2-4:鑑定スキルを手に入れろ
「あ、ありがとうございましたー」
頭の左右のシニヨンキャップを上下に揺らし、葵はお店を出て行くお客様をお辞儀して見送った。
「うーん、まだ表情が固いなぁ。六十点」
「えー、久乃さん、厳しいですよー」
「何言うてるん、商売はイチに笑顔、ニに笑顔、三枝も笑顔でいらっしゃ~いって言うとるやろ?」
えっと三枝って誰です? と質問する葵に、久乃がくわっと目を見開いて「これやから関東人は!」と猛烈に説明し始める。
そんな様子を、司は少し離れた場所から眺めていた。
ほんの一週間前、先輩から仕事のことを教わったものの、すごくいい加減で結局自分で試行錯誤したのを思い出す。
通常業務だけでなく、笑顔まで指導してもらえる葵が正直羨ましかった。
「さて、三枝師匠の偉大さを理解してもろうたところで買取の説明に戻ろかぁ」
「ええっと、カートリッジはロードが出来るかどうか、ディスクはキズが付いてないかどうかを調べるんですね?」
「そや。それとたまにパッケージと中身が違うこともあるから気を付けや」
忙しい時は見落としがちになるからなと久乃。
「はい。あ、ひとつ質問!」
葵が手にしていたパッケージをひょいと裏向きにして久乃に見せる。
「これ、バーコードがないんですけど、非売品か何かですか?」
「ああ、それなぁ。一応ふたつのパターンがあるんよ」
久乃は葵からパッケージを受け取ると、ジャケットを取り出す。
「ひとつはジャケットがリバーシブルになっとる場合。これは裏側にちゃんとバーコードがあるねん」
「でも、これの裏面は真っ白ですよ」
「となると、限定版って可能性が高いなぁ。限定版って基本グッズが付いてて、大きな箱に入っとるやん? そやから箱の方だけにバーコードがあって、ソフトのパッケージにはないんやぁ」
「なるほどー」
「でもなー、中にはソフトのパッケージにも限定版のバーコードが付いとる場合もあるんよ。これは要注意やぁ」
「限定版ってグッズが付いている分、普通のより買取価格が高いですよね? なのにソフトだけで、その値段で買い取りって……うわん、危なっ!」
「そやから買い取りのレジを打つ時は、しっかり画面上の備考欄を見るんやで。限定版なら内容物が表示されるさかいな」
実際にやってみせる久乃に、おおーっと葵が感嘆の声をあげた。
「ついでに言うとくと、バグ版も備考欄にコメントが出るから注意してなー」
「バグ版?」
「そやでー。バグがあって回収になったり、修正版が出回っているヤツやぁ」
これらは明確に修正版と銘打たないことが多いので、見分けるには知識が必要になるんやと久乃が説明する。
例えば修正版はジャケット下部に青い先が引いてあるとか、ディスクに小さく「アップデート版」と書かれてあるとか。
中にはメーカーがバグを認めず、回収もしないくせに、ちゃっかり二次出荷でバグを修正しているパターンもある。こうなるとソフトの型番で判断せざるを得ない。
「こんなん覚えてられんから、レジ画面でちゃんと確認するんやで?」
「いえっさー」
葵が敬礼して答えつつ、手元のゲームソフトに視線を戻そうとして……ふと動きを止める。
「あっ!」
慌てた声をあげたのは司だった。
自分の視線に気付いたのか、こちらを向いた葵と目があってしまったのだ。
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