7.友達

 男達は、そのまま無遠慮にヴァイス達に近づいてきた。

 ヴァイスはその先頭を歩く男を睨み付けたが、男達は意にも介さない。それどころか、いったい何が面白いのか、げらげらと下卑た笑い声を取り巻きと共に上げている。


「え、マジで? なんでお前が人と居るわけ? どんなトリック使ったんだよ?」

「……別に、あなたには関係ないでしょう、ブラッド君」

「おー、聞いたかよ! 無能の癖に口は達者だぜ! ぎゃははは!」


 アリスの顔から表情が抜ける。昨日までの人形のような無表情となり、その男に淡々と答えている。

 それに対して、ブラッドと呼ばれた男は彼女を馬鹿にするように笑っていた。


 ヴァイスはそんな二人のやり取りを見て、ますます不愉快になるのだが、それを押さえて、男を観察する。


(先輩の知り合いなら、二年か? 見た感じ戦士のようだが、……ふざけてる割にかなり出来るな。二年なら魔気も使えるだろうし、それに)


 改めてその男の身なりを見る。制服は真新しく、豪華な宝飾品を幾つも身に付けている。どうやら、その内の幾つかは高価な魔道具のようだ。


(典型的な貴族のボンボンか? 厄介だな……)


 この世界にも貴族は居る。その人となりは様々で、庶民から尊敬されるような、真に高貴な者も居れば、貴族の立場を利用して好き勝手にやっている者も居る。ブラッドは、完全に後者のようだった。

 普通は、冒険者のような危険な職には就かないように思われるが、意外と冒険科に貴族の子は多い。

 跡取りの長子や、その予備スペアの次子ならともかく、家を継げる見込みが無い第三子以下は、つぶしとして冒険者になる者も居るのだった。


 本来冒険者は自由な存在であって、貴族に従う義理は無い。そのため、彼らの権力も通じないはずだ。

 しかし現実には、完全に彼らを無視する事も難しく、度々トラブルの種となっていたのだ。

 また、冒険者になるような貴族の子は、なぜか傲慢な者が多かった。実家の権力や財力を使い、好き放題しているのだった。


 そんな、現在進行形でトラブルを起こしているブラッドは、アリスと一緒に居るヴァイスの顔をまじまじと見た。


「おいお前。知らない顔だな。一年か? もしそうなら教えといてやるよ。こいつは気力無しの無能だ」

 

 ブラッドはアリスを馬鹿にしたかのように、顎でしゃくりながら言い放つ。


「魔法は下級しか使えねぇし、足が遅ぇからまともに逃げる事もできやしねぇ。こんな奴と一緒にいたら早死にするぜ?」

 

 さらにブラッドは恩着せがましく、まるで騙されている者を諭すかのように、ヴァイスにそう言った。


「そんな事知ってます。知った上で、俺は先輩と居るんですよ。だから、気にしないでください」


 必死に怒りを押さえながら、ヴァイスは搾り出すように答えた。その答えを聞き、ブラッドはぶっと吹き出した。


「ぶはっ、なんじゃそりゃ! 死にてぇのかよ、お前!? こんな役立たずと好きで一緒にいるとか、とんだマゾだぜ、馬鹿じゃねぇの!?」


 ブラッドはまたもや、ぎゃははは、と取り巻きと共に下品な笑いを上げる。

 そんなブラッドの態度に、我慢の限界が来ていたヴァイスが思わず腰を浮かしかけるが。


「ヴァイス君、駄目だよ」


 アリスが小声で釘を刺してきた。表情は相変わらず無かったが……目は違う。心配しているような、悲しんでいるような、そんな目でヴァイスを見つめている。

 ヴァイスはギリギリと手を握り締め、自分を抑えた。ここでブラッドに噛み付いても、アリスに迷惑を掛ける事にしかならない。それどころか……正直な話、噛み付いた所で、ブラッドには勝てそうに無かった。

 ふざけた者でも二年、見た感じそれなり以上に戦闘能力はある。魔気も使えるであろう事を考えると、自分では敵いそうになかった。


 もはや我慢するしかなくなったヴァイスは、この時間が早く終わる事を願った。

 その願いが通じたのか、取巻きの一人がブラッドに話しかける。


「ブラッドさん、そろそろ行きましょうよ。そんな奴に構うのも時間の無駄でしょう」

「あ~そうだったな。……というわけだ。俺は今日は忙しいんでな。お前らに構ってる時間はねぇんだよ」


 取り巻きに急かされたブラッドは、傲慢な態度でそんな台詞を吐いた。ヴァイスは、「誰も構ってほしくなんかねぇよ!」と思ったが、口には出さない。

 

 「お前の勝手だけどよ? こいつとは縁を切った方がいいぜ? こんなのと心中したかねぇだろ。……まぁ、囮にはなるかもな? どうせ逃げれねぇだろうしよ! ひゃははは!」


 去り際にまで、余計な台詞を残しながら、ブラッドは取り巻きと共に去っていった。


   ◆


 ブラッド達が完全に視界から消えたのを確認して、ヴァイスは盛大に溜め息を吐いた。

 ヴァイスは耐え切った自分を褒めてやりたい気持ちで一杯だった。ここまで腹が立ったのも久しぶりだった。もう少しで、手が出ていてもおかしくはなかったのだ。

 そうして、一息ついていたヴァイスの目に、俯いたアリスの姿が映った。心配になって、彼は口を開く。


「先輩? ……大丈夫ですか」

「うん、大丈夫。ごめんね、嫌な思いさせたよね」


 アリスは、ヴァイスを心配させない為か、力なく笑った。それを見て、ヴァイスの胸にチクリと痛みが走る。

 ――ゲイルもこんな気持ちだったのかな、と。ヴァイスは頭の隅で思っていた。

 しかし、今はアリスの事だ、とヴァイスはなるべく明るい感じで言葉を続けた。


「確かに、腹が立ちましたけど。何なんでしょうね、アイツは。取り巻きなんて連れて、大将気取りですかね」

「ヴァイス君」


 何とか空気を変えようと、早口で話を続けるヴァイスをアリスが制止した。

 彼女はなにか、思いつめたような表情でヴァイスを見ている。

 なんだろう、とヴァイスはアリスの言葉を待ったのだが。続く言葉に自分の耳を疑った。


「彼の話は間違ってはいないよ。私と居ても、迷惑なだけだよ? 話せたのは嬉しかったし、楽しかったけど。……私とは、もう、関わらない方がいいと思う」


 そう、アリスは言ったのだった。

 ヴァイスは、突然の拒絶に、言葉に詰まりながらも。


「何、言ってるんですか。迷惑だなんて思いませんよ」

「でも、役立たずなのは本当だもの。魔法はできても、身体は弱いし。……足が遅いのも、結構致命的なんだよ? 危ない時に、逃げるのが遅れるから」

「そんなの、仲間が助ければいいでしょう? 助けあえば、それくらい」

「でも、それじゃあ、やっぱり迷惑掛ける事になるよ。それに、もしかしたら、それで君が危ない目に遭うかもしれないじゃない」


 私のせいで……と、悲痛な表情で、アリスは呟く。


 そんな彼女を見て、ヴァイスは言葉が続かなかった。これはまずい、と彼は思う。

 このまま沈黙は良くない。なにか言わないといけない。しかし、いったい何を言えばいい?

 ヴァイスは、アリスの気持ちもわかるのだ。自分も、同じように弱いのだから。そのため、かける言葉に迷ってしまった。

 そんなヴァイスに、アリスは口を開く。


「だから、もう、私には関わらないで。その方が、良いよ」


 笑顔で、彼女は告げたのだった。


 しかし、その声は震えていた。笑顔ではあるが、先ほどの勇者の話をしていた時のような笑顔ではない。まるで泣くのを我慢しているかのように、その顔は歪んでいた。


「馬鹿を、言わないでください」


 ヴァイスは俯き、低く、搾り出すような声で言った。


 ヴァイスにはハッキリと分かっていた。

 アリスは、無理をしている。関わるな、なんて本心では無いはずだ。しかし、それでもヴァイスの事を心配して、自分から離れるよう言っているのだ。

 それを彼は正確に理解していた。それでも、そんな事、彼にしたら到底頷ける話ではなかった。


 ヴァイスはもう知ってしまったのだ。目の前の彼女が、とても明るい、気さくな少女だと言う事を。


 それなのに、この少女を、また人形に戻すと言うのか。あの冷たい、無表情な人形に。そんな事、許せる訳が無い。

 なにより、同じ無能である自分が。他の誰でもない、この自分が、彼女を避けろと言うのか。彼女に避けられるのを恐れていた自分が、彼女を避けろと、そう言うのか。

 そんな事、出来る訳がなかった。


 それに、彼女は先ほど、何と言ったのか。話せて嬉しかったと。楽しかったと。そう言ったではないか。

 そして、それは、ヴァイスも同じだったのだ。

 たとえ力の事が無くとも、アリスと話すのは楽しかった。勇者の話で盛り上がって、一緒に笑いあって。とても、楽しい時間だったのだ。

 それが、こんな短い時間で終わってしまうなんて、そんな事、絶対に、嫌だ。

 ――ならば、自分に出来る事は、唯一つ。


「アリス先輩!」


 ヴァイスは、両手でバンっと机を叩きつつ、椅子を後ろに蹴飛ばし立ち上がった。突然のヴァイスの行動に、アリスが目を白黒させる。

 ヴァイスは、そんな驚いたアリスの顔を、正面からしっかりと見据えていた。そして、笑顔を作って、力強く言葉を紡いだ。


「俺と、友達になりましょう」

「え?」


 アリスが不思議そうな声を漏らす。何を言われたのか分からないような表情をしていたが、それを直ぐに理解して、慌てて答える。


「なんでそうなるの! 私は、君に迷惑を掛けたくないから、だから――」

「俺だって同じですよ」


 アリスの言葉を遮る様に、ヴァイスが口を開いた。


「俺だって弱いんですから。きっと先輩には迷惑を掛けます。……だから、俺と関わりたく無いんですか?」

「ち、違うよ! そんな事気にしないけど、でも!」


 アリスはおろおろとしながら、ヴァイスの言葉を否定する。それを聞き、ヴァイスはクスリと笑みを浮かべる。

 我ながら意地悪な聞き方をする、とヴァイスは思う。


「だったら、お互い様ですよ。俺だって迷惑とか気にしませんから。大体、俺達は弱いんです。だからこそ、助け合うべきでしょう」

「そうかもしれないけど、でも」

「先輩、ほら」


 ヴァイスは机を回り込み、アリスの隣に移動する。そして、未だ椅子に座っていたアリスに、手を差し伸べた。

 アリスは怪訝な顔をしながらも、差し出された手を握った。


「え!?」

 

 ぐいっと、ヴァイスがアリスの手を引き立ち上がらせる。そしてそのまま、彼女を抱き抱えた。

 所謂お姫様抱っこ、という形である。突然の事に、アリスが目を丸くする。


「先輩、やっぱり軽いですね。ちゃんと食べてます?」

「食べてるけど、そんな事は良いから! いきなり、どうしたの」

「いえ、さっきから逃げ足の事を気にしていたみたいなので」


 これが逃げ足とどう関係があるのか、いまいち分からず動揺しているアリスに、ヴァイスが続ける。


「俺がこうして運べば問題ないでしょう? 幸い、こう見えて力はありますから」

「えぇっ、私は荷物じゃないよ! というか、そんな無茶苦茶だよ!」

「無茶じゃないです。ほら、行きますよ!」

「ちょ、ちょっと、待って、降ろして!」


 アリスの制止を聞かず、ヴァイスは走りだした。身体強化で全身を強化し、アリスには到底出せないスピードまで一気に加速する。

 両の手に伝わる暖かい感触に、大胆な事をしているな、と今更ながら頬が熱くなってきた。

 しかし、意識し出すと余計に気になりそうだったので、ヴァイスは無理矢理その事を頭から追い出して、学園内の道を駆け抜けていく。

 ものすごい速さで周りの景色が後ろへと飛んでいくのを見て、アリスは目を回していた。


「ちょっ、速い、速いから! というか怖い!」

 

 アリスが悲鳴を上げながら、ヴァイスにしがみ付く。

 ヴァイスはと言うと、ちゃんとアリスに配慮して速度を調整しているので、余裕を持った涼しい顔で走っていた。


「大丈夫ですよ、これでも加減してますから。なんならもっとスピード上げますよ」

「やめて~!」


 騒ぎながら学園内を疾走する二人に、ポツポツと居た学生が何事かと目を向けてくる。しかし、そんな事は気にせずに、ヴァイスは走った。特に行き先は決めていない。ただ、なんとなく走っているだけだ。

 それは、ブラッドとの一件で、落ち込んでしまったのであろうアリスを、元気付ける為の行動なのだ。

 落ち込んだ時は、とにかく身体を動かしてみるのが良い、というのはゲイルの談である。


 実際に動いているのはヴァイスだが、気分転換にはなるだろう。騒ぐだけでも、気分は晴れるはずだ。そうすれば、先程の事は考え直してくれるかもしれない。

 ヴァイスはそう願いながら、学園内を駆けていったのだった。


   ◆


 こうして、ヴァイスは学園内を適当に走り回り、そのまま王都の外れの高台までアリスを連れてきた。

 そもそもが王都の外側にある冒険科の、さらに外。そこは、広い王都を一望できる場所だった。

 魔物避けの結界内とはいえ、都心からはかなり外れているために、そこにわざわざ来る者はほとんど居ない。冒険科の学生でも知る人ぞ知る、という隠れたスポットだった。


 ヴァイスは、一通り騒いで疲れたのか、すっかり大人しくなっていたアリスをそこへ降ろした。


「……やっと降ろしてくれた。もう、意外と強引なんだね、君って」

「すみませんでした。でも、すこしは楽しかったんじゃないですか?」


 ぷりぷりと怒っている風なアリスに、ヴァイスは悪びれずに言う。なんとなくだが、本気で怒っている訳では無いように見えた。


「まぁ、少しだけ、ね。私じゃあんなに速く走れないしね」

「なら、よかったです」

「……それで、ここに連れて来たかったの?」

「来たかった、ってわけではないですが。なんとなく、です」


 そう言って、ヴァイスは眼下の王都に目を向けた。アリスが隣に並び、二人して王都を眺める。

 夕暮れのオレンジ色の日の光が、広い王都を横から照らしていた。

 

 王都は、国の中心であるために、辺境の村等と比べるとかなり大きい。

 北の端の方、ここと同じく高台の上に白い王城が立っていた。周りを城壁で囲まれたそれは、二対の塔が奥側の両端に併設されている。中央の城とその塔の天辺に、合計三本の旗が風になびいていた。

 正面の城門を出ると、右に緩やかなカーブを描きつつ高台を降りる道がある。高台を降りきると、そこからはまっすぐに王都中央の広場まで大通りが続く。

 中央の広場からは、四本の大通りが東西南北へと続いている。王城への北以外は、それぞれ街壁の門まで続く事になる。

 大通りの道沿いには建物が立ち並び、さらに其処から細い街道が網目のように走っている。すでに夕暮れだが、大きな店が立ち並ぶ中央広場付近は、未だに人が行き交っているのが見えた。


「すごいね、王都が見渡せるよ。夕日も綺麗。こんな場所があったんだね」

「ミーナさんに聞いたんですよ。穴場なんだそうで。眺めは良いんですけど、いかんせん中央からは離れているので、ほとんど人は来ないんですよ」


 ヴァイスは、女の子を連れてくと良いわよ、と言っていたミーナを思い出しながら答えた。


「ミーナさんって、色々知ってるよね」

「情報通ですよ。本が集まる場所には、情報も集まるものですから」


 そう言って、二人はお互い顔を見合わせ苦笑した。ミーナが、どこかでくしゃみでもしていそうだ。


 そして、どちらともなく、王都へと目を向けた。

 未だ人の往来は多いようで、喧騒が遠くから聞こえてくる。

 それに対し、二人の居る高台は静かだった。その対比のせいで、まるで此処だけ世界から切り離されたような錯覚を受ける。

 しかし、寂しさは無かった。その理由は、二人共分かっていた。


 ◆


 それからしばらく、二人で王都を眺めていたが、ふいにヴァイスが口を開いた。


「王都は広いですよね。それに、すごい沢山の人がいますよね」

「そうだね、ここからも見えるよ。まだまだ大勢働いてる。中央のほうは、夜遅くまで賑やかだよね」

「でも、世界はもっと広いですよ。そして、人ももっと沢山います」

「うん」


 ヴァイスの言葉に、アリスは曖昧に頷く。彼が何を言いたいのかよく分からず、その顔を見上げる。

 そんな彼女に対して、ヴァイスは王都から目を逸らさずに、言葉を続けた。


「ただ、そんな中で、俺達みたいな奴は、他に居るんですかね?」

「それは……」


 アリスは答える事が出来なかった。

 今までは、そんな人が居るとは思ってなかったのだ。お互いの事を知った後も、これ以上居るのかと言われると疑問だった。


「俺、先輩の事を知って、嬉しかったんですよ。俺と同じ様な人が居るって」


 悪い奴でしょう、と言って、ヴァイスは笑った。アリスはそれを非難できなかった。自分も似たようなものだったからだ。

 黙って話を聞いているアリスに、ヴァイスは続ける。


「だから、俺は、先輩に避けられたら、きっと凄く悲しいと思います。部屋で一人で泣くかもしれません」

「そんな、避けたりなんか……しないよ」


 苦笑しながら言うヴァイスにアリスが答えるが、歯切れが悪い。自分を避けろと言うのに、自分は避けないなんて、矛盾している。

 ヴァイスはそんなアリスに顔を向けて、自分の思いを告げた。


「それなら、俺にも、先輩を避けさせないでください。関わるな、なんて、そんな悲しい事を言わないでください。せっかくこうして知り合えたんです。俺は、もっと先輩と一緒に居たい」

「ヴァイス君……」


 それは、ヴァイスの心からの願いだった。その真っ直ぐな願いに触れて、アリスの胸の奥から、熱いなにかが溢れてきた。その顔が、くしゃりと歪む。

 アリスだって同じなのだ。避けたくないし、避けられたくない。でも、迷惑は掛けたくない。

 ブラッドとの一件で、自分と居たらヴァイスにも迷惑が掛かると思った。だから、自分には関わるなと言ったのだ。


 それは、間違いだったのだろう。だからこそ、彼の言葉が、こんなにも嬉しくて。彼の想いが、こんなにも暖かい。


 ヴァイスは、アリスに向き直る。そして、改めて右手を差し出しながら、笑顔で言葉を紡ぐ。


「アリス先輩。俺と、友達になりましょう」

「……うん。うん!」


 アリスが、何か決心したような、吹っ切ったような、そんな様子でハッキリと頷いた。

 そして、差し出されたその手におずおずと触れ……そのまま、ゆっくりと両手で包み込んだ。


「ありがとう、ヴァイス君。……これから、よろしくね」


 関わるな、と言った時とは違う。本当の笑顔をヴァイスに向けて、アリスは答えた。


 いつの間にか彼女の目から溢れ出ていた涙が、夕日の暖かい光りを反射して、キラキラと輝いていた。

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