第7章

「消え、た…?」


 カナが現状把握に戸惑っていると、マゼンタがいきなり声をあげる。


「クラルテ、お前のその尽力に応えるため、俺はこいつを完膚なきまでに潰してやろう。」


 真紅の剣と盾を構えるマゼンタ。


「……今はただ、目の前のことだけ考えなさい、か。」


 カルチェの言葉を思い出しながら、カナもまた構えを取った。その場に緊張が生じる。

 その雰囲気に堪えきれなかったのか、天から啼くような雨が降ってきた。



 それが、合図となる。



「いくぞ。」


 炎そのものが形作る武具を手に、一気に距離を詰めてくる。そして、腰を狙った凪ぎ払いが放たれる。


「う……ぐぅ……!」


 かろうじて半透明の魔力板で受け止める。しかし徐々に押されていき、とうとう最後には剣を振り抜かれてしまう。


「がぁ!?」


 勢いで飛ばされ、濡れた地面に背中を打つ。しかし、間髪入れずに炎の剣が斜めに降り下ろされる。


「喰らえ。」

「わわっ!」


 横に転がり、なんとか剣の軌道から外れることはできた。しかし服は全身ずぶ濡れ。

 転がる勢いで素早く起き上がる。


「チッ…。」

「冷た………でも、ちゃんとみえる。」


 かなり危なっかしいが、それでもちゃんと剣の動きを見極め、回避ができていることを実感する。これが魔力の加護……いや、能力補正とでも言うべきか。


 その後も、剣が振られては防ぎ、避けるといった一方的な攻防が続いた。

 一方的にやられながらも、様々なことに気がついた。

 まず、相手は火炎弾のような、飛び道具を使ってこない。例の炎龍のことを思えば、それぐらい造作のないことだろうが、どうしてもこの森や草原を燃やしたくないらしい。

 つまり、相手の手数は限られている。

 そのすべてを把握すれば、もしかしたら反撃のチャンスがあるかもしれない。

 そう、思った矢先だった。


「ハッ!」

「え、あ、え?」


 大きく振りかぶった剣を、構えた半透明の板で弾こうとする。

 しかし、突き出されたのは剣ではなく、もう片方の手に装備された盾。

 お互いの盾と盾がぶつかり合い、鈍い音が響く。

 そして、先ほどまでと同じように、力負けして上へと薙ぎ払われる。

 万歳をさせられた格好になり、がら空きの腹部を狙い、剣が呻る。


「終わりだ。」

「……まだぁ!」


 だが、その斬撃も見極め、緊急的に後ろへと飛び退く。

 しかし、降りだしていた雨によって草が濡れ、ほんの少し足元が滑った。

 その結果、皮膚が傷付けられることはなかったが、着ていたシャツが縦に斬られ、華奢な身体があらわとなる。


「フッ、すまないな。乙女の服だけを斬ってしまうとは。次は身体ごと斬ってやる。」


 炎に当てられ、焦げてしまっているシャツの断面をさすりながら、その言葉を放った相手を睨みつける。


「心配しなくてもいい……ぼくは、男だ。」

「何?」

「ぼくは、男だあああ!」


 叫びながら相手に突進する。初めて、こちらから仕掛けた。


「へえ。そうは見えないが。」

「うるさあい!」

「激情に身を任せるのは、感心しない…な!」


 盾をぶつけようと思いっきり突き出した腕は軽くあしらわれ、そこに生じた隙を見逃さず、腹部に蹴りを叩き込まれる。


「あ、がっ!?」


 その勢いに、華奢な身体はあっさりと宙に浮いた。

 しばらく後、背中に衝撃が走り、地面に叩きつけられたと気づく。

 そこに草の感触はない。先ほどクラルテが脱ぎ捨てたあの黒いローブの上に墜ちたのだ。


「つぅ………まだ、まだぁ!」


 力を込め、立ち上がろうとする。しかし、その意志を否定するかのように、ふたつの脚は身体を支えない。支えられない。


「あ、あれ?」

「魔力の使いすぎだ。形状維持にも魔力は消耗される。そんなことも知らないのか。」

「知らないよ!」

「結局は付け焼き刃、か。」

「なんで? 疲れてなんかないのに、なんで身体が、動かないの…?」

「魔力と体力は違うものだ。しかし、身体を動かすにはどちらの要素も必要。こんなことも知らないとは、もはや笑えてくる。」


 冷笑とともに、こちらへ歩み寄ってくる。


「最後は、あっけないものだったな。」

「動け、動けえ!」


 すると、その声に応えるように、急に動き出した。

 墜落された空飛ぶ機械たちのプロペラが。


「お前らじゃなあい!」

「なんだ…?」


 剣をその場から消し、左腕のデバイスを開いて確認する。


「再起動、か。こちらとの接続も正常。ジャミングが解けたのだろうな。丁度いい。」


 そして、再び浮遊した全ての機体に取り囲まれる。上部に装備された銃口を携えて。


「今度こそ、終わりだ。」


 命令のためにデバイスへと手が伸ばされる。




「―――いいですか? あれらのコアは底面中央にありますからね。よく狙って。」

「はい。」


 一発の銃声。そして、何かが割れる音がした。


「そうです。お上手ですね。」

「うつの、とくいだから。」


 その後、取り囲んでいた飛行機械の一つが、低くなっていくプロペラの音とともに、二度目の墜落を果たした。




「な、んだ…?」


 そして、また銃声が響く。今度は二発。

 そして、やはり堕ちていく二機。


「あそこかッ!」


 銃声がした場所を聞き分け、その方向へと向かうように指示を出す。

 しかし、そこへ飛んでいく間に、機体の半数は墜とされた。墜ちた分だけの銃声とともに。

 だが、そんなことにはお構いなしに、森との境界線の手前まで辿り着いた機体は、一斉射撃を開始した。


「大丈夫ですよ。射撃に専念しなさい。」

「はい。」


 しかし、乱射された弾は、森へ入る前に、それぞれが小さな白い光によって霧散された。

 結局、森への侵入を許した弾は、ただの一発も存在しない。


「自身の炎で燃やすことはなくても、森を銃弾で傷つけるのは構わないのですね。なんて中途半端なのでしょう。」


 その間にも、次々と機体は墜とされていく。


「くそ! なんだ、何がいる!」


 焦る声がする。倒れているカナには、その慌てる声と銃声とプロペラの音しか聞こえない。


「何が、起きているんだろう…。」


 とりあえず危機が去ったことで、少しだけ余裕ができていた。依然起き上がれないままだが。


「にしても、さっきから、なんか、気持ち悪い…。」


 胎内で何かがうごめく感覚が、また襲ってきた。


「これって、確か、あの時と同じ、だよね。」


 思い出したように、自分の下敷きになっている黒ローブをまさぐる。

 そして、内ポケットからそれを見つけ、取り出す。


「これ、か。」


 それは、あの尖った黒いカケラのようなもの。触り心地は水晶を思わせる。

 黒色ながらも透き通ったそれは、まるで夜が結晶になったかのようで。


「これを…。」


 そのカケラを、天に向かって掲げる。そして、しっかりと両手で握りしめる。

 これが何なのかはわからない。でも、使い方はわかった気がした。


 ふと、あの日見た夢を思い出す。



―――――怖がらないで


 何を、言って…?


 それは、アナタが持つべくして持つカケラ―――――



「ぼくの、カケラ…。」


 そして、掲げた結晶を、自分の胸に、突き刺した。



     §     §     ★     §     §



 気がついたのは、その少し後のことだった。

 自分が部下に渡したはずのあのカケラが、今、倒すべき敵の胸板に刺さっている。


「う……ぐぁ…。」

「お前、まさ、か…。」


 突如、半分が埋まっているカケラから、強烈な光が放たれる。

 目が眩むほどの光が収まった時、そこにカケラの面影はなくなっていた。それどころか刺さっていた傷跡すらなく、ただただ相手が倒れているだけだった。

 そして、先ほどから降っていた雨も、まるで嘘だったかのように止み、青空が広がっていた。


「あれは、俺が研究所から持ち出したもの、だよな。秘密の実験で作られた、とある結晶のカケラの一つ。……それを、胎内に取り込みやがった、だと?」


 謎の狙撃手のことは意識の外に追いやり、仰向けの相手へと向き直る。


「あの結晶は、あの色を再現させるべく作られた、魔力結晶。やはりこいつは、伝説の再臨実験の被験体…?」


 炎の剣を再び装備し、目を細め、睨みつける。


「全てを覆い尽くす、『夜』の色、か。面白い。」


 相手は今、起き上がった。



     §     §     ★     §     §



「――――動ける。」


 立ち上がって最初に思ったのは、そんなことだった。

 カケラを刺した胸元をさする。傷跡すらないその箇所は、痛いわけでも違和感があるわけでもなく、至っていつもどおり。

 ただ、身体中に、なにか心地よいうねりが感じられる。それが何なのかは、直感で理解した。


「これが、魔力。」


 そして、真剣な眼差しでこちらを睨む炎の剣士を睨み返す。


「やらなきゃ、やられる。」


 その一心で、右の手のひらをゆっくりと突き出す。


「思いだせ……真似を、するんだ。」


 嵌めてある指環が輝き始める。


「真似は得意だから、やれるはず……いや、」


 剣士は動かない。こちらの出方を伺っているのだろう。


「やるしかない!」


 指環の輝きがいっそう強くなる。

 そして、右の手のひらから、剣士に向けて真っ直ぐに、漆黒の槍が飛ばされた。

 構えられた盾がそれを受け止める。その矛と盾が交差した瞬間、そこに衝撃波が生まれた。


「ぐっ…。」


 その衝撃すらも盾で受け止める。しかし、飛んできた槍は一つだけではなかった。


「まだ、まだぁ!」


 右手から、何発、何十発もの槍が飛ばされる。

 その全てを盾で受け止める。右手に握られていた剣も盾へと形を変え、剣士は両手で守りに徹していた。

 だが、少しずつ、その守りは崩されていった。後退していく剣士の足が、そのことを示している。


「あと、すこし…。」


 右手で黒槍を放ちながら、ゆっくりと、左手を天へと掲げる。


「いっけえええええ!!」


 剣士へ向けて、まっすぐと振り下ろされる左手。

 瞬間、耐えきれなくなったのか、指環が砕けて弾け飛んだ。

 魔力を形にする補助道具が消滅し、槍は形成されなくなる。

 しかし、胎内のうねりの勢いは削がれることのないまま、両手へと流れていく。

 一気に、凝縮された魔力の塊が出現する。


 その塊は、まっすぐと剣士の元へ。

 放たれた勢いにより、やじりのように変形しながら、炎の盾へと衝突し、そして、貫いた。

 どこまでも純粋なその力は、剣士の腹部で大きく炸裂し、衝撃を打ち込んだ。

 声にならない嗚咽とともに、剣士が仰向けに倒れていく。


 その時、悟った。勝ったのだ、と。


「は、はは………やっ…た…。」


 そして、勝者もまた、力を失い倒れていく。






「カナ…っ!」

「あらあら。魔力の使いすぎですね。」


 敗者であるマゼンタはそのまま地面に倒れ、勝者であるカナは、駆け寄ってきたルナに抱きとめられる。その手には、あのログハウスに飾られていたライフルが一丁。


「おつかれ。」

「あ、ありがとう……でも、どうしてここに…?」


 必要以上にきつく抱きしめてくるルナの代わりに、ルナと一緒にいたキークが応える。


「ルナミカさんは、先ほど私の家にやって来ましてね。ライフルを貸してくれと言うものですから、簡単に事情を聞いて、私と一緒という条件で貸してあげることにしたのです。」

「でも、キークさんがいたから、ここまでもどって来られた。」

「へぇ………あ、り、リノはっ!?」


 憔悴しきっていたあの小さな精霊を思い浮かべる。


「安心なさい。私の家でゆっくり休んでいますよ。」

「そう、ですか。よかったぁ…。」


 大きく息を吐くカナ。

 リノと、そして戻ってきてくれたルナがいなければどうなっていたか。それを思うと背筋が凍る。


「本当に、ありがとう…。」

「ううん。こちらこそ。」


 やさしく抱き合うふたり。その姿はやっぱり姉妹のようだとキークは思ったが、口には出さず、ただ穏やかに微笑んでその光景を眺めていた。


「…………うぅ…。」


 突然の呻き声に、その場の全員が振り返る。

 地面に仰向けで倒れているマゼンタは、声こそ発しても、身体が動くことはなさそうだった。

 ルナに肩を支えられながら、近くまで歩み寄る。


「ハッ…なんだ、哀れみか?」

「違うよ。」


 ここで、カナは疑問に思っていたことをぶつけることにした。


「ねえ、精霊への恩義って、なに?」


 しばらく黙った後、マゼンタはその口を開いた。


「……俺は、あの研究所での戦いに敗れ、この《島》に逃げてきた。その時に、この森の精霊たちに手厚く世話をしてもらったのだ。それこそ、命を救われたと言っても過言ではない。」

「そのお返しに、この森を壊そうとする人間たちに攻撃をしたのか。」

「ああそうだ。森の精霊たちは、この《島》の人間に手出しすることができないのだからな。俺がかわりにやってやった。といっても、俺の独断だ。頼まれたわけじゃない。」

「それでも、精霊たちはあなたの居場所をサックスさんに教えなかったのか。サックスさんは、あなたを止めようとしたから。」

「仕方があるまい。俺のやり方がどうれあれ、人間に対抗する唯一の手段だったのだ。止めさせたくはなかったのだろう。」


 精霊たちの滑稽さが浮き彫りになる。ある意味では結局、人間への攻撃は精霊たちの意思だったのかもしれない。


「ふうん。まあ、いいや。そんなことは。」

「なんだと…?」


 マゼンタの声に怒気が混じる。


「いや、よくはない。けど、そんなことはぼくがどうこう言えることじゃない。ぼくが言いたいのは、別のこと。」


 カナの視線が、真剣なものになる。ずっと抱いていた疑念は、もはや確信へと変わっていた。


「恩義を感じる人は他にいるでしょう。」

「どういうことだ?」

「どうやってこの《島》まで逃げてきたのさ。」

「それは、クラルテの魔法で…。」


 そこまで言いかけて、黙りこむマゼンタ。


「そっか。クラルテって名前なんだね、あの子。」

「だが、それは、俺をボスとして慕っていたからこそ…。」

「あの子が女の子だって、知ってた?」


 言葉を遮られ、息を呑むマゼンタ。やがて、言いにくそうに話しだす。


「それは、知っていた。前に、あいつがサラシを巻いているところを、見てしまったことがある。」


 そして、さらに言いにくそうに、言葉を続ける。


「あいつが、俺のことを異性として好きであるだろうことも、知っていた。」

「だったら、なんでその気持ちに応えてあげないの!?」


 今度はカナの言葉に怒気が混じる。

 かなり長い沈黙の後、マゼンタが語りだす。


「俺は、恋愛恐怖症なんだ。昔は情熱の赤とまで言われたこの俺が、幼馴染に一度拒絶されただけでこのザマだ。それ以来、女性と一緒の空間で過ごすことすら苦しくなったんだよ。」

「だから、あの子はあんなに黙っていろと……。」


 必死な顔で叫ぶクラルテを思い出す。


「でも、あの子とは、あの子が女の子だってわかった後も、一緒に過ごせたのでしょう?」

「確かにな。あいつとは、なんか、一緒にいても、大丈夫だった。でもそれは、そういうのとは違うだろ。熱くもなんともない、あんな穏やかなものは…。」

「それでいいじゃないか。情熱的じゃなくても、そんな関係はあってもいいはずだよ。しあわせ、だったんでしょ?」


 諭すような言葉に、マゼンタは完全に言葉を失い、ただ静かに空を見上げていた。

 目に入るその色は、まさにクラルテの色。

 しばらくして、カナの方を向き、小さく言葉をこぼす。

 その瞳は、少し揺らいでいるように見えた。


「俺は、愛されて、いたのか?」

「愛かどうかは知らないけど、恋だったことは確かだよ。」

「そうか…。」


 そして、また空を眺める。


「何をしていたんだろうな、俺は…。」


 穏やかな風が吹き抜ける。森はまた、やわらかな静寂に包まれる。


 かなりの時間が立ち、マゼンタがきつく目を閉じた。


 その様子を見て、カナが声をかける。


「罪は、償えばいいと思うよ。だから、この《島》の人達とも、お話してみたらいいと思う。」

「それは―――」


 閉じられた目が、急に大きく見開かれる。


「できない。」


 その眼差しは、あの夜、地下の祭壇で見せたものと同じだった。


「それは絶対にできない。自分たちのことは棚に上げて、この森を犯そうとするあいつらは、絶対に、絶対に許していられるかああああ!!!」


 仰向けのまま、叫びだすマゼンタ。その迫力に押され、思わず後ずさるカナとルナ。

 そして、マゼンタから一筋の赤い光が天へと放たれ、弾けて分散する。

 その瞬間、青空一面に、端が見えないほど大きな赤い紋章が展開される。


「俺の全てを賭してでも、あの人間どもを燃やし尽くしてやる!!!」


 紋章の規模に圧倒され、言葉を失うカナとルナ。


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 輝きが増していく巨大な紋章。その輝きに怯えるように、足元の地面も震えはじめる。


 しかし、それが長く続くことはなかった。


「おおおおおおおおおおおおああぁぁ……――――」


 突如、叫び続けるマゼンタが黒い光に包まれる。

 取り囲む輝きが増すごとに声は遠くなっていき、光が消えた時、そこにマゼンタの姿はなかった。


 あっけにとられていると、しばらくして、キークが小さく呟く。


「《因果ゼクス》、ですか。自然の流れを犯しすぎたのでしょう。無理もありませんね。」


 しかし、その内容はカナたちに理解できるものではなかった。


「え、あ、あの……ゼクスって…?」


 カナが恐る恐る訪ねようとした瞬間、主がいなくなった上空の紋章が、淡い光の粒となって散りはじめた。

 その赤く煌めく粒子は、青い空によく映える。


「気にしなくても大丈夫ですよ。神の裁きみいたいなものです。さあ、帰りましょうか。」

「え、あ、は、はい…。」


 何事もなかったかのように帰ろうとするキークに、しつこく尋ねるなんてことはできなかった。

 しかし、その後を追おうとして、一つ気がつく。


「あ、でも、ぼく、動けなくて、その…。」


 隣を見ると、カナの方を支えるルナは少しつらそうだ。カナより華奢な身体なのだから、無理もない。


「それは、あの子に頼みましょう。」

「え?」


 そういってキークが指さした先、その森の草陰から、大きな灰色の獣が飛び出してきた。

 走り寄ってカナの顔を舐めるその獣は、あのとき守ってくれたヴォルガ。


「あ、くすぐったい……よぉ…。」

「その子の背中を借りて帰りましょう。ずいぶんと懐いているみたいですし。」


 そして、ヴォルガの背中にカナと、カナの身体の安定のためにルナも乗り込んで、そのまま三人でログハウスへと帰っていった。


 森に入る瞬間、一度だけ、カナは後ろを振り返った。だが、そこには墜とされた飛行機械の残骸が残されているだけだった。

 そしてもう二度と、振り返ることはなかった。

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