第3話 慣れと勝手さ
五月、この月は慣れの月だろう。新しい生活を始めた学生、社会人、などにとっての慣れの時期だ。だがまた反対例として新しい生活に適応することができないことを五月病と言うそうだ。俺、加藤蓮はどちらかと言えば後者の部類に入るだろう。先月の入学式以来うまくクラスになじめないでいた。他の人たちと言えば、毎日のように
「今日放課後暇?」
だの
「まじぶっちゃけ」
だの
「ありえない」
だの楽しそうに青春を謳歌している。
あいつらがしてることが青春なら、俺のしていることは黒春と言ったところか。それか酷春。
なぜか?それはただ単に俺がコミュ障だからではない。
入学初日、俺は一つの正義活動を執行した。
執行と言ってもそんなに大げさなことではない。
窃盗犯を転ばせたくらいだ。
それでもまぁ人助けをしたことに変わりはない。
でもその被害者が少々問題だったのだ。
窃盗の被害にあった神薙ろあは、その日自分のクラスの自己紹介の時間で見事に語ってくれたのだ。俺の英雄譚を。
多少、否 相当大げさに語ってくれたおかげで俺は少々有名、とまではいかないが噂、くらいにはなった。
ここまで聞くと俺は神薙に感謝するべきだと思われがちだがそんなことはない。なぜなら俺の人間としての本性がそんな英雄、ましてや正義、なんて言葉すら当てはまらないくらい凡人だからだ。
神薙が俺を持ち上げてくれた分落下した時の衝撃も大きいというわけだ。
どんなものかと期待された俺は連日一年生生徒に声をかけられた。
が、なにか期待外れだったのか軽い会釈だけされて帰っていくのだ。
勝手に期待され勝手に失望されるのは少々癇に障る。
そして予想していた通り今度は俺の酷評ばかり聞こえてくるのだ。
女の子を脅してそういわせるように仕向けたんじゃないだろうか。
実は知り合いに頼んだ自作自演なんじゃないだろうか。
皆口々に言いたい放題だ。むかついちゃうぅ
そんな中訪れたのがGWだ。まるで天からの助けのように俺を誘ってくれたのかと錯覚するような気持だった。
そんなGW真っ只中に一本の電話が入った。
電話のベル、鳴り響いている。俺、読書をしている。
SOU!!居留守である。が、もちろん妹も同様GW真っ只中なので妹が電話に出る。女子必殺電話の時の話し方が異常に変わるを絶賛発揮中である。セールスなら丁重に断って切るように子供のころから厳しい英才教育を受けているはずなのだが一向に切る気配がない。すると突然花蓮は俺の部屋まで子機を持ってきた。
おい妹よ部屋に入るときはいつ何時もノックを忘れるでないぞ。うん、その色々とあるから。
花蓮はそんな俺の心情なんて知りもしないかのように
「泥沼」
と一言言って子機を俺に投げ飛ばした。
耳を疑った。泥沼?まさかあの泥沼か?中学の時の担任の、、、、
なぜ今になって。答えは電話に出ればわかることか。
「かわりました、兄です」
聞きたくもなかったあの声が再度耳に響く。
「おぉ加藤か!!高校はどうだ?元気にやってるか?」
「前置きはいいです、要件を。」
行ってみたいセリフ第9位を選択した。
「あぁそうだ!渡したい物があるから、中学校まできてくれないか?」
なにを今思い出したように言いやがって。せっかく天国のような日々を送っていたのにこれじゃあ地獄にUターンだ。
「わかりました、今から向かいます。」
おれは寝間着から高校の制服に着替えて母校に向かった。
俺の通っていた中学校までの道のりは歩いて約30分だ。
高校には電車で通っていて駅は徒歩3分なので自転車は親戚のたかし君にあげてしまった。くっ、、恨むぞたかし君。
俺はたかし君との思い出に浸りながら渋々家を出た。
たかし君は今は小学4年生、、、中学三年生が使っていた自転車なんて必要だったのかたかし君。たかし君は太っている。あだなはたしか「ブラウン管」かわいそうだよたかし君。
たしかたかしはしかられてたがしかしたかしはブラウン管。意味不明な早口言葉を作ってしまったよ、たかし君。
たかし君への嫌悪感は次第に消えいい気分になっていた俺は苦労を感じないまま学校付近まで来ていた。だがそのことに気が付くのは少し後になった。人が歩いている、車線の信号は赤、だがトラックが人にに向かっている。覚えているのはそこまでだった。
「知らない天井だ」
第一声はそんな初号機の人みたいなことを言ってみた。
俺はベッドに横たわっていて、椅子には花蓮が泣きながら座っていた。
今の状況は何となく把握できた、トラックに轢かれそうな人を身を挺して救ったのだろう。可愛い女の子だといいな。
目を覚ました俺に気づいた花蓮は今にも消えそうな声で話す。
「お、、、にい、、ちゃん、死ん、、じゃうと、思った、よぉ!」
おかしい少しドキッとしてしまった自分がいる。
おおおお、おちょちゅけこれはいみょうと。
そういえば犯人は、俺を轢いた犯人はどうなったのだろう。
あの信号は確かに赤だった。その状態で車を止めないうことは、なにかしらのハプニング、それか意図的な犯行どちらかだ。
「なぁ花蓮、聞きたいんだが、俺を轢いたのは誰でその人はどうなってる?」
花蓮は涙を拭いて、息を整える。
「えっとね、お兄ちゃんを轢いた人は今たぶん警察・・・」
後者か
「じゃぁその人は俺を、じゃないな、女の子をわざと轢こうとしたってことか?」
解り切ってはいたが念のため聞いた質問が謎を呼んだ。
「うん、でも意図的だけど、意図的じゃないというか、警察の人が教えてくれたことなんだけど、お兄ちゃんを轢いた人はこう言ってるらしいよ」
『轢いたのは事実です、でも僕じゃありません。』
「なんか変だよね、、」
今は考えたところで推測を立てることくらいしかできない、それなら情報収集が必要だ。
「ちょっと、」
俺はベッドの布団を除けて地面に足を着けた。
当たり前と言えば当たり前、トラックに轢かれて気絶で済むわけがない、右足に激痛が走り、そのまま地べたに倒れこんでしまった。
すぐに花蓮が起こしに来てくれた。
「ばっかじゃないの?!お兄ちゃん、右足骨折れてるんだよ!?」
ん、心配してくれてる系のツンはいいな。
いや心配してくれてるなら先に言ってくれよ。
そのままベッドに逆戻り。
コンコン
扉がたたかれた。
ゆっくりと扉が開かれて、外から三人の人が入ってきた。
警官二人と、それにつれられた男。
犯人だろうか、でもなぜ、、、
そんなことはすぐに説明してくれるだろう。
はじめに口を開いたのは犯人らしき人物だった。
「この度は大変申し訳ございませんでした、、」
そんな、謝られたところでどう反応していいかなんてわからない。
「なぜ、なんで」
「急にそんな衝動に駆られて、でもそんなことまでしようなんて思ってなかったんです。あとは体勝手にと言いますか。」
なぜだ、薬か?それにしては落ち着いている。嘘を言っているようには見えないが。
「この犯人は先ほどからこのような発言をしておりまして、、、」
ついさっき花蓮も同じようなことを言っていたな。
なぜかは解らない、証拠なんてない、だけどこの犯人の言ってることが嘘だとは思えない。
「体かが勝手に動いてしまい、でも自分が動かした感じもあって」
意味不明だ。
「勝手なことを言うな!!被害者の前で!許してもらえるなんておもうなよ!!」
警官はそんなことを言う
まぁそうか、でも勝手だ、周りの人間からしたらこの人は勝手な発言をしているように捉えられる、でも勝手なのはどっちなのだろう。言ってることを信じようとしないで、勝手に決めつけてる傍観者たちは勝手じゃないのだろうか?
それこそ「勝手」を勝手に決めつけるのが人間の勝手さなのだろうか。
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