第5話 告白

 「おはよう。北斗君、起きていたんだ」

 真が、ダイニングキッチンに入ると、北斗が、テーブルに座っていた。

 

 「全然寝られなくて、場所を変えればと思ったんだけど、結局寝られなかった。君はどうだった?」

 「わたしも全然寝られなかった」

 「きいろはどうしているんだ?」

 北斗は、嫌なことを聞くように、少し暗い表情をしながら問いかけた。

 「まだ、布団に入ったままだった。声をかけていいのかわからないから、そのままにしてきちゃった」

 真は、すまなそうに返事をした。

 

 「それがいいだろ。こういう時は下手に何か言わない方がいい」

 「今日は、涼しいと思ったら雨なんだね」

 真が、窓越しに空を見ると、昨日までの青空が嘘のように暗雲に覆われ、大粒の雨を降らせていた。

 「こういう時くらい雨でも降ってもらわないと困る」

 「空も空気の読んだのかもね」

 言い終わった二人は、暗い表情のまま顔を落とした。

 

 「そうだ。朝ご飯食べるよね。今すぐ用意するから」

 真は、無理に明るい表情を作ると、キッチンに向った。

 「いらない」

 「そうか、残念」

 北斗の隣の席の一個分空いた席に座った。そこが昨日の自分の定位置であり、無意識の内に座ってしまったのだ。

 

 昨日の朝は、自分が作った食事でいっぱいの食卓を囲んで、朝から五人で大騒ぎしていたダイニングキッチンがたった一日で、お通夜のような状態になってしまったことに、涙が出そうになるのを、どうにか堪えた。

 「起きてからずっとここに座っていたの?」

 沈黙に耐えられず、なんとなく口から出た質問だった。

 

 「悪あがきをしていたんだ」

 「悪あがき?」

 「子供の頃のアルバムを見ていたんだ。やっぱり居なかったよ」

 北斗の目線の先には三冊のアルバムが積まれていた。


 「そう・・・・・・」

  真は、アルバムに手を伸ばした。

 「見ない方がいい。辛くなるだけだぞ」

 北斗が、気遣うように言った。

 「わたしだって、ミラクル☆5の一員だもの。一人だけ辛い思いから逃げるなんて嫌だよ」

 言いながらアルバムを取って、見ていくと、北斗の言葉通り、どの写真にもみなみの姿は無く、ページをめくる度に気持ちが重くなっていったが、手を止めることなく、三冊全てに目を通していった。

 

 「みなみ君、居なかったね」

 「ああ・・・・・見終わった後は、あいつのことを思い出していたんだ。あいつのことを覚えているのは、僕達だけだからね」

 北斗の口調は、重く暗いものだった。


 「武君、どうしているんだろ。昨日家に帰ってから、連絡無いけど」

 「あいつも、あいつでショックを受けているんだ。そっとしておいた方がいい」

 それから二人は口を閉じ、キッチンには雨の音だけが響いた。


 「ここに居るのが辛いのなら、階段の下にある部屋に行ってもいいぞ。母さんが毎日掃除しているから綺麗だし」

 「・・・・・・・そうさせてもらおうかな」

 席から立って、キッチンを出て廊下に足を踏み入れたところで、玄関が開く音を耳にした。


 「おう、真、起きていたのか」

 「武君、 家に帰った後、連絡が無いから戻って来ないのかと思ったよ」

 「家に帰って昔のアルバムを見ていたんだ。もしかしたらと思ったけど、やっぱりダメだった・・・・・・」

 顔では笑っていたが、声は物凄く落ち込んでいた。


 「他の二人は?」

 「北斗君はキッチンに居る。きいろちゃんはまだ部屋にいるよ」

 「そうか」

 武がキッチンに入るのに合わせて、真も中に入った。


 「戻って来ないのかと思ったぞ」

 「まだ、みんなと過ごす期間だからそうはいかないだろ。お前も俺と同じことをしていたんだな」

 積まれているアルバムを見ながら言った。


 「なら、アルバムを見た後、あいつとの思い出に耽っていたか?」

 「それもやった」

 武は、返事をしながら、北斗の向かいの席に座った。 

 「どんなことを思い出していたの?」

 真が、何気ないといった感じで聞いてきた。


 「初めてあいつに会った時のことだな。小学一年の時に席替えで隣の席になったのがきっかけで、初めの頃は何かに付けてどうして勉強ばっかするんだって言っては僕の邪魔ばかりしているくせして、テストの時になると急に答え教えろとか言い寄ってくる内に、いつの間にか武も混ざった三人で遊ぶそうになっていたんだ。勉強の虫だった僕が外に出て遊ぶようになったから両親は驚いていたよ」

 「俺は親の紹介だったな。叔母さんとうちの母ちゃん幼なじみで仲良しだから、結婚後も頻繁に会っていて、そうした中であいつを紹介されたんだ。会ってすぐお互いに気があったから、それからは何をするにも一緒で、そうじゃない時の方が少ないくらいだったぜ」

 二人は、真にというよりは自分に語るような口調で話していった。

 

 「わたしは昨日話した通りだよ。近所のノラ犬が怖くて動けないでいるところにみなみ君がやってきて、助けてくれた後、みんなに紹介されたんだよね。わたし、引っ込み思案で友達とか全然居なかったから、あの時は凄く嬉しかったな~」

 真は、懐かしむように話した。

 

 「あいつはいつも俺達の先頭に立っていたよな。なんでも相談も無しに勝手に決めて突っ走っていくのを俺達が必死に追っかけていく。あいつ抜きで決めたことなんて、ほとんど無かったな~。流星群を見るって言い出したのもみなみだし」

 「その道が、いつも凸凹のガタガタ道で、それを僕等四人が、四苦八苦しながら修正して、どうにか成功に持っていく。ほんと、うまい組み合わせだよ」

 「そうやって、みんなで色々やっていくことが楽しかったんだよね」

 「うん、その通りだ」

 三人は、今日初めて互いに笑いあったが、その笑顔はすぐに消え、暗い表情に逆戻りした。そこまで語ってきた友人が、もはや存在しないことを改めて思い知ったからだ。

 

 「けど、どうしてわたし達だけは、みなみ君のことを覚えているのかな? 叔母さんでさえ、すっかり忘れていたのに」

  真は、沈黙の中で、ふと思いついた疑問を口にして、意図せず沈黙を破る結果になった。

 「そういえば、なんでだ?」

 武は、首を捻って考える仕草をした。

 

 「多分、幻想宇宙に居たからだろう。あそこで起こった出来事は、この世界にストレートに反映されるみたいだけど、その時幻想宇宙に居た僕等は影響を受けずに済んだのさ。もし、誰か一人でもこの世界に残っていたとしたら、他の人達と同じように忘れていただろうね」

 北斗が、自分なりの解答を口にした。

 「お前、そんなことを考えていたんだな。さすがだよ」

 そう話す武の顔には、苦笑というよりは失笑が浮かんでいた。

 

 「あいつが居なくなったことの原因を考えるのも普通のことだろ。その過程でもう一つわかったことがある」

 「それは何?」

 「世界の破滅だ」

  北斗は重い一言を放った。

 

 「セロが初めて会った時に言っていたことか。それとみなみが居なくなったことと、どんな関係があるんだよ?」

 「みなみが、幻想宇宙で死んだことで、この世界での存在が消えた。つまり幻想宇宙が消滅すれば、この世界も無くなるということだ。みなみの例からすると、何も気付かず感じない内に消滅するんだろうな」

 「お前、よくそんなことをぽんぽん口に出せるな」

  武の声が、微妙に棘を帯び始めていく。

 「僕は、ただ聞かれたことに応えただけだ」

 北斗が、冷たい声で言い返す。

 

 「いつもの計算通りってやつか、だったら、あいつが死なないように最後まで計算しろよ。お前の計算通りに行動した結果なんだぞ」

  席から立った武は、喧嘩越しの口調になっていた。

 「そんなに僕の計算が当てならないっていうのなら。自分で考えて動けよ。そうしてあいつをしっかり守れよ。あいつと一番長く付き合ってきたんだろ。あいつがどんな行動をするのかくらいわからなかったのかよ」

 北斗は、押さえ込んでいた感情が爆発したように、荒げた声で言い返した。

 

 「なんだと~」

 武は椅子から離れ、北斗に近付くなり、服の襟を掴むと、強引に席から立たせた。

 「殴るのなら殴れ。それで気が済むのならそうさせてやる」

 「お前、そんな趣味があったなんて意外だぜ」

 「それで、お前の気が晴れて現実に向き合うことができるのなら、幾らでも殴らせてやると言っているんだよ」

 「なら、望み通りにしてやるぜ!」

  武は、拳を強く握った右腕をおもいっきり後ろに引いた。

 「二人供、やめて!」

  見かねた真が、大声を張り上げて、二人を怒鳴りつけた。

 

 「みなみ君が居なくなって辛いのはわかるけど、こんなことしないで、その方がよっぽど無駄だよ。これからどうすればいいのか、みんなで考えようよ」

 真は、両目に涙を浮かべつつも、それを流すまいと必死に堪えながら、二人に話していった。

 その様を見た二人は、気まずそうに顔を見合わせた後、どちらでもなく自分の席に戻った。

 真は、ほっとしたのか、頬から涙が落ち、それを見られまいと、二人に背を向けて、拭いたのだった。

 食卓に何度目かの沈黙が訪れたが、それはすぐに破られた。玄関の方で物音がしたからだ。

 

 「何の音だ?」

 「真、平気か?」

 「うん」

 「なら、きいろの部屋を見てきてくれ」

 「わかった」

 急いで、部屋に駆け込んでみると、きいろは荷物ごと居なくなっていて、スマホだけが残されていた。

 

 「部屋には居なかった。これしかなかったよ」

 廊下に立っている北斗にスマホを見せながら報告した。

 「玄関に靴も無かったぜ。あいつ、外に出たんだ」

 「この雨の中じゃ、ズブ濡れじゃすまないよ」

 「スマホ置いていったんじゃ、連絡も取れないし」

 「グズグズしていないで後を追おうぜ」

 「そうだな。徒歩で行ったのなら、すぐに追いつけるはずだ」

 三人は、乗り物が置いてある物置に向った。

 

 「あいつ、自転車に乗っていきやがったみたいだぜ」

 自転車の数を数えた終えた武が、くやしそうに言った。

 「だったら、僕達も自転車で追えばいいだろ。それと二人共、これを着ろ」

 北斗は、物入れの中から三人分の雨合羽を乱暴に取り出すと、二人に渡した。

 準備が整うと、三人は自転車をこいで、駅に直行した。荷物が無いことから、電車に乗って町から出ていくと予想したからである。

 駅に付いて構内に駆け込んで、ホームを見ると、奥のホームから電車が出て行った後だった。

 

 「間に合わなかったか~!」

 「駅員に聞いてみよう。すいません」

 北斗は、駅舎に居る駅員に声をかけた。

 「なんだい?」

 「今の電車に女の子が乗りませんでしたか?」

 「いいや、居なかったよ。こんな雨の日にこの町で電車に乗る奇特な人間は居ないさ」

  駅員は、軽い口調で応対した。

 

 「ほんとですか?」

 「ほんとだよ。改札口をずっと見ていたけど、ネコの子一匹通っていない。神にかけて誓うよ」

 ワザとらしく、胸に手を宛てる仕草をしてみせた。

 「そうですか、ありがとうございます」

 「荷物を持って行ったんなら、自分の家に帰るものかと思っていたんだけど、計算が外れたな」

  北斗は、苦い表情を浮かべながらくやしがった。

 

 「どうすんだよ。あいつ変なことでもするんじゃないのか?」

 武が、顔いっぱいに不安を浮かべると、隣に立っている真も同様の表情になった。

 「言い合っていても仕方が無い。ここは三手に別れよう。僕は高台へ行く。武は町内、真はこの周辺を捜してくれ。見つけたらすぐにスマホで連絡するんだ」

 「分かった」

 「絶対に見つけようね」

 二人を見送った後、真は駅周辺をくまなく捜し、いっそのこと高橋に相談しようかとも思ったが、昨日の一件があるので、疑われるだけだと思い助けを求めることを諦めた。

 

 「ほんとに、どこへ行ったの?」

 一通り捜し終え、駅に戻ってきて、走り回った為にすっかり乱れた息を整える中で呟いた。それからひょっとしたら二人から連絡があるかもという期待を込めて、スマホを取り出して画面を見たものの、着信は無かった。

 「もしかしたら・・・・・・・・・・・・・」

  まだ捜していない場所を思い浮かべると、何も考えず、その場所に向って全力で走っていった。

 

 真が、向った場所、そこは昨日五人が最後に揃った海辺だった。

 大荒れの天気で、海の家も閉まっているというのに、少数のサーファーが荒れ狂う海に挑んでいる姿が目に入った。

 それからすぐに走る速度をさらに上げた。捜している者を見つけたからである。

 きいろは、みなみが立っていた場所に座り込んだまま、動く気配をまったく感じさせなかった。

 

 「きいろちゃん、ここに居たんだね。心配したよ」

 荒い息を堪えながら、必死に呼びかけたが、きいろは、応えなかった。

 「きいろちゃん」

 肩を軽く揺すって、呼びかけた。

 

 「真・・・・・・・・・・・」

 振り向いたきいろの顔は、雨と涙でぐしゃぐしゃになっていて、元気だった頃の美貌は微塵も感じられなかった。

 「こんなところに居たら病気になっちゃうよ! 早く戻ろう!」

 真は、きいろの両肩に手をかけて立たせようとした。

 「居ないの」

 「え?」

 思いも寄らない呼びかけに、思わず戸惑ってしまった。

 

 「あいつ・・・・・・・・居ないの」

 「あいつって、みなみ君のこと?」

 「うん、わたし、ほんとは家に帰ろうと思ったの。ここに居てもあいつのことばかり考えそうだから、それで駅まで行って電車を待っている間に、海のことを思い出して、もしかしたら戻っているんじゃないかって思って、行ってみたけど、やっぱり居なくて、そうしたらもう何もできなくなっちゃった・・・・・・・・」

 「きいろちゃん、そこまでみなみ君のこと・・・・・・・・」

 

 「セロが言ったこと覚えている? パイロットが死んだ場合、乗っていたロボットの機能の使い方が、一番思っている相手に伝達されるって」

 「そうだったね」

 「でね、その使い方、わたしに伝達されたの」

 「・・・・・・・・・そうだったんだ」

 「あいつが爆発で居なくなって、急に知らないことが頭に入ってきて、なんでかって思っていて、セロの説明を聞いてわかったの。あいつ最後にわたしのことを考えていたのよ。どんな思いだったのか知らないけど、わたしのこと考えていたのよ~!」

  きいろは、顔を覆って泣き出した。

 

 「そうか、だから、あんなに必死にみなみ君を捜そうとしていたんだね」

 「あいつはいつもそう・・・・・・・」

 「え?」

 「いつも勝手に巻き込むの。あたしがあいつと会ったのはここに転校してきた時で、まだ友達も居なくて一人だった時に勝手に声をかけてきて、勝手に仲間だって決め付けて、その後はずっとなんでもかんでも一人で勝手に決めていって、そうしたらこの有様、もうこんな中途半端な気持ちにさせたまま、一人で勝手に居なくなるな。バカ~!」

 顔を上げるなり、海に向って、大声で叫んだ。

 

 「その気持ち、わたしもよく分かるよ」

 「真、あんたにあたしの何が分かるっていうのよ!」

 きつい顔をして、真を睨むと、雨で濡れていても分かるくらいに、両目から涙を溢れさせていた。

 「・・・・・・・・そうか、そうだったんだね。真」

 「みなみ君は、わたしの王子様だから、わたしを守ってくれた王子様だから」

 その言葉を耳にしたきいろは表情を崩すなり、真に抱き付き、その後二人は声を出して泣き合い、武と北斗の二人が駆けつけるまで泣き続けた。


 「そうか、そんなことがあったのか」

 北斗は、淹れ立てのコーヒーをシャワーを浴びたばかりで、まだ髪が濡れている真の前に置いた。

 「うん」

 真は、ゆっくりとした動作で、一口飲んだ。なお、今度は席を空けず、北斗の隣の席に座った。

 

 「あいつ、きいろのこと好きだったんだな」

 武が、両手を頭に乗せて上を向きながら言った。

 「僕等に隠し事か、あいつらしくもない」

 「二人供、知らなかったの?」

 真が、意外という表情で二人を見た。

 

 「あいつ、恋愛に関しては全然匂わさなかったからな。そうえいば、学校でも好きな女の話とかしたことなかったぜ」

 「僕もその点は迂闊だった。いつ好きになったのかは今ではわかりようも無いけど」

 「そうだね。二人は、その彼女、居るの?」

 その問いに二人が、沈黙で返すも、真は敢えて追求せず、コーヒーの二口目を飲んだ。空っぽの胃に入ってくるコーヒーは思った以上に苦く、今の自分の気持ちにピッタリ合っているように感じられた。なお、自身のみなみへの気持ちは二人には伏せておいた。これ以上二人に辛い思いをさせたくなかったからだ。

 

 「なあ、俺達戦うしかないのか?」

 しばらくの沈黙の後、武が話題の方向を変えた。

 「こっちから断りようもないからな。嫌でも参加させられるだろう」

 「やっぱり死ぬ時って痛いのかな。一瞬だからそんなことさえ感じないのかな」

 「武君、大丈夫?」

 「お前、少し一人になった方がいいんじゃないのか? この話題も精神的に良くないだろうし」

 「そうさせてもらうぜ」

 武は、席を立つと、部屋から出ていった。

 

 「武君、大丈夫かな」

 真が不安そうな顔をして言った。

 「あいつも色々と思い詰めているんだ。一人にさせておくしかない」

 「わたし、怖い」

 小さな呟きだった。

 「何が?」

 「この先のことを考えると怖いよ。世界が消えるってことには実感湧かないけど、このままみんなが居なくなるのかなって思うと、怖くて堪らないよ」

 真は、自身の両肩に手を回しながら縮こまった。

 

 「僕も怖い」

 北斗が、即答をした。

 「え?」

 意外な一言に、思わず顔を上げてしまった。

 「四人とも無事でいられるのかと思うと、怖くて堪らなくなるよ。ほら」

 そう言いながら見せた右手は、小刻みに震えていた。

 「そうか、北斗君も一緒なんだね。いつもクールにしているから、こういう時でも毅然としているかと思ったよ」

 「僕だって一人の人間さ」

 「そうだね」

 その後、気まずい空気になり、二人は背中を向け合い、真は一杯のコーヒーを時間をかけてゆっくりと飲んだ。

 

 「ばか~!」

 二階から、きいろの怒鳴り声が響いてきた。

 「なにかな?」

 「行ってみよう」

 二人して席を立って廊下に出ると、階段から武が降りてくるところだった。

 

 「武君、きいろちゃんに何かあったの?!」

 真は、駆け寄った武に尋ねた。

 「真、きいろのところに行ってやってくれ」

 武は、真の意図するのとは違う言葉を発した。

 「わかったよ」

 真は、言われるまま、階段を上がっていった。

 「その顔、お前・・・・・・・・・・・」

 赤くなっている左頬を見て、北斗は言葉を切った。


 「きいろちゃん、どうしたの?!」

 部屋に入ってみると、きいろは枕を抱えたまま、膝立ち状態で背中を向けていた。

 「大丈夫なの、いったい何があったの?」

 「武が、ノックも無しにいきなり部屋に入ってきたの」

 振り返りながら語りだしたきいろの顔半分は枕で隠れていて、どんな表情をしているのか、伺うことはできなかった。

 「それで、どうしたの?」

 「好きだって言ったの」

 物凄く小さな声で言い終えるなり、枕で顔を完全に隠した。

 

 「え、ええ~?!」

 あまりに意外過ぎる言葉に、真は大声で驚きの声を上げてしまった。

 「大事な話があるって切り出してきて、次の瞬間に好きだって言ってきたの。このタイミングでよ。このタイミング~」

 「ほ、ほんとだね」

 「理由を聞いたら、あいつが言うには後悔したくなかったんだって、だから覚悟を決めて言うことにしたって言うのよ~。ほんとバカじゃないの。自分の気持ちだけ一方的に押し付けて、いったいなんなのよ~!」

 きいろは、顔から外した枕を上下に激しく動かして、布団を叩いた。

 

 「きっと、言った方がいいって思ったんだよ」

 真は、武を援護した。

 「そ、そんなことわかっているわよ。ただ、この時っていうのが許せないだけよ。・・・・・・・・真、一人にしてくれる」

 「いいよ。なにかあったら呼んで」

 きいろの肩を小さく叩いた後、部屋から出て行き、ダイニングキッチンに戻ってみると、二人は指定席に座っていた。

 

 「武君、聞いたよ」

 「僕もこいつから直接聞いた」

 「真、昼飯作ってくれ」

 「え?」

 「昼飯を作ってくれって言っているんだ。朝飯食わなかったから腹が減っているんだ」

 「えっと・・・・・」

 戸惑っている中、助けを求めるように北斗に視線を向けると、無言で頷いた。

 「わかった。すぐに用意するね」

 真は、エプロンを着用すると、手際良く準備していき、出来上がった料理は北斗が運んでいった。

 

 「メシ大盛りで」

 ご飯をよそる段階で、武が大盛りを注文してきた。

 「どうぞ」

  言われるまま、ご飯がいっぱいに乗せられた茶碗を武の前に置いた。

 武は、「いただきます」も言わず、飯をかき込むように口の中に入れていった。

 

 「で、何か決めたのか?」

 北斗が、痺れを切らしたように声を出した。

 「俺、戦うことにしたよ」

 箸の動きを止めた武は、重い一言を放った。

 「あいつが、みなみが途中で出来なかったことを俺がやる。それがあいつへの弔いになるんじゃないかって思ったんだ。だから、戦う」

 「つまり、仇討ちか」

 「そうとも言えるな」

 「だから、きいろに告白したのか」

 

 「ああ、真はもう聞いたと思うけど、後悔はしたくない。あいつがみなみのことをどう思っているのかわからないし、付き合える可能性はまず無いだろうけど、気持ちだけは伝えておこうと思ったんだ。それにしても皮肉だよな~。みなみが居なくなってからこんなことをするなんて、なんだかあいつに背中を押されたみたいで嫌な気分だぜ~」

 苦笑しながら言い終わると、食事を再開した。

 二人は、なんとも言えない気持ちのまま、その様子を眺めていた。

 そこへきいろが入ってきた。

 

 突然の登場に、三人は動きを止め、きいろを凝視してしまった。

 きいろは、きいろで三人を睨まないまでも、けっこうな眼力の篭った視線を返した。

 それから歩いて、武の隣の席に座ると、三人は、これから何が起こるのか分からず、息を呑んだ。

 

 「真」

 きいろが呼びかけたのは、真だった。

 「は、はい」

 予想外の出来事に、つい敬語になってしまった。

 「あたしにもご飯」

 短い要求だった。

 「うん、わかった」

 席を立つと、ご飯を茶碗に乗せ、お椀に味噌汁を注ぎ、おかずを乗せたお盆を持って戻り、きいろの前に置いていった。

 

 きいろは、三人の視線を前に動じることなく、箸を手にして、茶碗を持つと、ご飯を一口食べた。

 「検討する」

 咀嚼して飲み込んだところで言い、その言葉にどんな意図があるのか分からない三人は、言葉を返せなかった。

 

 「あんたとのこと検討するって言っているの。まだ、気持ちの整理が全然付かないけど、検討だけはしてあげる」

 「ほ、ほんとか・・・・・・・・・・お前、彼氏とか居ないのか?」

 武が、嬉しそうに言った。


 「そんなことはいいから、ちゃんと生き残りなさいよ。置いてなんかいかにないでよ」

 「ああ、ちゃんとしっかり守ってみせるぜ」

 ぶ厚い胸をどんと叩きながら宣言した。

 それから二人は、無言になった。

 「真、席を外そう」

 北斗が言い出した。

 「うん」

 二人は、廊下に出た。

 

 「いいのかな?」

 「二人っきりで話したいこともあるだろからな」

 「そうだね」

 「真、僕も君に話がある」

 北斗が、真剣な表情で言った。

 「な、なにかな?」

 思わぬ言動に、心臓が大きく鼓動し、気お付け姿勢を取っていた。

 

 「君にも前面に出て戦ってもらう」

口から出てきたのは、予想とは真逆の言葉だった。

 「これからは君にも前線に出て戦ってもらうから、そのつもりでいてくれ。四人で生き残る為にも」

 「うん、分かっている」

 真は、真剣な表情で返事をした。

 その一秒後、手の平の紋章が光り、四人は奇攻機の格納庫に立っていた。

 

 四人は、セロの言葉を待たず、それぞれの乗機に乗り込んだが、武ときいろは互いに目配せをし、その様子を見ていた北斗と真は、なんとなく表情が緩んだ。

 各機体に乗ったのを確認したセロが、右手を振ると、四機は幻想宇宙に居た。

 

 「敵はどこ?」

 きいろは、さっきまでの落ち着きが薄れ、殺気立ったような言い方をした。

 「あそこだ」

 武のキングイエローの指が指し示す先に、宇宙の暗闇の中でも形がはっきりとわかる物体が、泳ぐような動きで、幻想宇宙を浸食というよりは貪り食くようにして、虚無を広げていた。

 今回の敵は、鯨のような姿をしていたが、前回と同様、色は真っ黒で、四機に気付くと、真っ赤な目を光らせながら向かってきた。

 

 「ダークマーダラーって、みんな同じじゃないんだね」

  真は、率直な感想を口にした。

 「俺等が、一人一人違うように、向こうにも個性があるんだろ」

 「来るぞ。みんな、気を抜くな!」

 北斗の号令に合わせて、全員が操縦桿をしっかりと握り閉め、それによって自身の戦意を向上させた。

 

 鯨マーダラーは、四機と十数倍もの体格差を強調するように、大きく口を開けながら急接近してきた。

 「遠距離武器で一斉射撃するんだ!」

 エースレッドの機能を受け継いだキングイエローの射出鉄拳、弾丸、ミサイル、大中小のビームなど各機の遠距離攻撃全てが、鯨マーダラーの顔面に命中し、小さな爆発を起こしたものの、ダメージを与えるどころか、全機を丸呑みにするかのように、口を開けたまま、猛スピードで迫ってきた。

 

 「みんな、避けろ!」

 北斗の指示の元に、四機は各自のバーニアを吹かし、機体に最大加速をかけさせ、四方に散らばることで突撃を回避して、敵が離れたところで再集結した。

 

 一方の鯨マーダラーは、その巨体からは想像もできないほどの遊泳力で、すぐに向きを変えて、再突撃してきた。

 「こちらの遠距離武器は通じないみたいだな」

  北斗が、分析するように言った。

 「それじゃあ、どうするのよ!」

 「だったら、直接攻撃すればいいだろ!」

 

 武は、キングイエローを右拳を引いた姿勢で、敵の真っ正面に向わせ、その間に拳にエネルギーを充填させ、攻撃が届く範囲になったところで、黄色に輝く右ストレートパンチを目と目の間に打った。

 その攻撃に対して、鯨マーダラーは体格同様の圧倒的なパワー差でもって、キングイエローを弾き飛ばした。

 「武~!」

 きいろが、悲痛な叫びを上げた。

 キングイエローは、バーニアを吹かして、どうにか体勢を立て直した。

 

 「大丈夫か?!」

 「怪我とかしていない?」

 北斗と真が、状況を尋ねた。

 「ああ、俺は大丈夫だ。キングイエローも右腕の肘関節が動かない以外は全然問題無いぜ。頑丈かつデブいロボットで助かったぜ」

 その説明通り、キングイエローの右肘は歪み、放電現象が起こっていた。

 「右肘がやられたって、それけっこうな問題じゃない。人間だったら大変なことになっているところよ」

 一番最初に追い付いたきいろが、子供に言い聞かせるような口調で叱咤した。

 

 「悪い。悪い。ちょっとカッコいいとこ見せようとして失敗した」

 「バカ、また来るわよ。キングイエローは右肘以外は大丈夫なのよね」

 「ああ」

 「じゃあ、あいつが来たら、左側に避けるわよ。いいわね」

 「わかった」

 大口を開けて迫り来る敵に対して、今のところ対抗する術を持たない二体は、回避行動を取ることで、この場を凌ぐことにした。

 「いくわよ!」

 「いいぞ!」

 二機を余裕で飲み込めるほど、大きな口を開けた敵が間近に迫った頃合いを見計らって、左側に回避行動を取った。

 

 大口から逃れられたと二人が安堵した瞬間、鯨マーダラーは、その行動を読んでいたかのように、体の向きを大きく変え、口に負けないくらいの大きな尾っぽを振ってきた。

 「当たっちまう!」

 「きゃあ~!」

 二人が、もうダメかと思って目を瞑ったところで、正面に現れたブルロボが、両手からバリアを張って二機を守った。

 「二人供、今の内に離脱しろ!」

 北斗の指示を聞いた二人は、機体のバーニアを全開にして、敵の攻撃範囲から離脱した。

 

 「真、いいぞ!」

 「わかった。きゃあ!」

 二機が離脱するよりも早くパワーに押し負けて、尻尾の直撃を受けたブルロボは、吹っ飛ばされていった。

 「真~!」

 きいろが、見えなくなっていくブルロボを見ながら叫んだ。

 「僕が回収に行ってくる。二人はその間、あいつの注意を引いておいてくれ」

 二人に指示を出した北斗は、真の元に急行した。

 

 その鯨マーダラーは、幸いというべきか、手近な獲物から始末しようと、キングイエローとホワイトクイーンの方へ向っていった。

 「どうする?」

 武が、意見を求めてきた。

 「どうするって、告白した女の子に、普通そういうこと聞く? こういう時こそ、男が自らの意見で引っ張っていくものでしょ」

 「その告白した女の子を立てようとっていう男心なんだけどね」

 「どう攻撃していいのか、わからないんだから、今は逃げるしかないでしょ。あいつなら迷わず突っ込んでいっていただろうけど」

 「言えている。なら、ここは作戦参謀が戻るまで逃げるとしますか」

 意見の同調を確認した二人は、機体の機動力をフル活用して、敵から逃げることにした。

 

 「無事か?!」

 ブルロボに追いついたグリーンジャックが、左手を掴むのと同時に自身のバーニアを噴射して、加速を緩め、背後に回って動きを完全に止めたところで、真の安否を確認した。

 「わたしは、大丈夫。ブルロボも両足がやられただけだから」

 「その状態で戦えるのか?」

 北斗は、損傷したブルロボを見ながら心配そうに尋ねた。


 「うん、わたしのロボットは腕があれば攻撃できるから、ただ、両足が無くなった分、足のバーニアが使えなくなって、動きにかなり支障をきたしちゃうけど」

 「戦えるのなら、それで十分だ」

 「でも、どうするの? 正面からの攻撃は通用しないよ」

 「正面からはダメでも他の場所なら通用するかもしれない」

 「どういうこと?」

 「きいろ、聞こえるか?」

 「忙しいけど、聞こえているわ。なに?」

 「お前の武器で、頭以外の部分を攻撃してみてくれ」

 「逃げるので、手一杯なのよ。無茶なこと言わないで」

 「いい女なんだから、そのくらいできるだろ」

 北斗が、挑発するように言う。

 

 「こういう時ばっかり調子いいんだから」

 「お前、人が告白した女になんて口聞いているんだ?!」

 武が、怒りを顕わにした。

 「あんた、いっぱしに彼氏面しないでよね。まだ、OKしていないんだから、やってやるわよ。いい女がどんなものか見ていなさい」

 きいろは、ホワイトクイーンの羽パーツを分割させ、敵の周囲に散らばせるなり、先端からビームを一斉発射させた。

 攻撃を受けた鯨マーダラーの各所から爆発が起こり、もがき苦しむように体を捻りながら大きな口から、それにぴったりの悲痛な唸り声を上げた。

 

 「予想通りだ」

 「どういうこと?」

 「あいつは、頭は固いがそれ以外の部分は、普通の攻撃が通じるんだ。これなら勝てる。二人供、すぐにこっちに来て集合してくれ」

 「わかった」

 「ちゃんとした作戦なんでしょうね」

 「僕を信じろよ」

 鯨マーダラーが怯んでいる隙に、二機は、北斗達の元に集合した。

 

 「どうするのよ?」

 「もう一度遠距離武器で正面から一斉攻撃して、距離が近くなったところで、二手に別れて、左右の側面から攻撃するんだ。そうすれば大ダメージを与えられるはずだ」

 「よし、お前の計算信じるぜ」

 「今度こそ、成功させましょ」

 「わたしもがんばるよ」

 「来たぞ。作戦開始だ」

 

  向ってくる敵に対して、四機は序盤戦と同じく、各機の遠距離武器を一斉発射して、真正面に迫ってきたところで、左側にブルロボとグリーンジャック、右側にキングイエローとホワイトクイーンという形で別れ、側面が見えてきたところで攻撃すると、さっきよりも爆発の規模は大きく、さらに苦しそうな声を上げさせることに成功したのだった。

 「これならいけるぜ」

 「あんたの計算もたまには当たるじゃない」

 「たまにはとはなんだ。たまにはとは」

 北斗が、不服そうに返事をしている間に、鯨マーダラーは、体の向きを変えると、バカの一つ憶えのように同じ行動を取ってきたのを見た四人もまた、同じフォーメーションによる攻撃を続行することにした。

 

 そうして、四機が武器を撃とうとした次の瞬間、敵はハリセンボンが怒って針を突き出すように、全身から巨大な棘を猛烈な勢いで出してきた。

 「危ない!」

 真は、すぐさまブルロボにバリアを張らせて、攻撃を防いだものの、棘の勢いの方が勝り、両腕を破壊されながら、後方へ吹っ飛ばされたが、バリアによって守られ、無傷だったグリーンジャックに制止された。

 「大丈夫か?」

 「わたしは平気、北斗君は?」

 「僕も平気だ」

 「二人は?」

 「今、確認する。武、きいろ無事か?」

 「武が、武が~」

 きいろからの通信は、これまでにないほど、悲痛な響に彩られていた。

 

 「どうした? なにがあった?! 応えろ!」

 その疑問は、敵の巨体が目の前から去ったことで解消された。

 真と北斗の目の前に現れたのは、大半の装甲が剥がれ、両足は原型を留めていないほどに破壊されていて、かろうじて大の字姿勢を取っていることが分かる状態まで損傷しているキングイエローと、その後ろに居て、ほぼ無傷のホワイトクイーンだった。

 

 「武、お前・・・・・・」

 北斗は、最後まで言うことができなかった。

 「好きな女を守ろうとして、やったことなんだから、名誉の傷ってやつだよ」

 武の声は途切れがちで、声量の低さから傷の深さが窺いしれた。

 「もういい、喋るな。後は僕がどうにかする!」

 グリーンジャックのバーニアを全開にして、敵に向っていった。

 「きいろ、援護しろ!」

 「わかった」

  きいろは、羽パーツを分離させて、敵に飛ばしていった。

 「どうにかならないの!」

 真は、自身の機体を動かそうとしたが、両手両足が無い状態なので、思うように動いてくれなかった。

 

 グリーンジャックは、自身の遠距離武装を全て使い、ホワイトクイーンの羽パーツによる援護と合わせた遠距離攻撃を行ったものの、敵は棘を出した状態のままだったので攻撃は一切通用しなかった。

 そうした行動を嘲笑うかのように、鯨マーダラーは、損傷している三機に向って行った。

 「そっちへ行くな! お前の獲物はこっちだぞ!」

 北斗は、攻撃を続行したが、敵は全く意に介さず三機へ向うのを止めなかった。

 

 「きいろ」

 「なに?」

 「逃げろ」

 「え?」

 「このままじゃ、二人供やられちまう。お前だけでも逃げろ」

 「バカ、言わないで! あんたを置いて逃げられるわけないでしょ」

 「真」

 武は、声の矛先を真に変えた。

 

 「なに?」

 「お前のロボット、もうビーム撃てないのか?」

 「撃てるよ。ただ、両手が無いから、あんまり強いのは出せないけど」

 「それでいい。あいつの顔目掛けて一発ぶっ放せ」

 「でも、その攻撃は利かないんじゃ」

 「いいから、それでどうにかできる」

 「ほんと?」

 「ああ」

 「ほんとに、どうにかできるんでしょうね」

 きいろが、確認するように言った。

 「俺を信じろよ」

 武は、力無く言った。

 

 「わかった」

 「来たぞ。外すなよ」

 「あんなに大きいんだもの、外しようがないよ」

 真は、ブルロボの胸にエネルギーを収束させ、機体の腕くらいの細いビームを撃って、敵の顔面に直撃させた。

 

 その攻撃を受けた鯨マーダラーは怒りを顕にしたように、これまで以上に大口を開けて、三機に迫ってきた。

 「いいぞ~」

 武は、操縦桿を動かし、機体を敵に向けると、ペダルを強く踏んでバーニアを全開にして、特攻していった。

 「武、なにやってのよ?! 戻りなさいよ!」

 きいろが、呼び止めた時には、キングイエローは敵のすぐ側まで行っていた。

 

 「お前に、男の生き様見せてやるぜ~!」

  武の決死の思いを体現するように、キングイエローは両拳を合わせるなり回転して、形や色が判別できないほど高速回転していく中、全身にエネルギーを充満させた黄色の巨大なドリルとなって、敵の口の中に突っ込んでいき、内部を凄まじい勢いで破壊し、尻尾から勢いよく外に飛び出した。

 そうして、出てきたキングイエローは、両手両足に首がもげた全身ボロボロの誰の目から見てもどうにもならない状態になっていた。

 「へへへ、みなみ~。お前より先にコクってやったぜ。俺、初めてお前に勝てたんだよな~」

 パイロットが、言い終わるのを待っていたように、キングイエローは大爆発して跡形無く消滅のだった。

 

 「武~!」

 「武君~!」

 きいろと真の悲鳴の後、鯨マーダラーも大爆発して、塵一つ残さず消え去った。


 「二人供、油断するな! この前のこともあるんだぞ」

 北斗は、感情を抑えて言いながら、グリーンジャックに武器を構えさせて、警戒を促した。

 「武~! 武~!」

 きいろが悲鳴を上げる中、三機は光に包まれると、格納庫に戻っていて、目の前にはいつものようにセロが立っていた。

 

 機体から降りたきいろは、床に膝と頭を付けたまま大声で泣き、そこへ北斗と真が駆け寄った。

 「セロ、ブルロボは修理できるのか?」

 北斗は、両手両足を失っているブルロボを見ながら聞いた。


 「ああ、今度の戦いの時までに完璧な状態に直しておくよ」 

 「わかった。早く帰してくれ。それ以上、あんたの言葉は聞きたくない」

 セロは、北斗の要求を飲んで、右手を振って、三人を帰した。

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