第2話 再開
とある一軒家の階段を七歳くらいの女の子が駆け上がり、登り切ったところで、右手の襖を勢いよく開けた。
「お兄ちゃん、起きて!」
女の子は、物が散乱し、半ばゴミ溜め同然になっている部屋の中心で、大きく口を開けて大いびきをかいている兄に近づくなり、おもいっきり体を揺らして、眠りから覚まさせる行動を取った。
「我が妹よ。今はどんな時だ?」
度重なる振動に兄はやっとのことで薄目を開けて、時間を尋ねた。
「九時半だよ」
妹が、即答した。
「いいか、よく聞け。今は夏休み、しかも昨日で補修は終ったのだからして、何時に起きようと全然構わないのだ。それに昨日は深夜に及ぶ重大な任務を完遂したばかりなのだからして、どうか、兄をこのまま寝かせておくれ」
兄は、芝居がかった口調で、妹に自身の状況と心境を淡々と説明した。
「なにが重大な任務よ。深夜のアニメ一挙放送とかいうのを見ていただけじゃない」
「一挙放送は生で見ることに価値があるんだよ。ほら、わかったら、出て行け。しっしっ」
右手を前に出し、犬猫を追い出すような仕草で、妹を追い払おうとした。
「今日は大事な約束があるから、起きないようならお前が最後の砦とか言って頼んできたのはお兄ちゃんの方でしょ。もうこうなったら武お兄ちゃんに頼も」
妹は、下へと降りて行った。
「約束~?」
一人きりになった兄は、眼を瞑ったまま、妹の言葉の中から、引っかかった言葉を口に出した後、自身の記憶と照らし合わせていった。
「そうだ。思い出した~! 今日は約束の日だ~!」
自身の記憶の中に眠っていた約束を思い出した途端、跳ね起きるように顔を上げた。
「とこだ? どこだ? 梨花ちゃんが必死に起こそうとしても起きない不届きもんは~? 俺様が懲らしめてくれる~」
芝居がかった声と供に、部屋に入って来たのは、でっぷり腹で四肢の太い大柄で、丸刈りの少年だった。
「ここに居るよ」
梨花は、まだ布団の上に居る兄を指差した。
「やっぱりか~みなみ~!」
武は、みなみと呼んだ兄を軽々と持ち上げると、天井に付くほど高く掲げてみせたのだった。
「よせ、武、話せばわかる」
「起きたか~? 思い出したか~?」
言いながらスクワットの要領で、体を上下に動かして、みなみを激しく揺さぶった。
「起きる、起きるからやめてくれ~」
「ようし、さっさと顔を洗って準備しろ」
「へ~い」
満足した武によって、布団の上に戻されたみなみは、今にも死にそうな顔をしながら返事をした。
「まったく、薄情な奴だ。自分で集まろうって言っておいて、このザマとは、親友として恥ずかしいわい」
「うっせ~! 俺だって、完全に忘れていたわけじゃねえよ」
「それであの有様かよ。親友として情けないぜ」
家を出て、自転車に乗って移動しいる二人は、町の駅へ向かい、駐輪所に自転車を置いて、改札口へ行った。
「誰か先に来ているかな?」
「あいつだ」
みなみが、右手で指し示す先には、構内のベンチに座って、ぶ厚い本を読んでいる短髪で眼鏡をかけた男が居た。
「人を指差すとは、失礼だな」
本を閉じた男は、右手の中指で眼鏡を上げながら、みなみの行動を注意した。
「なにが失礼だよ。こんなくそ暑い中、そんなぶ厚い本読んでいる奴の方がどうかしているぜ」
「やっぱり一番乗りは北斗だったか」
「僕は、時間には正確だからね。それよりもお前達遅刻だぞ」
「どこがだよ。予定時間の十時前じゃねえか」
構内に備え付けの時計を指差しながら言い返した。
「こういう時は、約束の十分前に集合というのが常識だろ? いや、みなみにそれを期待した僕がバカだったというべきか」
北斗は、やれやれと頭を振って自省した。
「まだ、二人供来ていないからいいだろ」
「おいおい、せっかく十年振りに五人が揃うんだから笑顔で出迎えようぜ」
「武の言う通りだ。みなみ、ここは一時休戦といこう」
「おう、望むところだ」
二人が落ち着いたところで、駅の手前のホームに一台の電車が止まり、五人ほど降りて改札を抜けていく中、最後に改札を抜けた赤色で胸元が大胆に開いたタンクトップにへそ出しの短パン姿で、顔に丸いサングラスをかけ、長い茶髪をなびかせながら歩いてきた少女が、三人の前で足を止めた。
「そこの三人がわたしのお出迎えかしら?」
少女は、芝居がかった仕草でサングラスを外しながら問いかけてきた。
「お前、もしかして、きいろか?」
みなみは、少女を指さしながら、名前を口にした。
「だから、人を指さすなと言っているだろ」
北斗が、きつい口調で咎めた。
「正解。それで北斗に武に、ん~君はみなみの弟かしら?」
真ん中に立っているみなみを指差しつつ、ワザとらしく首を傾げて尋ねるフリをした。
「なんで、俺だけ弟なんて有り得ない間違いしてんだよ」
「だって、わたしが知っているみなみは、わたしと同じ身長だったんだはずだけど、君、わたしより背が低いじゃない。弟だって言われても仕方ないんじゃないかな~」
きいろは、これまたワザとらしく、自身の頭に乗せた右手をズラしていって、みなみの頭のてっぺんにもってくると、そこから生じた微かな隙間をじっくり眺めながらいじわるな発言をした。
「あんた、発育悪いんじゃない。身長いくつ?」
挑発するような問いかけだった。
「ひゃ、百七十・・・・・・・・・」
威勢の一切感じられない実に弱気な返答だった。
「わたし、百七十三」
勝利を確信した言い方だった。
「百八十四」
「百七十六」
武と北斗が、順番に身長を報告して、みなみの心の傷を抉っていった。
「今の聞いた? やっぱり成長が足りないんじゃない。だから、こんなに身長差が付いちゃったのよ。可哀そうにね~」
きいろは 憐れむように、みなみの頭を優しく撫でた。
「お前が、デカ過ぎるんだよ。うちのクラスの女で百七十超えている奴なんて、一人もいねえぞ!」
「見事なモデル体型に育ったレディー向かって、失礼ね。ちょっとは褒めるとかできないわけ~?」
そう言いながら、グラビア雑誌のモデルのようなポーズを取って、自身の体の魅力を存分にアピールしてみせた。
「れ、レディだ」
みなみは、立派に成長した"お胸"を釘付けになるほど凝視しながら、頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「そんなとこだけ褒めてんじゃないわよ」
頭を軽く叩いた。
「やりやがったな~」
「二人供、その辺にしておけ。せっかくの再会だっていうのに雰囲気もへったくれもないじゃないか」
「そうだぜ。もっと、感動的にできないのかよ」
「それもそうね。三人供、六年振り。いい意味で変わらないでいてくれて嬉しいわ。ところで真は?」
口調を改めたきいろは、三人が居ない方に視線を向けながら尋ねた。
「まだだよ」
「一番最後っていうのは、あいつらしいな」
「あの電車に乗っているんじゃないのか?」
北斗が、指差す先に奥のホームに入ってきた電車が見えた。
一分ほど停車した電車が発車すると、ホームには階段に向かって歩いている三人の乗客が見え、その一番後ろに大きめの鞄を持った一人の少女が居て、階段に向う中、何度も転びそうになっては四人を慌てさせ、駅の改札口に傷も汚れも無い無事な姿を見た四人は、ほっと胸を撫で下ろした。
少女自身も安心したのか、表情を和らげ、改札を出ようとして、自身が先に出てしまったことで、鞄を自動改札の扉に挟まれて、警報にも負けない悲鳴を上げるという最後の最後に、予想外のオチを披露した。
「はあ~びっくりした~」
警報を聞きつけてやってきた駅員によって、警報から解放された少女は、大きく息を吐きながら、安堵の表情を浮かべた。なお、助けた駅員は、あまり体験したことのない出来事だったのか、やや苦笑しながら駅舎へ戻っていった。
「真は相変わらずひやひやさせてくれるぜ」
みなみが、駅員と同じように苦笑しながら言った。
「ごめんね~。えっと、
「おう」
「
「久しぶりだぜ」
「
「十年ぶりだね」
「
「元気そうで嬉しいわ」
少女は、右から順番に、四人のフルネームを呼んでいった。
「そして、お前は
最後にみなみが、白一色で肩と胸元をがっちりガードしているワンピースを着て、頭に麦わら帽子を被り、二つのおさげ髪に眼鏡をかけた少女のフルネームを呼んだ。
「へへ~ミラクル☆5、十年振りの勢揃いだな」
みなみが、嬉しそうに言う中、四人は微妙な表情を浮かべていた。
「それ、覚えていたのか?」
「あたり前だろ。まさか、お前等忘れていたわけじゃねえだろうな」
「覚えてはいたが、一生口にすることはないし聞くこともないと思っていたよ」
「あたし、初めにダサいって言わなかったっけ? それに真がすぐに引っ越ちゃったから一年ももたなかったじゃない。その後あしたも引っ越しちゃったし」
「確かに一年足らずで解散したけど、自分達のチーム名をダサいとか言うなよ。真はどうなんだ?」
「うん、わ、わたしはいいと思うけど」
「やっぱり、俺の味方は真一人だけだぜ」
みなみは、心底感激したように、真に感謝の言葉を述べた。
「それよりもみんな、大きくなったね。見違えたよ~。やっぱりわたしが一番小さいのか~。残念」
真は、改めて四人を見ていきながら言った。
「お前、身長いくつ?」
みなみが、興味津々な感情丸出しで尋ねてきた。
「百六十一だけど」
ちょっとだけ恥ずかしそうに、身長報告した。
「そうか、そうか、お前だけは、俺を裏切らなかったんだな。超嬉しいよ~」
みなみは、真の両肩をしっかりと掴んで、うんうん頷き、目からは若干の涙を浮かべながら、喜びと感激の気持ちを言葉にした
「どういう意味かな~?」
真は、困ったような怒っているような表情を浮かべていた。
「男として、ちょっと成長が足りなかったのよ。ねぇ~みなみ~」
きいろは、身長差が際立つように、真横に立った。
「うっせ~! 俺だってまだまだ成長するわい!」
みなみが、物凄い剣幕で言い返した。
「ふ~ん、あんた牛乳飲めるようになったの?」
「へん、牛の乳なんぞ。人間の飲み物じゃねえよ」
「だから、身長が伸びないのよ。あたしは今でも毎朝欠かさず飲んでいるのよ。そのお陰で、ここまで成長したんだけどね~」
きいろは、自慢するように胸を張った。
「ほんと、きいろちゃん、美人になってびっくりしたよ~。モデルさんみたいなんだもん」
真は、きいろをうっとりするような表情で眺めた。
「それそれ、そういう言葉を待っていたのよ~。なのに、この男共ときたら誰一人言ってくれないんだもの。がっかりしちゃう。やっぱりうちの男は、イモだわ~」
きいろは、真にもたれかかるなり、嘆きの言葉を口にした。
「成長の話はもういいだろ。そういえば真、なんで眼鏡かけてんだ。こいつみたいなガリ勉にでもなったのか?」
みなみは、北斗を指差しながら聞いた。
「そういうんじゃなくて、ちょっと視力落ちちゃって、日常生活には問題無いんだけど、眼鏡していないと細かい字とか見えないから習慣になっちゃっているんだ。コンタクトはなんか苦手で」
真は、恥ずかしそうに説明した。
「なんか、才女って感じで似合っているわよ」
「ありがとう。きいろちゃん。ねえ、三人は同じ学校に行っているの?」
「こいつ、裏切り者」
みなみが、おもしろそうに北斗を指差した。
「なにが、裏切り者だ。裏切ったのはお前だろ。三人で一緒の学校に行こうって言うから、親の反対を押し切ってワンランク下の高校受験するつもりでいたら、そこにも入れないくらいの成績取りやがって」
北斗は、苦虫を噛み潰したような表情を顔全体に浮かべながら恨みを吐いた。
「みなみ君、一人だけ違う学校に行っているの?」
「いんや、俺様が付き添っている。こいつ一人じゃ気の毒だからな」
「で、北斗はどうしたのよ」
「その腹いせに、この県で一番偏差値の高い高校受験して、見事合格してやったよ。その代わりに十駅も乗り継いでいかないといけなくなったけどな。初めの志望校なら、三駅だったのに、まったく」
「そ、そっか、大変だね。きいろちゃんは?」
これ以上、この話題に触れるのは、まずいと思った真が、話題の矛先を変えた。
「地元の高校に通っているよ。真はどう?」
「わ、わたしも地元の高校に行っているよ」
「いつまでも、ここで立ち話もなんだから、そろそろ移動しよう」
北斗が、会話を終らせるように言った。
「それで、ジェントルメンの三人は、わたし達レディーをどうやってエスコートしてくれるのかしら?」
きいろは、男性陣の出方を窺うように、不適な眼差しを向けた。
「もちろん、バッチリ考えているから安心してくれ。僕の計算に間違いは無いからね」
北斗は、きいろの挑発を迎え撃つように、眼鏡を上げながら不適な微笑みを返した。
「北斗が、そこまで言い切るのなら安心ね。はい」
背負っているリュックを、みなみに差し出した。
「なんだよ。いきなり」
「レディーの荷物を持つのもジェントルマンのたしなみでしょ」
きいろは、さも当然といった口振りだった。
「なんだって、俺ばっかりに命令するんだよ。武か北斗でもいいだろ」
「あんたが、一番それらしいからよ。あたしに指名されるんだから、誇りに思いなさい」
「へいへい、わかりましたよ。お嬢様」
物凄く芝居がかった言い方で返事をした。
「真のは、俺が持ってやるよ」
武が、率先して真の鞄を持った。
「わ、わたしはいいよ」
「遠慮すんな。これもジェントルマンとやらのたしなみだ」
そんな武の態度を見ていたきいろは、みなみの右腕を肘軽く突いて、無言で見ろと合図したが、みなみは理解できないといった表情をしただけだった。
五人は、駅を出ると、駐輪所へ向った。
「移動は自転車を使う」
北斗が、引率の先生のような口調で、乗り物を指示した。
「それはわかるけど、わたし達の分はどうするの? まさか二人乗りとか」
「いいや、そんな規則違反なことはしない。君達二人の分もしっかり確保してあるから安心してくれ。右端に置かれている二台が、君達の分だ」
「お前、根回しいいな」
「お前達二人が遊び呆けている間に準備しておいたんだ。この町での移動に自転車は欠かせないからな」
「俺達にも、俺達なりに準備があったんだよ。なあ、武」
みなみが、同意を促すと、武は素直に頷いた。
「荷物はよろしくね。みなみ」
きいろは、言い終えるなり、自分に宛がわれた自転車に乗った。
「ったく」
みなみは、渋々自分の自転車の籠にリュックを乗せた。
「そうなると、俺は真の鞄だな」
武は、渋ることもなく、真の鞄を籠に入れた。
「ありがとう」
礼を言った真は、自分の自転車に乗った。
「準備も整ったことだし、出発!」
いつの間にか、先頭に居たみなみが、発進を促すと、全員それに続いて、駐輪場から出て行った。
真夏の日差しが降り注ぐ中、五人は乗り物のスピードから発生する特有の風を心地良く感じながら、道を進んでいった。
五人が着いた場所は、木造の一軒家で玄関には、駄菓子屋とシンプルかつ分かり易い文字の看板が掲げられていた。
「懐かしい~」
自転車から降りたきいろが、店を眺めながら嬉しそうに言った。
「このお店まだあったんだね」
真も、昔を懐かしむように顔をほころばせた。
「ああ、店のばあさんもまだ、健在だ」
「ほんと、不死身じゃないかってくらいに元気だよ」
「僕も、あの生命力には驚かされるばかりだ」
三人が珍しく同意見の言葉を並べていると、店から小さな影が現れ、三人の頭を手早く引っ叩いていった。
「痛って~! ばあさんなにしやがる?!」
「あんたらが、わしの悪口を言っているから、こらしてめてやっただけさ」
駄菓子屋のおばちゃんは、してやったりといった表情を浮かべていた。
「おばあさん、こんにちは」
きいろと真は、揃って頭を下げながら挨拶した。
「おや、あんた達、きいろちゃんと真ちゃんかい? 久しぶりだね~」
おばちゃんは、さっきまでの険しい表情が嘘のように、穏やかな微笑みを浮かべて、二人に言葉をかけた。
「わたし達のこと覚えているんですか?」
「もちろんだとも、いつもうちに来ていただろ。常連さんの顔は忘れないさ。今日は、五人揃ってのご来店ってわけかい」
「はい、ちょっとした約束があって、集まることになっていたんです」
「そうかい、そうかい、なにも無いところだけど、ゆっくりしていきな。それで、まずは何にするんだい?」
「もちろんラムネに決まっているぜ!」
みなみが、指を天に向けるという良くわからない仕草で返答し、四人も賛同するように同じものを注文した。
「はいよ」
おばちゃんが、店から持ってきた人数分のラムネを受け取って、料金を払った五人は、合図するでもなく蓋を開けて、一斉に内部のビー球を瓶底に落した。
そうすると、飲み口からラムネ特有の大量の泡が吹き出し、両手にかかったが、五人は嫌がるどころか大喜びした。
「それじゃあ、十年振りのミラクル☆5の再集結を祝して、乾杯!」
みなみが、乾杯の音頭を取って、瓶を掲げると、四人も同じように瓶を掲げ、それから同じタイミングで飲んだ。
「真、お前炭酸飲めるようになったんだな。前は苦手でちびちび飲んでいたけど」
みなみが、からかうように言った。
「みなみ君、それはあんまりだよ。わたし、もう高校二年生なんだから、炭酸くらい平気だよ。コーラだってちゃんとラッパ飲みできるし」
真は、自慢するように胸を張ったが、やや膨らみが薄かったので、きいろに比べると効果は微妙だった。
「今度は喰いまくるか」
五人は、かつては少量しか買えなかった駄菓子を、成長と供に獲得した財力をフル活用して、買いまくり快くまで食べ尽くしたのだった。
駄菓子で腹を満腹にした五人は、おばちゃんに自転車を置かせてもらう許可をもらうと徒歩でかつて根城にしていた場所を歩き回り、全く変っていないところや完全に無くなったところを見ては一喜一憂した。
日が沈み、夕日に照らされた五人の影が地面に映ると、それは小さかったの頃よりもずっと長く伸びていて、各人の成長を示していた。
「夕飯は、どうするのかな?」
きいろが、三人に尋ねた。
「僕の家でバーベキューだ」
北斗が、任せておけといった感じで返事をした。
「家の人に迷惑じゃない?」
真が、不安そうに尋ねた。
「父さん、母さん、姉さんは旅行に行っているし、君等が使う許可も取ってあるから問題無い」
駄菓子屋に戻っておばちゃんに礼を言って、自転車を取りに行った後、北斗の家に向った。
北斗の家は、大きな門があって、その中にある庭も広く家も大きいという、ちょっとしたセレブ感が備わっていた。
「いつ来ても広いわね~」
敷地内の駐輪場から出て、庭から家をぐるっと見回しているきいろが感嘆の声を上げた。
「うん、あんまり広過ぎて、わたしいっつも気後れしちゃっていたよ」
「わかる。わかる」
「じゃあ、俺達バーベキューの準備するから、待っていてくれよ」
「ほんとに手伝わなくて平気~?」
「任せておけって」
男三人が、物置の方へ行くと、庭には女子だけになり、二人は学校の友達のことなど、自身の近況に付いて、あれこれと話した。
それから、男三人が物置から持ってきたバーベキューセットを組み上げていくと、宴の始まりといった雰囲気が出始めた。
「道具が揃ったのはいいけど、肝心の食材は?」
「ここにあるぜ」
みなみと武が、にんまりした表情で、手にしているクーラーボックスを地面に置いて、中を開けると、そこには肉がいっぱいに詰め込まれていた。
「そのお肉、どうしたのよ?」
「この日の為に俺と武でバイトして溜めた金で買ったんだよ! この町のスーパーで買ったそれなりに高級な肉なんだぜ。じっくり味わうがいい~!」
完全な殿様口調になっていた。
「それなら僕の勝ちだな。僕もバイトしていてね。高校の近くにある有名デパ地下で購入したんだよ」
二人と同じように地面に置いたクーラーボックスを開けて、披露した肉は、色艶供に二人の肉を圧倒していた。
「それで、お肉以外の食材は?」
「こっちに入っている」
北斗が、肉とは別のクーラーボックスを開けると、中には野菜などの食材がギッシリ詰め込まれていた。
「さすがは北斗、準備いいわね」
「僕の計算はいつでも完璧だからね」
北斗の勝ち誇ったような視線の前に、みなみと武はくやしそうな表情を浮かべることしかできなかった。
「二人も、この日の為に一生懸命バイトしてくれたんだから、わたしは嬉しいよ」
真が、手早く二人に励ましの言葉をかけた。
「準備完了だ。後は肉を焼くだけだ」
北斗が、真っ赤に染まった土台を指差しながら言った。
「それじゃあ、バーベキューの始まりだ。じゃんじゃん焼いてくれよ~」
みなみが、宴の開始の合図をした。
「言われなくても、そうさせてもらうわ」
「じゃあ、わたしは野菜を切るね」
「そういうことは男達にやらせないよ」
「いいの。わたし、こういうの得意だから、お母さんにみっちり仕込まれたし」
「あの泣き虫真が料理ができるようになるなんて驚きだぜ」
みなみは、心底驚いたように目を丸くした。
「おいおい、みなみ、真だって、成長するぜ」
「そうよ。あんたみたいにいつまでもガキじゃないのよ」
「俺のどこがガキだっていうんだよ!」
「今でも巨大ロボットアニメ見ているじゃないか」
「それ、ほんと? あんた今幾つよ」
「好きなんだからいいだろ。人の趣味にケチ付けるな」
「ほらほら、いつまでも言い合いしていると、肉が焦げて、うまい時期を逃がしてしまうぞ」
「そうだった」
「は~い、みんな、こっちも食べてね~」
真は、バランス良く食材を刺している鉄串を両手で持ちながら呼びかけた。
楽しくも騒がしい宴は、遅くまで続いた。
それなら今夜、乗り手を連れてくるとしよう。
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