天涯孤独だけど頑張って魔法研究者めざします!

お昼寝マン

第一章 この魔法使いがこの先生きのこるには

第1話

太陽が昇り切ってから少したったころ、とある街の中心街


「今日の実入りはこれっぽっちかぁ……貯金はできそうにないな……」

ほんの少しだけ膨らんだ革財布を見ながら少女は言った。

『あれだけ無理をして赤字にならないだけ、ましなのですよ。授業料と思えば安いものでしょう。しかしあなたはいつも……』

少女の頭の中にたしなめるような声が響いた。

(わかりました、わかりましたよご老公。次からは気を付けますから……)


「さて、今日のお仕事は終わったしお菓子でも買いに行きますかねっ。」

『あなたさっきの話全然聞いてないでしょう、今から反省会をしますよ、甘いものはそのあとで』

少女の頭の中がお菓子のことでいっぱいになると同時に頭の中の声は消え去った。



 その声は私が物心ついたころにはすでに聞こえていました。少ししゃがれた、老いた男のような声で、こちらにどこからか知らないが声をかけてきます。不思議と頭の中に響くこの声はほかの人には聞こえないらしく、大声を張り上げられた時も周りの人は振り向きさえもしません。奇妙な隣人です。これ以外にこの隣人についてわかっていることは、私の伝えようとしたことは声として口から出さずとも伝わることと私の外には干渉することができないということ、そして何かに私が集中すると一時的に現れなくなるということくらいです。世話焼きな人格らしく、何かあるごとに私のすることに口を出してきます。もちろん私の生活に役立ってくれていることは間違いないのであって、親しみを込めてご老公と呼ぶことにしています。ただちょっとしつこいのがたまに傷です。

 この日もいつもと同じく、ご老公に習った魔法を使って稼いできました。どうにもご老公は声に似つかわしく知識と知恵は人一倍あるらしく、私に魔法を使う適性があると気づくと徹底的に私を鍛えてきました。おかげで今では、魔法を使うために毎度かかる経費を含めても黒字になる程度に稼げるようになっています。



「今日は何にしようかな~。ちょうど今リンゴが安いらしいし、アップルパイとか安く売ってそうだな~。」

「でもクレープも捨てがたいんだよね~。」「困ったなぁ……。」

市場までたどり着いて私は、出店している甘味の出店を比べ見て決められなくなってしまいました。あちらを立てるとこちらが立たない程度の黒字であるため私はどちらかを捨てなくてはなりません。そうして悩み続けて、長いこと頭を抱えていると……


「嬢ちゃん、よく買ってくれてるからサービスだ。一つもってけ。」

焼き菓子を売っているおじさんがいつまでも悩んでいる私を見かねて言ってくれたらしいです。

「ほんと!おじさん太っ腹だね、ありがとう。」

ただでくれたおじさんに、お返しとしてできる限りの笑顔でお礼を済ませました。景気のいいことを言ってくれましたが、奥さんに叱られないでしょうか……ちょっと不安です。


お金が浮いたので今度こそクレープを買おうとして出店に向かうと、

「お嬢さん、あんまり今日の実入りよくなかったんでしょう。次の機会に使える割引券をあげるから、その分は貯金しておくといい。」

 財布を取りだした私を見て、クレープ屋のお姉さんが言ってきた。

 魔法使いである私は比較的運動量が少ないから、二つもお菓子を食べたら太るんじゃないかと心配してくれているのでしょうか……?まぁお財布を見てから言っているあたり、おそらくは本当にお財布事情を心配していってくれているのでしょう。割引券を渡しておいて次に買いに来るとすれば、十分な儲けになると踏んでいるのは確かでしょうけども。

 癪ですが貯金をしておきたいことも事実なので、お姉さんに割引券をもらい軽く会釈をして市場を後にしました。


(これでそこそこ貯金できるよ!だからご老公……反省会はいらないよねっ?)

『そんなわけがありますか!先ほどはよくも途中でパスを切りましたね。みっちりお説教です。』

(そんなー。)

こんな日々がいつもの私の日常です。



 町の中央近くにある市場を抜けて、小さな建物が乱立した居住区のはずれに私の家はあります。まだまだ非正規雇用である私は、貯蓄したお金で魔法使いギルドから借家の契約をしています。辺鄙なところにある家で狭苦しいですが、なんと前に住んでいた人が何か作っていたらしく工房があります。所属ギルドの関係上大して珍しい物件ではないのですが、私の稼ぎで入れる物件としてはとても好物件といえます。


 ポストに魔法使いギルドからの手紙が入っていたため回収し、鍵を開けて部屋に戻ってきました。まず装備をはずした後、外出して汚れた体を【クリーン】の魔法できれいにします。こうすると病気にかかりにくくなるというご老公に教えてもらった知恵です。

 【クリーン】といえば、今日の仕事は冒険者ギルドの掃除とごみの焼却でした。冒険者ギルドのロビーはダンジョンに潜って汚いままに完了報告などをする荒くれ物であふれるため、常に汚れが酷いことになるのです。放置しておくと衛生上よろしくないので、魔法使いギルドに清掃業務を委託されているのです。

 【クリーン】と【ファイア】の初級魔法を用いて清掃とごみの焼却をするこの作業は魔法使いであればだれでもできる作業ですから、魔法使いの仕事としては最下級です。が、時給換算するとだいぶ割のいい仕事です。なぜなら魔法を使うことで必要時間が大幅に短縮できること、【ファイア】による焼却は魔法使いが止めようと思えば止められる安全性の高いものであることが挙げられます。また、魔法を使うのには学も必要ですが何より才能がものを言い、初級魔法を使えるものですら数百人に一人といった具合です。実用上便利なレベルまで伸ばせるのはごく限られた天才か、大金持ちにお抱えされた魔法使いくらいで人材そのものが不足しています。

 長くなりましたが、魔法使いは高給取りになるようにできています。それは難易度の高い仕事を受けるほどに強まっていきます。魔法使いはいかにして金をふやして良質な装備や触媒などにあててさらに高給取りな仕事につけるようにするかのサイクルを続けるのです。


「アップルパイおいしい。」

(あなたは【クリーン】はいいとしても、【ファイア】を使うときに消費する魔法炭の消費が多すぎるのです。あれはダンジョンに自生する木からしか作れないのですから高いのです、できる限り短時間で対象を焼却しなさい!魔法を長時間使い続けると魔法炭も燃え尽きてしまいますよ!)

 ダンジョンからとれる素材は、外に比べて高濃度で存在する魔力の影響で魔法の触媒としての性能が高くなります。当然魔法使いはダンジョンでとれる素材を欲しがりますが、魔法使いは安全圏での自らの鍛錬や研究に時間を費やしたがるもので、ダンジョンを代わりに潜る冒険者の方がいるのです。当然魔法使いにも冒険者まがいのことをする方もいらっしゃいますが、よほど高効率で上質な素材を狙わない限り安全圏で魔法使いとしての魔法使いにしかできない仕事に励んだほうが賢明とされます。

 魔法使いではなくてもなれる冒険者は人数が多く、素材のために魔法使いギルドから総計で見ると多額の報酬金が支払われるのですが、冒険者ギルドの一人当たりの稼ぎは薄給になります。冒険者に恨まれつつも魔法使いギルドは冒険者ギルドに強く依存しているのです。イメージ向上のために、魔法使いギルドは冒険者ギルドに対して魔法を使うことのできる消費式のアイテム、通称魔法具を販売したり、武器防具の強化を請け負うことでお互いの感情を適度になるようにしているのです。


「このアップルパイいつもより酸味がつよいな……。」

『聞いてますか!?やる気あるんですか?そんなんじゃいつまでたっても掃除機ですよ!』

(人扱いですらないのかー……。)

実際私の仕事は二年たった今でも掃除業務ですし、反論はできません。このままでは掃除機のまま人生を終えてしまいます。長期間続けられて安全なだけましとも言えますが、さすがに少しは上のランクの仕事がしたいです。しかし身元のはっきりとした育ちでもないので、パトロンになってくれる方の一人もいません。そのために生活費と経費でカツカツな日々を暮らしています。もう少し貯金がたまれば工房を使って魔法具が作成できるようになるのですが……。嗚呼、だれか割のいい仕事をくれないかなぁ……。


「まぁ、本気で増収を目指すならどこかしらの大規模な商会に雇ってもらって経費で落とすことなんですが……、枠があかないのよね……。」

危険な業務が少ないせいで魔法使いは高齢者になるまで労働者です。世代交代のスピードが遅いってもんじゃありません。そして、そろそろ空きそうな枠は狙っている人が何人もいます。

「かといって、ほかの町に行ったところで仕事が待っているとも限りませんし……。」

どこだって仕事がないです。この街に限ったことではないです。

「軍隊の魔法部隊への入隊は、制限が大きいので正直嫌ですし……。」

訓練生期間は本当に厳しいらしく、甘いものが食べられない日が発生しかねません。そうなったらこの世の終わりです。

「私でも安定してよい方向にすすむには、資金をある程度ためて王都にある魔法大学に入学するしかないんですよね……。」

いつになったらそんなお金がたまるのかとか考えちゃいけないです。

『いつになったらそんなお金がたまるとおもいます?溜まりませんよ?』

(はい……。)


「そういえば手紙が届いていたんでしたね……重要書類だと困りますしさっさと見ておきますか。」


【王立魔法大学進学向け奨学金のお知らせ】

「嫌味か!」

保証人になるような人はいないのです。いたらこんな生活してません。

『あれは……、どうやらもう一枚あるようですよ?』

床に投げつけるともう一枚重なっていたようで、手に取ってみました。

【王立魔法大学特待生制度について】

「これは……。」


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