STAGE
銀礫
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富・名声・力、この世のすべてを手に入れた男、やくもは言った。「俺の鳥瞰図か? そのうち嫌でもわかる。刮目せよ! この世の未来をそこに記してきた!」
「はぁ………はぁ……ッ!」
「やっと手に入れたわね。後はそれを持ち出すだけよ!」
警報が鳴り響く建物の中、二つの人影は赤く照らされた通路を走り抜けていた。
二人の内、片方は男。その手には丸められた紙が握られている。彼の名はジク。といってもこれは本名ではなく、作戦のためのコードネームだ。「世界の軸になりたいんだ!」と、この名を選んだ。憧れるのは地軸。23.4度傾いているのがかっこいいらしい。
さて、片方が男ならもう片方はニューハーフだと思っていたあなた。残念、女の子でしたー。彼女の名はイマダミ茶。これもまたコードネームである。嫌いなものはお茶。とにかく大っ嫌い。アヤ○カが選ばれる理由が理解できない。
そんな二人が、警報が鳴り響く建物の中、赤く照らされた通路を走り抜けていた。これさっきも言った気がする。
しばらく進むと、ふいに開けた空間に出た。その部屋の中央には人影があった。
「お前は…………やくもか」
「違う。スーパーやくもだ」
「どうでもいいじゃないそんなこと」
「いや、必要なんだよ。なんせスゥゥゥパアアなやくもだからな」
「スゥゥゥパァァァドゥラァァアイ」
「煩い!」
目の前に立ちはだかる、やくもと呼ばれた男は
「違う!スゥゥゥゥゥゥゥパァァァァァァァァやくもだ!」
「………誰に言ってんだ?」
………スーパーやくもは、実質的なこの世界の支配者である。
この世界は、政治だの宗教だのややこしいことがたくさんあるが、結局はこの男、スーパーやくもがありとあらゆる悪事を働き、表の実力者に癒着することによって、裏で操っている。
また、スーパーやくも自身も、スッペシャルな映画スター(笑)として名を馳せており、世界中の民は彼を知っていて、かつ彼に憧れていた。
「この先は通さんぞ」
「最大の黒幕が一番最初に出てくるんじゃないわよ!」
「仕方がないだろうが!!お前らがこの道を通ってきたのが悪いんだよ!!せっかくのアフターヌーンコーラの邪魔をしやがって!!」
そう叫ぶ彼の手には、コーラの真っ赤な缶。赤い警告灯のせいで気が付かなかった。あ、ゼロカロリーらしい。
「ちっ……まあいいや。ここは、私が食い止める……だから、お前は先に行け……ッ!」
「………わかった。こいつは任せる…………生きて、帰ってこいよッ!」
「ふはははははははは。かくも友情は美しいものよのう。しかし、実におろかしい。おろかしいぞ!貴様らのがんばりなど、我が千年の憎しみと比べれば野辺の虫けらよ。誰にも心傾けられずに寂しく死ん」
「もちろんよ。だって私、この任務が終わったら結婚するんですもの!」
「死んでゆ」
「え、まじ!?相手誰!?俺知ってる??」
「よく知ってるはずよ。皆には内緒だったけどね」
「死ん」
「えー誰だよー言ってくれよー」
「仕方がないわねぇ。ほら、あの人よ。私達と同期の…」
「俺を無視するなあああああああああああ!!!」
叫び声がこだまする。
「あ、ごめん。じゃあ先に行くねー」
「気をつけてー」
「まてこらああああああああああああああああああ!!!!!!」
「待ちな!あんたの相手は私だよ!!」
「急に本気になるなよ……ちっ」
悪態をつき、睨まれて動けないスーパーやくもの隣を通り抜けようとしたその時、
「何楽しそうなことしてるの…wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
まさに決戦が始まろうとしたその時、突如現れた謎の女性………はたして彼女は、敵か、味方か………。
「はっ…誰なのよッ、あんたは………ッ!」
「敵だよ」
「敵かよ!」
敵だった。隠す気はないらしい。せっかくバレていなかったのに。
「君の相手なんてやくも一人で十分だよ。じゃあ、僕はもう一人を片付けるね。その女は頼んだよ」
「いやだからスーパーやくもだって!それにお前は俺の部下のはずだろう!何だその態度は!!」
「五月蝿い」
「ハイスミマセン」
力関係が露呈されていた。
「は!お前はあの時の女剣士か!!」
何故分かったイマダミ茶よ。
「勘よ!剣持ってるし!」
そっか。勘か。
「ふふふ、覚えていてくれて嬉しいよ」
「え、私達会ったことあったっけ?」
「え?」
「な、なんでもないわ!」
ぼろぼろじゃん。
「…さぁ、僕に狙われた君はどうするかな?」
女剣士は剣を抜き、切っ先をジクに向ける。
「くッ………こんな、こんなところで負けるわけにはいかない…ッ!!これは………この鳥瞰図は!!必ずや明るみのもとに晒さなければならないんだ!!!!」
持っている紙を強く握りしめる。ぐしゃぐしゃになった。
「秘密組織『
「だけど、その鳥瞰図は渡さないよ。さぁ、返してもらおうか…ッ!」
秘密組織『
その実態は、スーパーやくもが裏で操るこの世界で、革命を起こそうという組織である。
ジクの手に握られている鳥瞰図は、スーパーやくもが暇つぶしに描いた、革命後の世界の様子を願望たっぷりに記したものである。
はっきり言って落書きレベルだが、それでもスーパーやくもの陰謀を証明する確固たる証拠……と信じられている。
「くッ………どうする………このままだと敵の援軍が来るかもしれない………どうする、イマダミ茶!ここには俺達しかいない……少し、厳しいぞ………」
「彼女はいつでも私たちを見守っている。だからこのピンチにも気がついているはず……!彼女がきっと助けに来てくれる…だから!せめてそれまで私たちで持ちこたえるぞ!」
ジクにはイマダミ茶の言う「彼女」がわからぬ。だが、もうすぐ始まるであろう最初にして最後の決戦のために仲間と自分を鼓舞せねばならぬと決意した。
そして、叫んだ。
「……ああ、ここで負ける訳にはいかない…………この戦いは、まだ始まったばかりなのだからなッ!!!!」
その言葉によって、この物語が締めくくられるとは知らずに。
STAGE 銀礫 @ginleki
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