第2話

【王立魔法大学特待生制度について】

二月にそれぞれの町の魔法使いギルドにおいて、所属者のうち希望者に対して魔法適性検査を行います。これによって特に高い魔力の素質が確認できたもの一人に対して、四月に魔法大学へ進学してもらいます。この対象になった方は王国負担で入学料・授業料・生活費を免除します。また、好成績で卒業した場合は王国が職業を必ず斡旋いたします。適性検査は無料で行いますので、希望者は魔法使いギルドに十二月までに参加届を提出するようにしてください。細かい日付は申し出たものにのみ、追って連絡します。



「これは……。」

『ほほう……?今までの魔法大学からのアナウンスにはこんな内容はなかったはずです。もしかしなくとも、王国は才ある人を発掘したいのでしょう。』

(なんで今更こんなことを……?いやありがたい話なんだけれども……。)

『今の王宮は、久方ぶりに王子が優秀な魔法使いとのことです。王子が生まれたときに、王は魔法使いとしての高い才能があることを王国全土に知らせていました。あれから十年は立ちますので、王宮の教育ならばそろそろ魔法大学に入学するに十分な時期でしょう。次の四月に王子が魔法大学に入学すると仮定すると、その時の入学者に王子の学友として優秀な人材が欲しいのは事実。貧富関係なく、素質が高い魔法使いを発掘するための布石といったところですかね。魔法使いの適性があるものならば魔法使いギルドに所属するだけである程度の生活はおくれますから王都まで行くくらいはできます。そのため、広く対象を取ったのでしょう。』

(なるほど……?)

『先ほどの一枚目もよくよく見てみると、奨学金制度の募集条件が去年のものよりだいぶ緩くなっています。……まぁ、どのみち借りられないんですけど。』

(もしかして、もしかして……。私でも魔法大学に入れる……?)

『おそらく、狭き門ですがね。この募集条件ですと誰もが応募できます。本来の適齢期の時期に入れなかった、あなたより年上の境遇の方。ほかにはお金持ちのご子息でも、落ちるの前提で受ける方もいるでしょう。』

(でもでも、こんな町の魔法使いでそんなに多くの希望者が出るとは思えないし、すでに要職についてる人たちは仕事を辞めることを周りが許さないはず。だから、そこそこ才能があって身元が保証されてなくて非正規雇用の私は勝ち組!!!!)

『……たしかにその通りですね。ただ……』

(ただ……?)

『そういうのはやめましょう。空しくなりますから。』


『適性試験自体は無料なのですし、やらない理由がないでしょう。すぐに参加届を出しに行きますよ。』

「もうだいぶ太陽が沈んできてるね……」

木窓を開けて、少し体を乗り出して空を見上げると太陽はだいぶ地平線に近づいてきていました。魔法使いギルド自体は夕暮れまでやっていますが、これ以降の時間は住宅街に暗い場所が増えて犯罪が多くなります。市街地付近というわけでもないので家から出るのは危険です。

「今日はもう休もう。明日仕事後にギルド会館にいけばいいでしょ。」

『通るって決まったわけではないですよ……。』



朝。日が出てから少したったころ。

軽食を屋台でとり、魔法使いギルド会館前の掲示物を眺めに行きました。

短期の仕事が張られていたり、会費の集金時期について書かれていたり、この季の標語が張られていたり。どうやら昨日は事故者の一人も出なかったようです。魔法使いの業務なんてのはそうそう事故するような業務でもないですが、工場勤務の人とかはたまに怪我をするらしいです。あと、冒険者としてダンジョンに潜った場合はこちらではカウントしないそうで、冒険者ギルドで毎日でる怪我人の一人に数えられるそうです。話はそれますが、魔法使いギルド労働災害保険制度というものがありまして、これは魔法使いギルドが直接斡旋した業務にのみ適用されます。会費と中間マージンだけで運営されている魔法使いギルドにおいて、労災が成り立つのは怪我人が出ないからでしょう。例外である工場勤務は冒険者ギルドからのヘイトを下げるのが主目的なので危険がある分福利厚生はばっちりです。お給金も高いらしいですが、工場は大学卒しか採用してくれないため、私からすると天上人です。


冒険者ギルドの清掃業務はお昼過ぎからなので、まだ時間には余裕があります。そろそろ空く魔法使いギルド付属図書館にて月間「初心者脱却!魔法技術の伸ばし方」を読みに行くのです。雑誌なので貸し出しされていることはないですが、大学入学レベルの内容を維持しているので教本として高い人気があります。早くから入らないとほかの人に取られてしまいます。八月末ということで、九月号が入荷したはずなので、今は特に競争率が高いのです。さすがに開始時刻から並んだこともあり、一番に取ることができました。さてさて、私は魔法大学に受からないと人生詰んでるんだから読まねば……。


コラム:~天然魔法触媒の必要性とは~

 魔法触媒を用いることで、内なる部分にある魔力を魔法の形にするところまでは読者の皆さんも当然ご存知だと思うし、魔法触媒としての性能の高さが産出地の魔力濃度に応じて良くなることもご存じだと思う。

 ただ、なぜ通常の炭に人力で魔力を当て続けて魔法炭にしないのかという疑問を持たれる方は当然おられるだろう。実際に丸一日魔力をかけ続けた炭は魔法炭と同等の性能を持ちますし、ほかの触媒も同様の方法で作ることはできる。安定供給することもできるようになるこの業務は、魔法使いの仕事として存在しても何らおかしくない。だがしかし、魔法使いの人数の少なさからこの業務は行うことができないのだ。古いデータだが、王国全体の魔法使いの数の八割を労働人口にあててようやく、需要にあった分の魔法使いの労働力が得られるとされている。王国に魔法使いのサポート役の魔法使いを作る余裕はないのだ。魔法使いギルドに入ったときに、素直にギルド経由で購入したほうがいいといわれるのはこのためだ。実際魔法使いギルドから魔法触媒を買う時の値段は、人力で魔法触媒を作成した時の労働に見合った対価よりも低くなるように設定されているため、自作するメリットはほぼない。

 これをみてもまだ、研究を進めることで短時間で人工的に魔法触媒を作成することができるのではないかと考える者が魔法大学によくいるが、とある手法を除いて無意味な挑戦といっていい。それは、生物の魔力の吸収は呼吸によってももたらされるため、生きているうちのほうが圧倒的に高効率で魔法触媒化できるからだ。そのため、ダンジョン低深度で養殖をする以外に人の手を介在させて魔法触媒を作成することはほぼ無意味だ。高濃度魔力発生設備を作るという考え方もあるが、最早それはダンジョンを新しく想像することと同じで、設備付近に魔物を生んでしまうため禁忌とされている。

 高い安全性の養殖場をダンジョン内に作って安定供給をする研究は現在の魔法大学のトレンドで、多数の学位論文がこの内容で提出されている。特に高い効率で養殖に成功した論文からは、ダンジョン全体の魔力量が平衡状態になったという報告も得られているため、ダンジョンの脅威を弱めることのできる一手として注目されている。


特に提供者が書かれていないため編集部の書いたものと思われますが、魔法大学のトレンドについて書かれているあたり近年の卒業者が書いたのでしょう。

(なるほどねー……。確かにこれは妙案といえますね。魔法濃度を高めないということは、ダンジョン全体の魔物の総力が一定になるということでダンジョン付近が人間にとって安全な場所になります。)

『……ただ、局所的に共食いをしたりされて一個体が強まる場合が……』

(ご老公、それはそうそう起きることじゃないって聞いたよそれは。安心しなって。)

続きを読み進めていきます。


小遣い稼ぎ?魔法具の基本巻物の作り方。

もっとも単純な仕組みである単発式魔法具の巻物の作り方についてここでは説明します。まず、巻物は魔力を通さない素の巻物と魔力と水を遠さないシール二枚で魔法触媒と魔法水を封じたものです。巻物の裏面から刃物で突き刺して風穴を開けることで、魔法水と魔法触媒が混ざり魔法を発動させます。しかし、魔力を遠さないシールが高額であるため、駆け出しの魔法使いにはなかなか手の出せないものです。一部の魔法がダンジョンの中層以降を攻略するカギになるため、巻物は高位の冒険者に珍重されます。そのため魔法使いギルドには冒険者ギルドから高い報酬金の依頼が毎日来ます。材料はすべて魔法使いギルドで手に入るのでごひいきに。

①まず素の巻物の片方の面に魔法触媒を塗り付けます。触媒の量で持続時間が変わるので、作成するスクロールの用途に合わせて分量を調節して塗り付けてください。

②魔法触媒が余裕をもって隠れるようにシールを張り付けて密閉します。

③もう一枚のシールを一部隙間を残して貼り付け、水を注ぐか、魔法水を注ぎます(推奨)。水を注いだ場合は魔力を水に注ぎます。

〈ここで燃料となる魔力石を入れておくと威力が上がりますが任意〉

④シールの隙間を封じて完成です。

※この原稿は魔法使いギルド販売部からの提供となります


定期的に乗ってるやつですね。見飽きてはいるのですが、このレベルでの必須技能なのでこの雑誌には必要なのでしょう。要するに、貴族や商人の魔法使いなどの金銭的に余裕のある者向けのバイトです。そのくせ高額気味なのは納得がいきませんが、素材そのものが高価らしいのでどうにもなりません。工房だけはあるので、ひと月でも家賃を払わずに済んだらできなくはないのですが。

(正直材料費さえあれば作れるのですが……お金がないってつらい。)

『まぁ仕方がないです。大学に入れば金回りもよくなっていろいろできるでしょう。』



記事についてのメモを取りながらすごしていると、正午のベルが鳴りました。早めに冒険者ギルドに到着して、お昼時が過ぎたら一気に清掃業務をしなければなりません。いくら短時間で終わるとはいえ、仕事に遅れたら減給は免れません。それだけは避けないといけませんので、冒険者ギルドに向かいました。


「ふむ……彼女が1人目か……」

誰かの声が後ろから聞こえた気がしましたが、まぁ気にせず現場に向かうとしましょう。


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