第四話:私より強いヤツが会いに来る!? 後編
4-1:〇〇は逃げ出したっ!?
次の日から司たちは『買取倍増キャンペーン一時中止』の説明に追われることとなった。
と言ってもキャンペーン中止への苦情はほとんどない。
代わりに多くの人が美織の敗北に驚き、その試合内容と、リターンマッチへの特訓に入った美織の様子について司たちを質問攻めにしてくる。
試合内容はそれなりに説明が出来る。
が、美織の特訓内容については、司はなんとも返答に困ってしまう。
なんせ敗戦の翌日に美織は休みを取って久乃と出かけたかと思うと、夜遅くに大きな紙袋を片手に帰ってきて「んじゃ、リターンマッチに向けて対策を練るから邪魔しないよーに」と、自分の部屋へ閉じ篭ってしまったからだ。
かくしてその日からお店どころか、お風呂や食事といった最低限の事以外、美織は部屋から出てこなくなった。
食事中に首尾を聞こうにも「まぁ大丈夫よ」と答えるだけで、具体的な試合の話はしようとしない。
だから「どんな感じなの?」と言われても、司としては「ボクこそ知りたいですよ」としか答えられないのだが。
「絶好調だよ! もし負けたら脱ぐとか言ってるし!」
困り顔の司の代わりに葵がテキトーなことを言って、変に盛り上げるのだった。
後でバレて酷いめにあわなきゃいいんだけどね。
そして迎えた決戦当日。
開店直後にも関わらず、ぱらいそには世紀のリターンマッチを見ようと多くの人が駆けつけていた。
家庭用ゲーム機に移植されていない『スト4』なだけに、決戦の舞台はぱらいそではない。
それでもぱらいそに集まったのは店頭に張り出された、美織とレンが格ゲー風にイラスト化されてにらみ合っているポスター(画:葵)に「場所:とりあえずぱらいそに集合!」と書かれてあったからだ。
「で、これだけギャラリーを集めておいて、肝心要の店長さんはどうしたんだよ?」
集まった野次馬たちに驚き、店頭のポスターに唖然として、それでも怒りを押さえつけていた円藤だったが、美織の姿が見えないことにはさすがの我慢も限界だった。
「まぁまぁ急がなくてもいいじゃないですかぁ、おにーさん。あ、アメちゃん、舐めます?」
こういう時に年長者はやはり頼りになる。
思わぬ事態にどう答えていいものかと困る司たちを尻目に、奈保がお気楽な笑顔で円藤に話しかけた。
「悪ぃな、ねぇちゃん、こちらもヒマな身じゃねぇんだ。早く店長を呼んで来てくんねぇか?」
円藤なら鼻の下を伸ばして奈保の誘惑に乗るかと思ったが、頑なな態度に変わりはない。こう見えて大型店の店長なのだ。言葉通り、ヒマな時間などないのだろう。
円藤の要求はただひとつ「早く対戦させろ」だけだった。
そして司たちも、出来ることならば早く試合を始めたい。
先日は不覚を取ったものの、あの美織が連敗するなんて考えられなかった。
しかも美織は一週間店を休んで対策を練ったのだ。戦ったら絶対に美織が勝つ。そう信じている。
ただ、信じてはいるのだが、問題が……。
「えーと、それがねー、ちょっと用事があるからって、美織ちゃんは昨夜からどっかに出かけてるんですよー」
あははーと奈保が言った。
司と葵がどう誤魔化そうかと悩んでいる事案を、何の改竄もなく、そのまんま言ってしまった。
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