第4話
『その通りです。燃えた後の空気の中ではものは燃えづらくなります。そして、燃えづらくなった空気は魔法炭の残渣を含んでおり操ることが可能です。それを応用すれば、どの炎魔法による自然発火現象も鎮火することができるようになります。実は、鎮火についてを学ぶことが【ファイア】以降の炎魔法を学ぶためのスタートラインなのです。』
(でも、図書館の私が閲覧できる本には【ファイア】の記述は簡単なものしかなかったし、それ以外の炎魔法は存在をほのめかすぐらいの記述しかなかったよ?そして、鎮火についての本を見たことはないよ?)
『そこが、大卒と一般の魔法使いの差です。魔法大学で学んだものに対しては、魔法大学学長からの証明書が発行されるということはリリヤも知っているでしょう。そして、魔法使いギルド付属図書館には証明書がないと閲覧のできない記述のコーナーが存在します。』
(噂には聞くし、一度だけ大卒の偉い魔法使いが入っていくのを見たことはあるよ。もしかして、そのコーナーには……。)
『そうです。自力で後片付けができる技量の持ち主でないとみられない技術がゴロゴロ転がっています。……まぁ、大卒レベルでも取り扱えるか怪しいような魔法の記述は魔法大学内部にしか存在しないのでしょうが。』
『そこにある炎魔法には【ファイア】以上に範囲が広かったり、危険だったり、高温だったりするものが多数あります。』
(……そうなると、今のところ学べる炎魔法は【ファイア】どまりで、それ以上を検査でやり始めるとむしろ警戒される……?)
『そうでしょうね。やるとしたら、消火だけに止めておくべきです。自力で消火にたどり着きましたというのは、向学心の表れとしてアピールポイントに使えるでしょう。』
(そうですね。志願届を出すときに、この内容についてのレポートを付随して提出することにします。)
『参考文献名で笑いそうになるレポートになってしまいますが、仕方ないですね……。』
(うう、何とか専門書を読み解かないと格好がつかない……)
とんとんと硬いものでで肩を誰かに軽くたたかれたので後ろを振り返ると、本を台車に乗せて運搬するお兄さんが後ろに立っていた。
「はい?」
「おや、ここでは見ない顔だねお嬢さん。そんなに表情を変えて何か困ってるのかい?」
「え、あっ、ええと、そういうわけでは……というか、あなたは司書さんですか?」
「それ以外には見えないとは思うんだけれども……。で、何か困ってるのであれば僕に聞いてくれれば答えるよ?よほど難しい内容でなければ鍛冶の理論は大体説明できるから。とはいえ、君はおそらく鍛冶ギルドの所属員ではないだろうし、専門外だと答えられないかもだけども。」
「ええと、私は魔法使いギルド所属のリリヤと申します。炎魔法の手掛かりになるものを探しにここの図書館まできました。それで、火力を上げる方法は方向性が見えてきたのですが、操作と鎮火についてがあまり思いつかなくて……。」
「ではこちらも自己紹介から。私はアランといいます。どうぞよろしく。炎の操作というのは、魔法の専売特許ですので鍛冶ギルドではよくわかりませんが、鎮火については多少考えられるものがありますね。」
いろいろ聞いてみると、燃えない空気を流すというのも一手法としてあるが、単純に水や土をかけたりして温度を奪ったり空気が供給されないようにするのが一般的だそうです。鍛冶ギルドではほとんど自然に火が窯から消えるのを待つそうですから、あまり実のある話はありませんでした。
また、油から発生した炎の鎮火の場合は、アルカリの薬剤を入れて油を固めてしまうという手があるらしいので、試してみようと思います。ただ、あの薬剤は使用に制限があったはずなので少し取り扱いが面倒になりそうではあります。お礼を済ませてから、図書館を抜けました。
『油脂の炎上を食い止めるというのは、ダンジョン内以外でほぼないですからほぼ使わないでしょう。揚げ物屋をするならば重宝するかもしれませんが、薬品の取り扱いの関係上、やるとしても大学に入ってからにすべきです。』
(そうだね。まぁ。今のところは構想段階にとどめてまとめておくしかないか。)
鍛冶ギルド図書館前にまで出てきたときにはまだおやつ時でしたが、お金がないので今日はおやつを食べられません。仕方なく家に帰ることにします。まだまだ検査の参加届の締め切りには遠いので、家で構想を練ることにします。
(昨日のお金の残りを使えばお菓子が……)
『あれは家賃用の貯金に回したでしょう。今日も貯金に回す分がないのですから節制しなさい。』
(はい……)
名残惜しいながらも家に向かって歩いていきました。
家に帰って、今日わかったことを書き出してみました。
・自力で魔法触媒作成をすることは可能。
・だが、魔法触媒はギルドで購入したほうが安上がり
・魔法触媒化は呼吸によってももたらされる。
・魔法触媒の養殖技術についての研究が魔法大学では盛んである。
・魔力が高濃度の場所ではダンジョン内外関係なく魔物が自然発生する。
・巻物の作り方
・魔引石はダンジョンの成り立ちに大きくかかわっている。
・燃える空気と燃えない空気があり、密閉空間で燃えた後の空気はすべて後者である。
・色で炎の温度は判別できる。
・炎に水や土をかぶせれば、温度を下げて空気が供給されなくなって火が消える
・油についた炎は、油をアルカリ薬剤で固化させることで消火可能。
この辺りから考えられることは、アルカリ薬剤の魔法触媒を作って消火魔法として完成させれば、自力で【ファイア】の強化をしても取り扱えるようになるということですね。魔法触媒として魔法ギルドで販売されているものに関しては自作で魔法触媒化する意義は薄いということですし、アルカリ薬剤の魔法触媒を魔法使いギルドに在庫確認だけでもしておきますか。もしなければ、魔法触媒を原料にアルカリ薬剤を作らなければなりませんね。司書さんが言うにはアルカリ薬剤は炭酸ソーダと消石灰の加熱で得られるらしいですし、何とかなるでしょう。魔法触媒のチョークがあったはずなので消石灰はそこから作成でいいとして、炭酸ソーダは一般のものでいいでしょう。魔法触媒100%にしなくとも、多少品質が落ちるとはいえ魔法触媒としての機能を有するはずです。
(さて、チョークを買いに魔法ギルドに行くとしますか。)
『お金ないですよ。』
(うぐぐぐ。仕方ない、司書さんに聞いたやり方だけまとめておきますか……)
魔法アルカリ薬剤の生成
使用薬品
炭酸ソーダ、消石灰あるいは生石灰あるいはチョーク(魔法触媒であること)、魔法水(②を行う場合)
①(消石灰および生石灰の場合はやらなくてよい)チョークを石窯で加熱することで生石灰にする
②(消石灰の場合はやらなくてよい)生石灰に水を入れてから、加熱することで水分を飛ばし、消石灰にする
③炭酸ソーダと消石灰を混合してから過熱することでアルカリ薬剤が得られる。
④水を入れた容器に入れてアルカリ薬剤を溶かして保存する。
※手についたら水で流し続けること
こうやるらしいです。アルカリ薬剤は危険なものらしいので、そもそも法的に大卒のみの購入が許可されているそうですが原材料なら買えます。ないならば作ってしまいましょう。
≪この作品はフィクションです≫
『一言付け加えておくと、生石灰に水を入れるとひどく熱を発します。そこのところも気を付けないといけませんよ。』
(そうなんですか……。取り扱いには厳重注意しないといけないんですね。アルカリ薬剤もそうですけど、魔法ギルドでも薬品系のお話は危ないものばかりですし、もうちょっと製造についても細かい規制があってもよさそうなものです。まぁ、この辺の話を統括するギルドがない以上、王宮が乗り出さない限り変わらないのでしょうね。)
『何かしらの大学で学ばない限り触れない知識ですからね。大卒ならば危険性はわかるはずですし、知識のないものと危険物との分離をすることには成功しているのですし、そういったところは王宮の配慮でしょう。』
(なるほどねぇ……さすがに王宮の人たちがバカってことはないかぁ。王族は大卒を義務付けられるし、王宮の雇用対象は大卒のみだというし当然か。)
『頭の中で思うだけならばいいですが、街中でそのようなことを口に出したら、不敬罪で捕らえられてしまいますよ。』
(はいはい。わかってますよ。そういえば、酒場で泥酔する冒険者にはたまにやらかす人がいるとは聞きますねぇ。まぁよほどじゃなきゃ強制労働一日だそうですし、王宮も心が広いですよね。)
『そうそう、そうやって考えておけばいいんですよ。』
(さて、肝心の新鮮な空気を送るという話ですが……風でも起こせばいいんでしょうか。)
『鍛冶などの現場ではふいごを使っているそうですが、大きなものを持ち歩くわけにはいきません。かといって小さなものでは効果は見込めません。』
『そして、風などの気象現象を魔法で再現することは魔法使いの最難題の一つとされています。大規模な範囲を魔力で操らないと自然現象と同様なものは作り出せませんし、そんな広範囲が魔法触媒化しているはずもありません。』
(望み薄って感じですね……燃える空気を魔法触媒化したとしても一瞬で燃えない空気に変わってしまうでしょうし、どうにもなりませんね。となると、気象を予測して風の適度な日にやるのが一番でしょうか。)
『そうなってしまうんでしょうね。大きいふいごが携帯できればだいぶ違うのですが、まあ無理な話ですね。土魔法でやるにもちょっと規模が大きすぎますね。魔法触媒化した土を持ち歩くわけにはいきませんし。』
(土魔法による建築かぁ、あれは設計図を完璧に思い浮かべないといけないし難しいんですよね。そして、風に関係する建築というと風車ですかねぇ。といっても、あれは受ける側ですが。)
『そうだ、それです!』
頭の中にご老公の声が響きました。大声を出されると外に出ない分頭の中でとどまり続けるような感覚があるのです。
(どうしたのですか。大きな声を頭の中に響かせないで下さいよ。)
『風を起こすために、こちらが風車を回せばいいんですよ!』
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