第5話 廊下の姉弟

「おまえ、こんな所で素振りして、転んだんだろ。」

佳織が廊下に落ちている金属バットを拾いながら言う。

「やめろよ、ねえちゃんがそれ持つと怖いんだよ。頼むから、手から離してくれ。」

翔太の言葉に、佳織が首をかしげながら、金属バットをすぐ脇の廊下の壁に立て掛ける。

「出たんだよ。」

うつ伏せになっていた翔太が、仰向けに転がりながら言う。

「出たって?」

「先週、俺に化けてたって言うあいつだよ。」

佳織の顔が一瞬のうちに蒼ざめる。

「今度はねえちゃんに化けてた。ねえちゃんの部屋で、俺のバットを引きずって歩き回ってた。」

「そんな・・・」

「もうやばいよ、お袋に相談しよう。心配かけるから、なんて言ってられる状態じゃないよ。」

「そうね・・・そうだ、今週の土曜日、お父さんが帰って来るから、お父さんにも相談しよう。」

「あっ、そうだっけ、明後日親父が帰ってくるんだっけ。それがいいな。」

姉弟は顔を見合わせて、やっと明るい顔になった。

「ちょっとぉ、いつまでそうやって下から見上げてるのよ。わたしのパンツ見てるんじゃないでしょうね。」

翔太が慌てて立ち上がろうとして、よろめく。

まだ膝に十分力が入らない。

「ねえちゃんのパンツなんて見てどうすんだよ。いつもベランダに干してあるのが見えてるよ。」

「中身のあるパンツと無いパンツじゃ違うのよ。」

いつもの二人の調子に戻って来たようだった。

そのとき、佳織の脇の壁に立て掛けてあった金属バットが突然倒れこみ、大きな金属音をたてて廊下を転がった。一瞬で竦んだ二人は体を固くし、こわばった表情で転がる金属バットを目で追った。廊下を数回転した金属バットは、根本を軸に半回転し、先端を二人に向けて止まった。

姉弟は固まったまま、その光景を見つめるだけだった。

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