第4話 いけないアルバイト ~オフィス~
短期間限定だったが、日給二万円に魅せられて私はアルバイト契約をした。
20階建てビルの8階から10階にフロアを持つこの会社は、所謂、世間でいうIT企業というものであり、この数年でメキメキと頭角を現した急成長の注目株である。
私を面接したのは、専務と常務の二人で、アルバイトごときの面接に、と驚きを隠せなかった私は、「人事部の方は?」と思わず聞いてしまったほどの出来事であった。
私の配属は営業部。そこでの雑用が主な仕事となっているが、これはあくまでも表向きの顔。
じつは、これにはそれなりの裏事情というものがあったのよね・・・・
私は、それならば秘書ではどうかと提案したが、それは余りにも露骨過ぎるし、第一、アルバイトの身分でそれは有り得ないと却下されてしまった。
取締役が全員出席する二週間に一度の頻度で開催される営業会議。私はそこで資料を配布する係だ。
三回目の会議の時、資料を配布しながらわざとらしく社長の肩に身体を寄せた。
社長の横顔は、まんざらでも無さそう。
四回目の会議。私は左手で資料を配り、社長の肩に胸を押し寄せた。
社長の顔は前回よりも緩くなった
翌朝、社長の出勤時間を見計らってロビーをうろついた。
案の定、私の姿を見つけた社長は「何をしているのか」と声を掛けてきた。
私達は夕食の約束を交わした。
レストランは会員制で、私など一生行けないであろう超高級店で、私達は、隠密の出入口から店内に入った。
電柱の陰から写真を撮る黒い姿に、私は社長の顔が写るようにと気を配った。
料理はとにかく凄いの一言であった。
食材の名前すら知らない料理が次々とテ―ブルの上を彩る。
私には、これが旨い物かどうかも分からないが、とにかく完食するのを目標とした。
その後、ホテルに向かった。
ここでも黒いカメラマンに配慮する行動を貫いた。
翌日、専務室に呼ばれた私に、専務は「ご苦労さん」と言って、一つの結構分厚い封筒を手渡した。
私が、如何でしたかと訪ねると、この写真のように事は見事に終了したと事細かに説明してくれた。
専務の顔は、窓から入る日差しに負けないほどに紅潮していた。
翌月の取締役の席で専務はあの写真をテ―ブルの上にバラマキ、社長に対し意気揚々に退任同義を迫った。
しかし、社長も他の取締役も動じることは無かった。
社長は、背広の内ポケットから小さな物を取出し、おもむろにスイッチを入れた。
レコーダーから専務の声が会議室いっぱいに響き渡った。
私の手元には、専務から貰った百二十万と社長から貰った三百万円の計四百二十万円がある。
次は何のバイトをするか、愛美の心は生暖かい南風に踊るように舞った。
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