第22話 贈り物
翌朝、俺は呼び出されて外に出た。
集落の男達は日の出と共に外にでるのか、まだ朝は早いのに、俺は起こされた。
「どうしたんです?」
俺は、ちょうど目の前にいたラスに尋ねた。昨日、俺が精を放った細い女性である。
「長老から話がある。一緒においで」
「……はあ」
ラスの他にも、三人の女たちがいた。これから、俺が毎日相手をしなければいけない相手だ。
長老の住む小屋も、特別広いということはなかった。
俺の小屋と大差ない。
俺が扉を開けると、長老と視線があった。
小屋に上がるまでもなく、長老が口を開いた。
「ヤギのことは、集落の全員が感謝しています。それに、予定通り、仕事をこなしているようですね。一番がロビンだと聞いた時は、少し不安だったのですが」
ロビンとは、長老と一緒に俺と話した丸い女だ。この強制ハーレムで、俺が最初に相手をしなければならなかった女だ。
体形こそ気にしなければ、悪い相手ではなかった。もちろん、誰かが悪いということではない。
「ヤギのことは気にしないでください。ちゃんと、こちらの条件も飲んでもらえましたし。後……たまにでいいから、ヒナと会わしてもらえるといいのですが」
「そのようですね。ヒナのことは、我々も考えています」
「ありがとうございます。ところで、俺を呼んだのはどうしてですか?」
「いえ、もういいのです」
俺の目の前で、扉が閉まった。閉めたのはラスだった。
「どういうことだろう? 用があったんじゃないのかな?」
「もうすんだんだろう。長老も、年だからね。誰かと話したくなっただけじゃないのかね」
さっさとラスは行ってしまう。方向からすると、俺の小屋がある場所だ。
何が起こっているのかわからず、俺もただ従うしかない。
背後から、女たちもついてきた。
俺の小屋の前で、ラスが立ち止まる。俺の背後に視線を向けた。
ヒナと同じぐらいか、やや年上だと思われる女性が、手にバスケットを持っていた。食事が入っている。
この子が、今日の相手だろう。どんな相手でも、一日に一度は交わらないとならない。
ヒナと少し似た面影を持つが、髪は赤みを帯びていた。
俺は小屋の扉を開けようとすると、手にバスケットを押し付けられた。
女の子は背中を向ける。
「……どういうことです?」
「小屋に入ればわかるよ。あの子は、明日だ」
意味はわからない。
俺は小屋の扉を開けた。
俺だけの小屋の中に、小さな人影が座っていた。
俺は驚いて振り向く。ラスが笑顔で、俺の背中を押した。
俺は転がるように小屋に入る。
「……お帰り」
俺は、なぜか小屋の中にいた、ヒナに言った。
俺の手からバスケットを受けとり、ヒナはバスケットを持ったまま、唇を求めてきた。
抗うことなく俺は応じ、一日分の食料をヒナの手に委ねつつ、体を抱いた。
「どうしたんだ?」
「今日は特別だよ。もうじき、こんなことも終わる」
「……どうして?」
「言わなくちゃ駄目?」
俺は首を横に振った。ヒナは言いたくなさそうだった。俺は、答えを求める必要を感じなかった。
ヒナが目の前にいる。それだけで、満足してしまった。
「……思い残すことがないように……」
俺の体に腕を巻きつけ、俺の胸に顔を埋め、俺の腹に胸を押し付け、俺の股間に腰を押し付け、ヒナは囁いた。
俺用の食事を、ヒナと分け合った。
ヒナは俺に遠慮したが、俺だけが食べることはできなかった。
きちんと栄誉を摂らないと、子供も作れないと言われたものの、魔法の石版を使えばなんとかなる。ただし、俺は自分が目に見えて痩せてきているのを自覚していた。
食事が悪いのではない。無理に精力を高めているので、元の世界でため込んだ無駄な脂肪まで、使ってしまっているのだ。
もともとひ弱な体だったが、筋肉が着く前にしぼんでしまう。
「ヤギたちはどうだ?」
「うん。みんな元気。ソウジのおかげで、乳も出るようになったからね」
こんな会話をしたのは、すでに服を脱いで互いに温め合った後だった。服を着ないのは、また脱ぐことになるとお互いに思っていたからだ。
「ヒナは、里に戻りたかったんだろう? そう思うと、余計なことをしてしまったかもしれない。ヤギ飼いの仕事がなければ、ヒナは里に下りてもよかったんじゃないか?」
「そんなことないよ。ソウジと会う前は、里に戻りたかった。一人で暮らすのは寂しかったから。でも……ソウジがとられちゃった。わたしは、みんなと一緒にいたいと、思わなくなっちゃったみたい。ソウジが早く自由になれるといいと思う。だから……」
ヒナは最後まで言わず、俺の胸に抱きついた。
「そのために……別の女たちと早く子供を作る……か。なんだか、矛盾しているな」
「……いや?」
ヒナは尋ねたが、答えを期待しているとは思わなかった。俺の気持ちは、強制ハーレムが始まる前から伝えてある。
「ヒナとしか、したくない」
「……でも、ちゃんとやっているって……」
「仕方ないだろう」
できないとは言えない状況に置かれているのだ。
「そうだね……ごめん」
「これが終わったら……里のことが嫌いになったのなら……旅でもしないか?」
俺がそう言ったのは、確実な狙いがあるわけでもなかった。ただ、山小屋にもヤギの世話にも、この集落にさえ、拘る必要がなくなったのではないかと思ったのだ。
「何のため?」
「そうだな……」
元の世界では、旅といえば旅行だ。それが、楽しいものでなくても、辛いものであっても、巡礼でも、旅行だ。それ以外に解釈されることなどほとんどないのだ。
「……楽しむため。ってことじゃ駄目かな?」
「……楽しむ? 旅を?」
ヒナの世界では考えらないことなのだろう。
「駄目かな?」
「ううん」
ヒナは俺の提案を受け入れた。俺の提案を受け、なんとなく楽しそうだと思ってくれたのだろう。俺にとっては十分だ。
しばらくは山小屋にとどまることになっても、いずれは旅に出るかもしれない。もっとも、俺に旅に出る理由はない。ヒナと一緒に、いつまでも山小屋で暮らしてもいい。
ただ、いずれは旅にでなければならない時がくるのだろうと、漠然と感じていた。俺は、この世界がただのゲームだと思ってはいない。
もしそうなら、非常によくできたゲームだ。
次の展開があるのなら、止まっていることはできないだろう。
仲間を連れていくことができるのなら、ヒナを外すことなど考えられなかった。
この強制ハーレムでは、女はどんなに遅くまでいても暗くなる前に帰る。
満足すれば帰る。
一度でも行為が終われば、帰るのは女側の自由だ。
そういうルールだったが、ヒナはそのルールに縛られなかった。
結局、次の日が昇るまで、ヒナは俺に抱かれていた。
ヒナの体力はすばらしい。
俺の体力はそう続くはずがない。
魔法の石版をタップし続け、ヒナが求めるままに応じ続けた。
一日で、体重が十キロぐらい減った気がする。
しばらく、ヒナには会えなくなるのだろう。
だから、こんなにもヒナは求めてくるのだろう。
俺は、それぐらいに考えていた。
後で思えば、ヒナは俺に余計な質問をさせないために、口を塞ぎ、意識をそらしていたのだとわかる。
一晩中行為に及び、翌日の仕事に差障りが出ないはずがないことも、俺は気づかなかった。
ヒナは朝露とともに消え、俺は小屋に残された。
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