第24話 突然の解雇
まさか、複数を相手にするときがくるとは思わなかった。
俺の世界では乱交と呼んだし、母と娘なら、親子丼とも呼ぶらしい。俺にその経験はなかった。実現するとも思わなかった。
ヒナには申し訳ないと思うが、俺は少しだけわくわくしていた。
「フィーネ、大丈夫かい?」
ラスは優しく娘に語り掛けた。
「……なにが?」
言葉は理解できるのだろう。だが、状況は理解できていないようだ。何のために俺の小屋に来たのか、解っていないのかもしれない。ただ、命じられるまま俺に食べ物を届けたのだ。
「ちゃんとできるかい?」
「……なにかするの?」
ラスは困ったように俺を見た。なるほど、こういう状況だったのか。俺も、もう少し気をつかうべきだった。ただ緊張していたということではなかったらしい。
「俺は、強姦してでも仕事をしないといけないのかな?」
「そこまですることはないと思うけど……そんなにしたいなら……」
正直に言うと、したくはない。食傷ぎみだ。元の世界にいたなら、こんな感想を持つことは一生あり得なかっただろう。そう思うと、少し服を緩めようとしているラスの手を止めさせる気にはならなかった。
「……まあ、フィーネに何をするのか、見せてあげたほうがいいかもしれないですね。ラスさんは、もう子供できましたか?」
「そんなにすぐにわかるはずがないだろう。でも……抜け駆けしたら、怒られるかもしれないね」
「フィーネのためにしたことです。それに……怒られると困ることがあるんですか?」
俺の言葉が終わらないうちに、ラスはにじり寄ってきた。求めていることは解る。俺が言い終わったところで、口を塞がれた。
俺の口を、ラスのごわごわした口が塞ぐ。ラスの手が、俺の大事な部分に伸びた。
「フィーネ、私の真似をしてごらん。できるね?」
「……うん」
俺は、異世界で3人プレイというものを知った。
翌日、今日で一巡することになる。
俺が扉をあけると、たぶん五人目の娘が待っている。俺が知る限り、一番幼く、あんな娘と子供を作れというこの里の良識を疑うほどだが、小屋に入れないということもできないだろう。
ひょっとして、本人が嫌がれば、何も手を出さなくても問題ないのかもしれない。さすがに、親が子供に感想を求めるようなことでもないからだ。
念のために魔法で精力を回復させてから、俺は扉を開けた。
「お早うございます」
恒例のバスケットを持った、十代になったばかりではないかと思うような少女が、礼儀よく頭を下げた。
「ああ。お早う。俺は知っているかもしれないけど、ソウジ。君の名前は?」
「ベルです。よろしくお願いします」
灰色がかった黒髪をお下げにした、可愛い少女である。大きくなったら、ヒナのようになるだろうかと思われたが、ベルはヒナより礼儀正しい。
「よろしく」
ベルは俺が開けた扉から、小屋の中によじ登った。体がまだ小さなので、よじ登る、という表現がぴったり当てはまる。バスケットを小屋の隅に置いた。
気のせいか、今まで会った女性でいちばんきちんとしているのかもしれない。
だが、緊張の裏返しということもある。強引にいって、心理的外傷になっても可哀想だと、俺は思いながらゆっくりと扉を閉めた。
「ベルはまだ若いんだし、無理をしなくても……」
俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。すでにベルは下着以外の服を脱ぎ捨てていたのだ。脱ぎ捨てるという表現もまたぴったりで、脱いだ服は壁に叩きつけるように捨てられていた。
人目がある場所では、態度を変えるらしい。俺は人目の数には入らないということだ。ある意味では、しっかりしているのだ。
「無理なんてとんでもない。ソウジがきて良かったと思っているよ」
口調も変わった。これが自然なのだろう。間違いなく、数年後にはヒナのようになっているだろう。
「そう? どうして?」
この年齢で、男を待っていたということがあるだろうか。
「だって、毎日毎日、パパとお兄ちゃんに体をいじられて……気持ち悪かった。それも、子供ができたらパパとお兄ちゃんの仕業だってばれるからって、最後は顔にかけるのよ。信じられる?」
「……酷いな」
身内から性的虐待を受けているのだ。
「酷いでしょ」
「ああ。でも、俺と関係しても……それは変わるのかい?」
「ちゃんと……あたしを妊娠させてくれればね。そうしたら、二人とももう子供ができないってわかるから、少なくとも顔にはかけてこないでしょ。子供がお腹にいる女は大事にされるから、あたしに近づくのも難しくなるよ。だからソウジさん、絶対にあたしを妊娠させてね」
こんなお願いをされることは、終生あるまいと思っていたことである。
「頑張るけど、二人妊娠したら……俺はヒナのところに戻れるし……」
五人の女性が五人とも、事情を抱えていた。それぞれに切実に子供を望んでいたのだ。全員を妊娠させろと言われたのを二人にしてもらったのは、早くヒナのところに帰りたかったからだが、五人の事情を知ってしまうと、罪悪感にかられる。
「……帰れないよ」
「なに?」
「あっ……」
ベルは口を塞いだ。口を滑らせたのだ。
「どういう意味だ?」
「それは……あの、もし、あたしがその二人のなかに入っていなかったら……あたしは絶望して、ヒナのヤギを殺すために『ゴブリン』を探しにいくとかするかもしれない。そうしたら、またソウジが、あたしを妊娠させるためにここに閉じ込められる。その時は、五人よりもっと増えているかもしれないよ。ロビンさんもラスさんも、ソウジさんのこと、気に入ったって」
ベルはまくしたてるように言った。本当のことだろうか。
だが、追及してもベルが本当のことを言うとは限らない。たぶん、俺よりずっと、人間の本能を知っている。本能と言うより、欲望を知っている。
現に、ベルは話し終えると、俺の股間に顔を寄せていたのだ。余計なことを考えさせないために。そのこと自体が俺の不安をあおったが、結局俺は、目先の欲望に負けた。念のために早めに精力を回復させたのが、裏目に出ることになった。
夜まで、ベルは俺を離さなかった。
翌朝、不安に駆られたままの俺は、扉を開けた。
さすがに男達が俺を狙っているかもしれない夜に出歩くことは避けた。
扉を開けると、丸い女であるロビンと、長老が俺を待っていた。
「二人か?」
「それでもいいけど、違うよ」
順番では、今日はロビンの相手をすることになるはずだ。俺は咄嗟に口を突いて出たが、冗談を言う気分だったのではない。
「わたしはご免です」
「冗談だ。長老にそういう趣味があるとは思わない。あっても男相手にまで頑張るつもりはないから、断るよ」
「残念だけど、仕事は終わりだよ。ご苦労だったね。せっかく、女たちにも楽しみができけど、あんたはもう自由だ」
――『終わり』? 『自由』?
全く予想していなかった出来事に、俺は頭の中に疑問符を浮かべた。
「もう、ここに居なくてもいいんですよ」
長老が言った。
「……そうか」
「残念なら、もう少し続けてもいいんだよ」
ロビンは舌で唇を撫でた。俺は、丁重に辞退した。
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