4-7:弱い者イジメしてるみたい
「すげぇ、これがワンキルか!」
「俺、練習して身につけよう!」
「アホ。あれだけのコンボを繋げようと思ったら、練習以前にカスタマイズも相当細かく設定しなきゃならないぞ。さすがの店長でも、そのレシピまで教えてくれないだろ」
「いや、そもそも弱パンチでも食らったらおしまいって体力に耐えられねぇよ」
自分たちの目の前で起きた奇跡について、ギャラリーたちが興奮を抑えきれずに騒ぎ立てた。
自分もワンキルをものにするぞと宣言する者。
あんな壮絶難易度のコンボなんて出来るわけねぇよと忠告する者。
中には「スゲェよ、店長!」と感極まり美織に抱きつこうとして、顔面にグーパンを食らう者までいる。
言うまでもなく九尾である。
「おいっ、何が『オレに任せておけ』だ。本当に何もせず相手に一勝をプレゼントしやがって」
美織側ではのた打ち回る九尾に笑いが起きているのに対して、レン側では円藤の怒鳴り声が炸裂していた。
「しかもなんだぁ今のは。アレを喰らったらおしまいだなんて、てめぇ、本当に勝てるんだろうなっ!」
先ほどの意趣返しのつもりか、円藤がジロリとレンを睨みつける。
負けたらただではすまさねぇぞと言わんばかりだ。
「おい、黙ってないで答えろ!」
円藤が無視して画面を見つめ続けるレンの肩に手を掛ける。
その瞬間、レンが立ち上がり、
「いててっ!」
同時に円藤が悲鳴をあげた。
レンの肩を掴んだはずの右手が、気が付けば捻りを加えられて背中に回されていた。
そして背中の左肩あたりまで持ち上げられ、円藤は苦痛のあまり前屈みにならざるを得ない。
「おい、一体なにしや」
「大人しくした方がいいよ、円藤サン。オレがあとちょっと力を入れるだけで、あんたの右肩、外れちゃうんだからさ」
この姿勢でこんなことを言われては、さすがの円藤も大人しくするしかなかった。
「さて」
レンが円藤の右腕を極めながら、美織を見下ろす。
「あんたのワンキル、見せてもらったぜ。見事だった」
「そりゃどうも」
「だけど、まだ正確にはワンキルは出来てねぇ。あんた、失敗したしな」
一ラウンド目は最後の超必殺技が決まらなかった。
二ラウンド目は一回失敗し、その次の挑戦で成功した。しかしワンキルとはその名の通り、一ラウンド一回のチャンスで仕留めないと成立しない。二回に分けてはダメなのだ。
「そうね。それがどうしたの? それともまさか」
美織も立ち上がった。
と言っても、小柄な美織では相変わらずレンを見上げるのは変わらない。
「あんたが本当のワンキルを見せてくれる、とでも?」
なのにそんな美織がまるでレンを見下ろしているかのような錯覚を皆に覚えさせるのだった。
それはレンも同じ。見下ろしている相手から見下ろされているような変な感覚に一瞬呆気に取られる。が、
「……そうさ」
正気を取り戻したレンが笑い飛ばす。
「あんたは三回目の挑戦で成功した。だが、オレなら一回で決めてみせる。本当のワンキルをな!」
堂々と宣言し、席を変わるようにレンは手を振った。
「なるほど、道理でやたらと見たがったわけね。面白い」
レンに指図されるまま、美織は素直に従って席を譲った。
「最終ラウンドはお互いの操作キャラを交代させてもらうぜ」
「構わないわよ。だってこのままだと……」
すれ違いざま、耳元で囁かれたレンは目を見開いて、側を通り過ぎる美織の後姿を見送った。
「さぁ、そうと決まったら、そんなおっさん放っておいて始めるわよ」
しかもどっさと先ほどまでレンが座っていた椅子に腰掛けると、おろしたての筐体のコンパネをバンバン叩いて催促してくる。
「……おもしれぇ」
レンは円藤の戒めを解くと、素早く席に着いた。
早く戦いたかった。
一刻も早く、目の前の敵をぶちのめしたかった。
初めてだったのだ。あんなふうに
『構わないわよ、だってこのままだと私が弱い者イジメしてるみたいだもん』
自分を弱者として扱ったヤツは!
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