3-4:そんな買取査定で大丈夫か?

 縁と言うのは不思議なもので、司と葵、そして九尾の三人は同じクラスなった。

 おまけに出席番号による席順で九尾は司のすぐ後ろ、葵の斜め後ろに座り、


「改めてよろしくなっ!」


 満面の笑みを浮かべて挨拶してくる。

 ここまで来たらそのうちぱらいそで一緒に働くことになったりしてと司は一瞬九尾の女装姿を想像したが、気持ち悪くなったので慌てて頭から振り払った。


 それは葵も同じだったのだろう。頭をぶるんぶるんと揺らすと、先生が来る間、せっかくだからとぱらいそについてどう思っているかを九尾に尋ねる。

 すると。


「店長はやっぱりあの強さが魅力だよな。絶対倒してやるから首を洗って待ってやがれ」


 強く拳を握り締める九尾。


「久乃さんはスゲェよなぁ。どんなに忙しくてもニコニコテキパキ仕事してるもん。トロい関西弁からは想像もできねぇ」


 尊敬の眼差しを浮かべる九尾。


「なっちゃんさんも俺、大好きだぜ。転びそうになって、あの胸に飛び込んでもきっと笑って許してくれそうだしな!」


 鼻の下を伸ばす九尾。


「葵は……ああ、一度訊いてみたかったんだけど、やっぱりアレ穿いてなぐはぁ」


 頭を掻きながら葵の印象をようやく捻り出した九尾……の顔面に葵のぐーぱんちが飛んだ。


「まったく、どうして男の子はエロいことしか考えないのかなっ。ホントしょーもない!」


 ぐおおおと悶絶する九尾だけでなく、司にも葵は冷たい視線を寄越す。

 とんだとばっちりだった。


「ったく痛ぇなぁ。いきなり拳が飛ぶって、お前は鬼軍曹か? ちっとはつかさちゃんを見習えってんだ」


「つかさちゃんの何を見習うのさ?」


「そりゃーおめー、俺のマイエンジェルつかさちゃんはこんな乱暴はしねえってことよ。仮に同じ質問をしても、つかさちゃんならきっと顔を赤らめて『あの、このことは誰にも話さないでくださいね』ってスカートをぐぼがぼぇ」


 葵と司のダブルぐーぱんちが九尾の顔面にのめりこんだ。


「ひ、ひでぇよ、香住。葵はともかく、なんでお前まで俺を殴るんだ!?」」


「ごめん、つい」


「つい? あ、香住もつかさちゃんのファンで、天使な彼女はそんなえっちなことはしないって抗議したのか。なるほどなるほど」


 勝手に納得された。

 てか、エロ妄想の犠牲者にされて思わず手が出た司だったが、おかげで毎回穿いてないと勘違いされる葵の気持ちが少しだけ分かったかもしれない。


「よし、そんな香住にいいものを見せてやろう」


 九尾ががさごそと自分の鞄をまさぐり始める。

 何を取り出すのかと思えば、なんてことはないただのスマホ……かと思いきや。


「じゃーん! どうだ、この画像。マイエンジェルつかさちゃんの魅力が凝縮されてるだろ!?」


 画面にはぱらいその制服に身を包んだ司が、恥ずかしそうにお尻のスカートを片手で押さえながら商品を棚に並べている姿が映し出されていた。


「おー、さすがはつかさちゃん、無駄に女子力が高いねー」


「没収! こんなのは没収します!」


 葵がニマニマ笑いを浮かべる中、司は九尾からスマホを奪い取ろうとする。

 が、九尾はすかさずスマホを引っ込めると、奪われないよう胸のポケットにしまった。


「ちっちっち。香住、欲しい気持ちは分かるが、このお宝映像を手に入れるには苦労したんだぜ? そう簡単に渡すわけにはいかないな」


「これ、盗撮じゃないかっ! 犯罪だよっ!」


 あんな格好で仕事をしているぱらいそだから、店内での撮影は禁止されている。

 が、常に危険性はあるので司は警戒していたつもりだった。


「ふふん、盗撮じゃないぞ。実はこれ。ちゃんとオフィシャルなヤツなんだな」


「オフィシャル?」


「おう。だってこの画像、店長にお願いして五百円で買ったものだし」


「「なん……だって?」」


 司と葵の声がハモった。


 この日の夜、司たちが美織の闇商売を言及し、久乃の一言で廃業に追い込んだのは言うまでもない。




「てかさー、さっきから店員の話ばっかじゃん。もっとお店そのものへの感想はないのかね、エロ少年?」


「誰がエロ少年だっ」


 葵の言葉にツッコミを入れつつ、九尾がそうだなぁと頭を捻る。


 勝てば買取金額倍増になるゲーム対決は、美織をライバル視している九尾には大満足なイベントだと言う。

 美織の強さに諦めている人も多いのでは懸念していたが、実際はむしろ誰が最初に金星を上げるかで盛り上がっているそうだ。

 ただ、倍増キャンペーンには参加せず、すぐゲームを買い取って欲しい人も当然いるわけで。


「そんな奴らが『ここの店員、買取が遅い』って言っているのを聞いたことがあるぞ」


 耳に痛い意見だ。

 買取はどうしても実戦経験がものを言う。

 キズの有無、内容物の確認、中には動作確認が必要なものもある。

 場数を踏むにつれて手際が良くなりスピードアップするが、まだまだ経験不足なぱらいそスタッフでは時にもたつくことがあった。


「まぁ、俺は『みんな頑張ってるんだから、文句言わずに待ってろや』って言いたいけどな!」


 九尾はそう言うが、司たちのレベルアップは確かに急務であろう。

 が。


「でもよぉ、そもそもぱらいそってスタッフ少なくね? てか、店長も学生だろう? なっちゃんさんも大学生みたいだし、学校が始まったら久乃さん一人で昼は回すのかよ?」


 やはり一番の問題点はそれだった。

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