第5話 いけないアルバイト ~コーヒーレディ~
アパートのポストに放り込まれていた毎度毎度の見飽きた広告。
可燃物ゴミが増えるだけで迷惑この上ないが、処理するために一応は部屋に持ち込む。
階段を上がりながら丸めようとした広告の端に求人という文字が私の目を引いた。
飲料水の店内販売。時給1000円+歩合制。
こうやって今、私はこの店のフロアに立って仕事をしているという訳だ。
勤務シフトは三勤制で、常時二人がお客の要求に対応することになっている。
歩合は各々が売りさばいた金額から計算され、呼び出しランプが光ると先を争うように目で相手を制するのがコツとなる。
勿論、相棒も同じ手を使って私を威圧してくるが、私には私のやり方がある。
そう、誰にも内緒の私だけの方法だ
それにしても煩い店内だ。こんな所に一日中居たら、そのうちに耳がおかしくなってしまいそうで、早く儲けてサッサと辞めてしまおうと、初日からずっと考え続けていた。
異常なほどに短いスカート。歩くのもおぼつかないくらい高いヒ―ル。
どっちみち、私達は客寄せのための見せ物にしか過ぎない。
パンツ?そんなに覗きたいのなら遠慮なくどうぞ、だ。
今日も金に目が眩んだ客がドブに金を投げ捨てている。
その殆どの客は涙目で、明日からの生活をどうしようかという悲壮感に包まれながらも、それでいてお札を紙切れのように使う。
ちょ―不思議な光景だ。
そんな店内を、私はスーパーモデルみたく歩き回る。
それを見つけた客は、すぐさま手招きし、私を呼び寄せる。
手持ちのコインや玉と引き換えに飲み物の注文を取ると、その後カップと一緒に小さなメモ紙をそっと渡す。
休憩時間になり、携帯を確認すると、決まって知らないアドレスからメールが来ている。
しかし、返信はしない。すると、その後もしつこくメールは続くが、それでも私は返信しない
すると彼らは決まって飲料水を注文するために私を呼ぶ。
他の客の手前、それを口にする人は皆無だが、目は私にどうしてかと強く訴えてくるのだ。
私はまたカップと一緒にメモを渡す。メモには、「月に10回私から注文し、それを連続3ヶ月続けてくれたらメールします」と書いた。
私のファンは少なく見積もっても400人は下らないだろう。
カップ一杯50円の歩合は、400人×10杯×50円で、月に20万円となり、一日7時間×月20日労働の14万円と合わせると毎月34万円の収入で、3ヶ月も続ければザッと100万円が手に入ることになる。
まあ、7時間労働のアルバイトとしては高額の部類だ。
人間、3ヶ月は我慢出来てもそれ以上になると限界が近い。
私は3ヶ月後、この店を後にした。
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