2/2
「楽しかったねー!」
そう笑顔を向けてくるあいつ。
遊園地には久しぶりに来たらしく、開園時刻丁度から空に月がのぼるまで、あいつはちっちゃいガキみたいにはしゃいでいた。
遊園地のキャラクター、ミルク姫のベール付きティアラまで買ってしまう始末。
まあ、楽しんでくれたならそれが何よりだろう。
呆れ半分楽しさ半分で一緒に走り回っていた俺の頭には、嫌々買わされたレモン王子の王冠。
その2人が城のバルコニーに並んで立っていたなら、どこかの夢見がちなガキくらいは俺たちをおとぎ話の中の人と見間違うかもしれない。
「そうだな。」
どこかぼんやりとした気持ちで言葉を返す。
城から見る夜の遊園地は思っていたよりずっと綺麗で、いつまでも見ていたいと思わせるほどだった。
「ねぇ。……ねぇってば!」
繰り返し俺を呼ぶあいつの声にふと我にかえる。
何だよ、と言いながら隣を見た俺にあいつは微笑み、そして、
「キスしても……いい?」
目を瞑った。
そして……目を……瞑っ……た…………?
待て。落ち着け、俺。
ここで求められていること。それくらい俺でもわかる。わかるけど。
こんないきなりは反則だろーが……。
少し前にあいつにしたイタズラを思い出す。
あのときは余裕があったけど、いざとなったときの俺はこんなにも小心者だったのか。
付き合ってない奴のファーストキスは奪わないとか言ったけど。第一、俺だって初めてだ。
だからこそ、俺のキスは、あいつにしかやれないと思ったんだ。
もう一度隣の方に顔を向ける。
目を瞑ったままじっと俺を待つあいつ。
頭に乗せたティアラが、月と遊園地の光を浴びて淡く輝いていた。
……そんなモン着けなくても、お前は俺の可愛いお姫様なんだよ。
口では絶対言ってやんないけど。そう心の中で呟き、俺はあいつの顔にわずかにかかる真っ白なベールに手をかけた。
あいつはズルい 陽乃 雪 @Snow-in-the_sun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます