1-9:YAKUZAが如く

「……あなたがぱらいその店長なのですか?」


 美織のもとへ司と共に現われた黛の第一声は礼を逸していたものの、その問いかけは至極当然なものだろう。

 司や久乃に大変な労働を強き、自分はゲームで遊び呆けている。

 おまけに見た目はまるで中学生。

 セクシーな奈保、清楚な久乃のメイド服姿に対して、ピンクのチェックを基調とした美織のメイド服もまた、彼女を幼く見せる要因になっていた。


「ん、なによあんた? どこの組のインテリヤクザ?」


 なのにこの口の悪さ。人は見掛けで判断してはいけないを地で行く美織である。


「インテリヤクザ……なるほど、どうやら本当にあなたが店長のようですね」


 さすがの黛も一瞬言葉を失った。

 が、すぐに冷静さを取り戻して再認識した。


 目の前でふんぞり返る小娘が、あんなふざけたチラシを作った張本人だ、と。


 黛の切れ長の眼が、さらにすーと細くなった。


「申し遅れました。私、こういう者です」


 黛の差し出す名刺を受け取り、美織はつまらなさそうに一見する。


「ふーん。で、なに、新規オープンの挨拶にでも来たの? 見たところ手ぶらだけど?」


 菓子折りのひとつでも持ってきなさいよ、気が利かないわねと美織。


「手ぶら? はて、そう見えますか?」


 厚かましい要求をいけしゃあしゃあと言ってくる美織に、しかし黛も動じない。

むしろ話が早いとばかりに、司をぐいっと引き寄せた。


「て、店長……」


 突然引っ張られた司は、つんのめるような形で美織の前に差し出された。

 怒られるかな? 

 怒られるに決まっているよな?

 そんな不安を表情に張り付けて、おそるおそる司は美織の顔色を伺う。


 案の定、美織は眉を寄せて頬を膨らまし、薔薇の蕾のような唇をまるで苦虫を噛み潰したかのように歪ませていた。


「あんた、バカなの?」


 怒った美織の声が、怖くて俯く司の耳に届く。


「私の話、ちゃんと聞いてた?」


「ううっ」


「私、言ったよねっ!?」


 はい、絶対ライバル店の人に捕まるなって言われました。

 でも、だけど……。


「挨拶に来るなら菓子折りを持って来いって! こいつのどこが菓子折りだー!」


 ……はい?


「それがなに? 『手ぶら? はて、そう見えますか?』って、あんたマジで脳に蛆虫でも涌いてるんじゃないの!?」


 美織がぐいっと司を押しのけると、黛に近付いて胸元から抉りこむかのごとく睨みあげる。


「私をバカにするつもりなら容赦しないわよっ!?」


 本当にヤ〇ザなのは一体どっちなのか分からない美織の態度だ(注:どちらもヤ〇ザではありません)。


「これは失礼。菓子折りは後日、店の者に持たせましょう」


 それでも黛は顔色を変えず美織を見おろし、


「ただ今回は彼がうちの敷地内で配っていたこのチラシについて、そちら側のお話を伺いたいのですが?」


 スーツの内ポケットから几帳面に折り畳んだ『ぱらいそ』のチラシを取り出した。


「ああ、それね。それがどうかした?」


「営業妨害です」


「そうね」


「認めるのですか?」


「いくら頭に血がのぼっての行動とは言え、このチラシは確かにやりすぎだわね」


 あっさり美織が非を認めたのは、黛も意外だった。

 それでも黛は変わらず表情には出さない。


 対して慌てたのは司だ。

 美織は黛の思惑を理解していない。このままでは大変なことになる、と美織に話しかけようとして、ふと彼女が誰かに目配せしているのに気付く。

 一体誰に、と振り返ろうとしたところで、司は突然何者かに引っ張られた。


「ふむ。それでは」


 司が人混みの中に消える中、黛が話を纏めようとする。


「それ相応の対応を」


「おかげでこっちもいい迷惑だわ」


 ところが美織が遮った。


「なんせあんたのところの安売り商品を、こんな高値で買い取らなきゃいけないんだもの!」


 ……やはり美織はそう簡単に屈する人間ではなかった。

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