9.その輪の中に

「そろそろ来るか?」

「そうですね。っと、ちょうど来ましたよ」


 行儀悪く椅子の背にもたれ掛かりながら言うゲイルに、その横で同じく椅子に座るリリカが答えた。

 ここは、図書館近くの休憩場所だ。昨日ヴァイスとアリスが少し話をした場所である。

 その一角に、ゲイル達は並んで座っていた。

 今は昼休憩の時間である。二人の前には、購買で買ったパンが置かれている。

 

 リリカの視線の先では、ヴァイスと彼に連れられたアリスが、こちらに向かって歩いて来ていた。


 今から昼食だったのだが、せっかくだから一緒に食べようと、ヴァイスが彼女を探しに行っていたのだ。

 何処に居るのかは知らなかったので、駄目元だったのだが。運よく直ぐに見つかったようだ。


「おー、本当に来たな」

「本当って何ですか。本当って」


 感心したように言うゲイルに、リリカが苦笑する。


「いや、疑ってたわけじゃないんだがな。やっぱり、あのヴァイスが、と思うとな。よく話せたもんだ」

「まぁ、分からないでもないですが。なんでも、ミーナさんも絡んでるそうですよ」

「あぁ、図書館の。……って」


 ゲイルが、驚きの声を漏らす。その視線の先には、アリスがヴァイスと笑顔で話をしている光景があった。


「……マジで笑ってんな。氷の姫いつもとは大違いだな」

「そういえば、勇者の話が好きだって言ってましたね。だから、話が合うとか」

「ヴァイスと話せるって相当だぞ。意外すぎるだろ」


 ヴァイスの勇者好きは筋金入りだ。村でも、彼の話にまともに付いて行ける人間はいなかった。


「そうですねぇ。……あ、こっちに気付きましたね」


 アリスがこちらに気付いたのか、緊張した表情を見せた。それを見たヴァイスが、苦笑しながら何か話している。

 そして、二人して、こちらへと歩いてきた。


 ◆


「初めまして、クラディス先輩」


 傍まで来た二人に、リリカが先導して口を開いた。

 すっと立ち上がり、完璧な笑顔を見せている。どこまでも絵になる少女である。


「あ、えっと、初めまして」

 

 そんなリリカに、少し気後れしたようにアリスが答えた。


「さぁ、立ったままも何ですし。座りましょう」


 そう言って、リリカは元のように座る。ヴァイスがリリカの対面の椅子を引き、アリスが礼を言いつつ其処に座る。ヴァイスはその横に座った。

 机を挟んで、リリカとゲイル、アリスとヴァイスが組みになっている形だ。リリカの対面がアリス、ゲイルの対面がヴァイスである。


 こうして四人が椅子に付くと、リリカが改めて自己紹介を始めた。


「では改めて。初めまして、クラディス先輩。私はリリカ・ドラグネルです。ヴァイスの友人で、幼馴染ですね」


 自分の胸に手を当て笑顔で話すリリカをみて、ヴァイスが吹き出した。

 そんな彼に対して、何事かとリリカがジト目を向ける。


「……何ですか、失礼ですね」

「いや、ちょっと。既視感デジャヴというか」


 そう言うヴァイスに、アリスが何か気付いたようにクスリと笑う。そういえば、昨日もここで、自己紹介をしたのだった。

 それを、ヴァイスがリリカに説明する。彼女はいまいち納得しない表情を見せて。


「はぁ、そうなんですか。というか、あなたがこの場所を選んだのでしょう? 茶化さないでくださいよ」

「ごめんって。悪かったよ」

「うん、ごめんね」


 二人で謝るヴァイス達を見て、もう、とリリカが呆れている。その横で、相変わらず行儀悪く、手を頭の後ろで組んで椅子の背にもたれていたゲイルが口を開いた。


「まぁ、場が和んで良いんじゃねぇか? で、俺はゲイル・ツヴァートだ。よろしくな、せんぱがふぅっ!」


 笑って自己紹介をしていたゲイルの横腹に、いきなりリリカの肘が叩き込まれた。ゲイルが急な衝撃に息を吐き、横腹を押さえ悶える。


「敬語を使いなさい。相手は年上で、学園の先輩ですよ」

「おまっ、だからって、いきなり、手を出すな……」


 突然目の前で行われたリリカの凶行に、アリスが慌ててフォローに入る。


「わわ、大丈夫、敬語使わなくても大丈夫だから!」

「ほら、センパイも、そう、言ってんじゃねぇか」


 いまだ息の整わないゲイルが、たどたどしく話した。そんなゲイルを尻目に、リリカがアリスに答える。


「……良いんですか?」

「うん、私はあまり気にしないよ」

「そうですか、わかりました。すみません、礼儀がなっていない者で」

「私は貴族でもないし。自然体で良いよ」


 苦笑しながら言うアリスに、リリカは頷く。

 それを見て、今度はアリスが自己紹介を始めた。


「えっと、私は、アリス・クラディス。二年だけど、私の事はアリスで良いよ。ヴァイス君もそう呼んでるし」

「んじゃ、俺らも名前でいいぜ。ヴァイスの事もそうみたいだし?」


 復活したゲイルが笑いながら返した。本当に敬語を使わない彼を、リリカが一瞬睨むが。


「……そうですね。先輩が良いのでしたら、そう呼ばせて頂きます」

「わかった。よろしくね、ゲイル君。リリカちゃん」

「……ちゃん付けはちょっと恥ずかしいですね」

「あれ、ごめん。リリカさん、が良い?」

「いえ、先輩の呼びやすい方でいいですよ」

 

 リリカが恥ずかしそうに言った。それを聞いて、分かった、とアリスが笑顔を見せる。

 なんとも微笑ましい光景だった。その姿を見て、ヴァイスも微笑を浮かべていた。


 リリカとゲイルは、こんな自分に今でも付き合ってくれている。だから、アリスとも仲良くやってくれるだろう。

 そう思い、ヴァイスは二人の幼馴染に、心の中で感謝していた。


「それじゃ、お互いの事はおいおい話すとして、とりあえず昼食にしましょう。午後からも講義がありますし。」


 そういったヴァイスに、皆が頷く。そして、それぞれの食事を手をつけ始めた。


 ◆


「ところで、先輩。……ちょっと聞き辛いのですが。先輩の「クラディス」は、あのクラディスなのですか?」


 食事をしながら、ふいにリリカが質問を投げた。それに、パンをむぐむぐ頬張っていたアリスが、口の中の物をゴクンと飲み込んで答える。


「ふえっ、んぐっ、あのってのがよく分からないけど……多分、そのクラディスだよ」

「……そうですか」


 いまいちよく分からないが、この王都でクラディスと言えばあれしかない、とアリスは曖昧に頷いた。

 それに、リリカが何か少し気まずそうに答えた。

 ヴァイスは、何だろう? と怪訝な反応をするが、ゲイルが先に反応した。


「なんだ、あのクラディスって。有名な何かなのか?」

「へっ?」


 ゲイルの言葉に、アリスが意外そうな声をあげた。リリカは額を押さえ、溜め息を吐いている。

 知らないの? とでも言うようにアリスは首を傾げていた。それを見て、ヴァイスが思い出したように口を開く。


「そう言えば……昨日も、クラディスが何か、言ってましたね。まぎらわしい? とか」

「あれ、ヴァイス君も知らなかったの?」


 不思議そうに言ったヴァイスに、こちらも不思議そうな顔を見せたアリス。

 そこに、呆れたようにリリカが口を挟む。


「すみません、私達は田舎の出なのですよ。二人は多分知らないでしょう」

「あーそう言えば、そうだったね。みんなは王都外から来たんだったよね」


 納得したようにアリスが言った。それを見て、いまだ何も分かっていない二人に、リリカが説明する。


「クラディスと言うのは、王都にある大きな孤児院の名ですよ」


 クラディス院でしたっけ、とリリカは続けた。


 ◆


 クラディス孤児院。王都にある、かなりの大きさを誇る有名な孤児院である。


 約三十数年前に、世界を巻き込むほどの大きな大戦が起こった。現在この世界で生きる人類なら誰もが知っている、人魔大戦。

 人としては在り得ない程の強大な力を持った森人類エルフが自らを魔王と名乗り、世界に対して宣戦布告を行ったのだ。其の当時最高ランクだったある冒険者パーティーが人類を率いて戦い、その結果魔王を封じる事で終結したのだが、この大戦によって世界は大きな損傷を受けたのだった。


 その大戦により、王都でも数多くの孤児が出てしまった。そしてその事に心を痛めた聖女ローラ・クラディスという人物が王都に開設したのが、クラディス孤児院である。

 その孤児院には、聖女というネームバリューもあったのだが、なにより大戦で大人が減ってしまっていた事から、子は国の未来を支える宝だとして相当な額の援助金が入る事になった。

 その結果、孤児院としては異例の大きさとなってしまったのだ。孤児の数もかなりのものだったため、悪い事では無かったのだが。


 世界に平穏が戻り孤児が大分減ってきた現在でも、その大きさは変わらない。更に現在では、教会としても機能していた。

 そのため、王都に住む者なら、クラディスの名を知らない者はいないのだった。


 ◆


「王都じゃ有名だから、知らない人はいないの。だから、てっきり知っていると思ってたんだよ。言ってなくてごめんね」


 アリスがそう言ってヴァイスに頭を下げる。

 それを聞いて、ヴァイスは昨日の会話の幾つかを思い出していた。


「じゃあ、両親が居ないのは――」

「そう、私は孤児なの。両親の顔も知らないんだ」


 なんでもないように言うアリスに、皆が口を閉じた。しかし、ゲイルがいち早く気を取り直して、その口を開く。


「あー、なんだ。悪かった、センパイ。嫌な事聞いちまったな」


 頭をがりがり掻きながら言うゲイルに、アリスが苦笑しながら答えた。


「くすっ、大丈夫だよ。親の事は気にはなるけど、気にしても仕方ない、とも思うし。それに、院の皆が家族だから。そんなに、悪いものでもないんだよ?」


 まるで誇らしげに、アリスはそう言った。それを見た三人は、少し気が楽になる。

 三人とも親は健在である。そのため、親が居ないという事は寂しい事だ、と決め付けていたのだ。そんな自分が、恥ずかしく思えてくる。

 三人は、両親の不在を嘆く事無く自然体なアリスが、なんだか大人っぽく、先輩らしく思えてきたのだった。……らしくもなにも、実際に先輩なのだが。


「じゃあ、先輩の家名って、院の名前からなんですか」

「そうだね。家名が分からない子は、みんなクラディスなんだよ」


 その言葉に、ヴァイスは納得した様子を見せた。


「あぁ、だから多い、なんですね」

「そうそう。王都には多いんだよね。クラディス」


 紛らわしいよね、とアリスが苦笑した。


「でも、冒険科にはいないよな。センパイだけか? それとも三年にいるのか?」


 ゲイルが疑問を口にした。ヴァイスも思い出すが、少なくとも一年にはいなかったはずだ。


「あー、冒険者にはほとんどいないね。……院長先生がすごい反対するんだよねぇ」 

「院長? 聖女ローラ・クラディス様ですか?」

「え、聖女ローラ? 五英雄の?」


 どこか気まずそうに言うアリスに、リリカが反応し。更にリリカが発した名前に、ヴァイスが反応した。


 大戦にて魔王を封印した冒険者パーティー。その五人の冒険者は、人々からは五英雄と呼ばれている。この世界の、一番新しい英雄達である。

 そして、その五英雄の一人が聖女ローラだ。

 類い稀なる治癒魔法の使い手で、パーティーを支えた才女である。

 その美貌と慈愛に満ちた人格のために、人々からは絶大な人気を誇り、畏敬の念を込めて聖女と呼ばれていた。


「聖女ローラって、確かローラ・カバリーじゃなかったですっけ。クラディス、とかじゃなかった様な……」

「クラディス院を建てる時に、改名したんだよ。何故かは知らないけど」

「へぇー」


 アリスの話に、ヴァイスは興味深げだ。そこに、ゲイルが呆れ気味に口を挟む。


「……五英雄ってこたぁ、その聖女様も元は冒険者だろ。それなのに、冒険者になるのは反対なのか」

「院長先生は、一線で活躍してた分、冒険者の厳しい面も知ってるからね。」


 ローラにとって、院の子供達は自分の子と同義であった。その大切な子供達には、皆幸せになってほしいと願っている。

 そのため、危険と隣り合わせである冒険者になりたいという話には、昔から反対しているのだ。


「そのわりに、センパイは冒険者目指してるんだな」

「あはは、かなり強引に反対を押し切ったんだよねぇ。今でも、時々考え直しなさいって言われるよ」

「……そうまでして、先輩は冒険者になりたいんですね」


 微妙に聞き辛い事をハッキリと聞いているリリカに、男二人の額に冷や汗が流れる。

 しかし、特に気にもせずにアリスが答えを返した。


「そうだね。私、体力無いから、昔から本ばっかり読んでて。院長先生が英雄だったからかな、そう言う本が好きになって、沢山読んだよ。それで、思ったんだ」


 アリスが、空を仰いだ。雲ひとつ無い、何処までも続く青空。

 優しい風に、アリスの銀髪がさらさらと流れる。その目は、いったい何処を見ているのか。ヴァイスには分からなかった。


「この本の人達のように、世界を旅したいなって。外にあまり出ないから、余計そう思っちゃって。それに」


 アリスが、右手を天に向けた。陽の光を手で遮り、影が彼女の顔に落ちる。その右手を見上げるように、アリスは続けた。


「旅をすれば、自分の事もわかるかもしれないしね」


 その言葉に、リリカとゲイルが怪訝な顔をする。空から視線を戻したアリスがそれを見て、苦笑しつつ。


「ヴァイス君には言ったけど、私、小さな頃の記憶が無いんだよね。だから、何で気力が無いのかも分からない」

「……先輩は、知りたいんですか? 記憶を、取り戻したい?」


 ヴァイスの言葉に、アリスは首を振る。


「いや、そこまで本気で考えてるわけじゃないんだけど。旅をしてたら、もしかしたら分かるんじゃないかな、ていう程度だよ」

 

 そう言ってアリスは笑ったが、本心はわからなかった。聖女の反対を押し切るくらいだ。本当は気にしてるんじゃないだろうか、とヴァイスは思う。


「なにか、手がかりとかは無いのか? 聖女サマが何か知ってるとか?」


 真面目な顔で言ったゲイルに対し、アリスがうーんと考えて。


「院長先生は何も知らないらしいんだよね。なんでも、呼び鈴がして、玄関から出たら、門の所に私だけ居たらしいの。……その時の事も今一覚えてないんだよねぇ」


 そう言いつつ、アリスは自分の首元から制服内に手を入れる。そのまま手を引き抜くと、その手にはペンダントの様な物がぶら下がっていた。


「手がかりと言えば、これかな。私が、院に来た時から身に着けていた物」


 アリスは、首にかけたままのそれを皆に差し出した。

 銀色のチェーンに、長方形のペンダントヘッドも同じく銀色をしている。装飾はほとんど無い地味な物だ。ただ、ペンダントヘッドには、何か幾何学模様がびっしりと刻まれていた。


「これは……魔道具ですか?」


 その模様を見て、リリカが答えた。

 刻まれた模様は、魔力を帯びたように淡い光を放っている。魔力を流す事で効果が発動する魔道具だろう、とリリカ以外の二人も考えた。

 そんな三人に向かって、アリスが頷く。


「そう。院長先生に見てもらったんだけど。これは、強力な体力増強の魔道具らしいの。気力の無い私が普通に動けるのは、これのおかげなんだよね」

「……それ、大丈夫なんですか? それが壊れたら、先輩は動けなくなるんじゃ」


 ヴァイスが眉を顰めて口を挟んだ。


 気にはなってはいたのだ。気力が無いのに、アリスが普通に動けているのはなぜなのか。

 気力は、生物が生み出すエネルギーのような物だ。活性化させると身体強化される訳だが、普通に身体を動かすのにも、ごく少量だが気力を消費している。

 そのため、気力が枯渇してしまうと、ただ動くだけでも辛くなる。走ったりする事は不可能に近い。

 

 だから、アリスが普通に動けているのをみて、不思議には思っていたのだが。なるほど、魔道具にてそれを補っていたのか、とヴァイスは得心した。

 しかし、その魔道具が壊れでもしたら、大変な事になるんじゃないか、とヴァイスは心配する。


「大丈夫。無くても、動くくらいは出来るよ。まぁ、走ったりは難しいけど」


 アリスが、心配しないでとでも言うように、ヴァイスに笑いかける。


「それに、これ。こう見えてかなり頑丈に作られてるし、これ自体にも強力な保護の効果が掛かってるから。上級魔法の直撃でも壊れないみたいだよ」


 アリスが、ペンダントを顔の横に掲げて見せる。パッと見は、ただの地味な銀のアクセサリにしか見えないのだが。


「それって、古代魔具アーティアファクトレベルですよ。体力増強はともかくとして。そんな頑丈な物は、今の技術では難しいと思います」

「院長先生も言ってた。だから、手がかりになるんじゃないかって」


 魔道具は、魔力を帯びる事が出来る物質に、魔言列マギグラムが彫られている道具である。

 魔言列は、魔力を流す事で魔法と同じような効果を発揮する言語だ。言語とは言っても、古代言語らしく、全てを正しく理解できている者はいないと言われている。

 そのため、魔道具を一から作れる者は限られているのだ。


 このペンダントが、遺跡などから発掘された古代魔具であろうと、誰かが作った魔道具だろうと。かなりの貴重品には違いない。

 その出自が判明すれば、そこから過去の持ち主等を洗い出せる可能性は大いにある。


 因みに、一般に普及しているような単純な魔道具、例えば部屋の灯り等は、魔言列も複雑な物ではない。

 そのため、魔言列を一つの「絵」としてコピーする事で、複製が可能となっていた。その意味を、作っている者が知っている訳では無いのである。


「ってことは、それに心当たりのある人を探す、という感じですかね」


 ヴァイスがペンダントをまじまじと見つめながら言う。それにアリスが頷いた。


「そうだね。一応、院長先生も調べてくれてたんだけどね。まだ分かってないんだよね。ただ」


 アリスがペンダントを撫でながら、言葉を続けた。


「王都の宝飾屋さんに聞いた話だと、このチェーンの作りとか、大分新しいみたいなんだよね。少なくとも、古代魔具じゃないみたい」


 その言葉を聞いて、他の三人は考え込み、それぞれ意見を出していく。


「という事は、誰かが作ったということですか。……そんなレベルの物を作れるのでしたら、かなり有名な方だと思うのですが」

「こういうのは、森人類や地人類ドワーフがくわしいんだろ? そっち方面で探すべきだろうな」

「魔道具だから、どっちかというと森人類じゃないかな。作り自体は、そんなに凝った物でもないしね」


 真面目に意見を交わしだした三人を見て、アリスはポカンとした表情を見せた。が、直ぐに気を取り直して、三人に話しかける。


「ちょ、ちょっとまって。みんながそんなに真剣に考えなくてもいいよ。これは私の問題だし、そもそもこれが本当に作られた物かも分からないし」

「……先輩」


 そんな事を言い出したアリスに、三人は呆れた様な目を向けた。なぜそんな目を向けられるのか分からず困惑するアリスに、彼らが口を開く。


「ここまで話されて、今更関係無いって言われても、なぁ?」

「そうですね。正直、私たちも気になりますし。それに、ヴァイスと先輩は、友達なのでしょう? 無関係なんて言ったら、ヴァイスが泣きますよ」

「いや、別に泣かないけどね? まぁ、俺達も、今すぐどうこうするって訳でも無いですよ。ただ、こういうのは、人が多いほうが効率はいいでしょう?」


 そういって、ヴァイスはアリスに笑顔を見せる。


「俺達にも、手伝わせてください。友達なんですから、これくらい、気にする事でもないですよ」

「ヴァイスのダチなら、俺らも似たようなもんだしな。まぁ、学園生活も、ぶっちゃけ暇してたし? なにか目的があったほうが、張りがあらぁな」


 ヴァイスの言葉に、ゲイルが笑って続いた。それにリリカも頷いている。

 三人の表情に曇りは無く。友人を助けたい、という心に嘘偽りは無い。

 その事をなんとなくだが理解したアリスが、照れくさそうな笑みを浮かべながら答えた。


「もう、わかったよ。……ありがとうね、みんな」


 そのアリスの言葉を受けて、三人共が笑った。ヴァイスはふわりと優しく。ゲイルはニッと少年のように。リリカはくすっと気品良く。

 そんな彼らを見て、アリスは、なんだかみんな似ているな、と思った。三人がとても良い友人同士である事を感じ取っていた。

 そして、自分もその一員になりたいと、強く思ったのだった。

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