第6話 いけないアルバイト ~宅配~

「バイトの池内さん、これお願いね」 


 アルバイトリーダーから伝票を受け取ると、厨房に注文の旨を伝えた。


 それにしても、わざわざ名前の前にバイトを付け加えるのは、自分がバイトの中のリーダーであるということを相当誇示したいのであろうと思った。

配達圏内は半径1km以内で、足は原付スクーターである。街で見かけるピザ屋のバイク。そう、それと同じ。ただし、雨天時は軽自動車を使うため、どちらかと言えば、雨が降ってくれることを私は望んでいるのだ。


 

 だけど、残念ながら今日は綺麗な秋晴れ。料理と領収書を持ってスクーターにまたがる。

配達先は1kmギリギリで注文者は男性。ただし、この時点で客の年齢を想像することは出来ない。



 幾分乗り慣れてきたスクーターは、残暑に似た暑さの中、快調に飛ばしていく。 


 それでも一応は料理に気を配ってはいるのだけどね。

住所のアパートはすぐに分かった。 


 迷った場合、直接お客に電話する手段もあるにはあるのだが、出来るならそれは避けたい。


 私は、邪魔にならないようにスクーターを停めると、荷台の料理を確認した。 


 よし、問題無しだ。  

 

 それではこれをちょちょっと・・・・


 私は料理に掛けられたラップを丁寧に剥がし、素早くちょちょっとすると、判らぬように元に戻した後、103号室のインターホンを押した。


 出てきたのは若い男であった。見た目大学生か。 



「ハンバーグエビフライセット1080円です」



 若い男は、きっちり1080円を用意しており、それによってこちらの手間が少しだけ省かれた。 



 用件が済むとサッサと退散する。 



 如何なる場合も、それが私の鉄則だ。

 配達の度にこんな事を繰り返し行っているのだが、幸いにもクレームが入ったことは一度も無い。 


 それもそのはず、やんわりと少しだけ味を変えているだけなのだから。 



 だが、それは明らかに効果を現し出して、宅配の依頼は急激に減少したのである。

旨いだろうと予測していたものが、食べたらそれほど旨くはなかった。 



 地味ではあるが、これは結構なショックである。 


 二ヶ月後、めっきり減った宅配サ―ビスにピリオドが打たれた。



 私はこれで用無しとなってしまったが、別のレストランが宅配サ―ビスを開始すると、こっちは旨いと評判になり、この店は繁盛した。 



 私は、約束通りにこの店から50万円を頂くと、次のバイト探しを始めたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る