


叔母は、体が不自由だった。

母親とは、縁を切り生活保護を受けていた。

一人で、ボロボロの市営住宅に住んでいた。

「朱莉」は、叔母の為に働いた。

半年も過ぎると、無愛想な叔母が笑顔を見せた。


その年の冬、バイト先の「朱莉」の下に緊急の電話がかかった。

心臓発作で倒れていた叔母を隣の人が見つけ、救急車を呼んでくれた。

既に意識は無かった。

3日後、叔母は、亡くなった。

叔母が亡くなったショックからか、記憶が戻り始めた。


完璧に記憶が戻った「朱莉」。

以前の住み慣れた街に戻った。

彼女に声をかけてくる人間は、一人もいない。

それでも彼女は、懐かしい思いを募らせていた。

つらい記憶より、楽しい記憶が勝っていた。

カナダでの生活が、「朱莉」をポジティブにしていた。

弁護士として働きだした。


初めての仕事は、統合失調症患者の弁護だった。

統合失調症の男が、幻聴から同僚を殺害してしまったらしい。

統合失調症の男は、病気の為、無罪となった。

そして「朱莉」は再び、不運に襲われる。

殺害された同僚の婚約者に刺された。

一命は、取り留めたが、顔や腕、脇腹に傷が残った。


「朱莉」は、弁護士を辞め、医師として働き始めた。

自身の傷を和らげるかの様に、美容整形専門医師になった。

自らモニターになり、勤務医として、我武者羅に働いた。

体の傷は、徐々に薄くなっていった。

彼女は、やっと平穏な暮らしを取り戻しつつあった。










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