ミラクル☆5
いも男爵
第1話 流星
これは五人の絆が奇跡を呼ぶ物語
また一つの宇宙が消滅した。
このままでは全宇宙が消滅するのも時間の問題だぞ。
対策を急がねば。あれの開発はどうなっている?
後少しだが、乗り手はどうするのだ?
今夜選ぶ。
その夜、町は大変な悪天候に見舞われていた。
空一面を覆う暗雲が、地上へ向けて大粒の雨を滝のように振らせ、怪物の鳴き声にも似た強烈な暴風も合わさった大荒れの天気だったのである。
そのような環境下にある町には人一人居なかったが、北側に面している山間の高台には、五人の子供が寄り添っていた。
このような天候を予想していたのか、全員雨合羽着用という雨対策こそしているものの、吹き荒れる暴風に対してはまったく無意味であり、周囲には雑草ばかりで風を遮れるものは一つも無いので、飛ばされないよう地面に伏せたまま一か所に固まって、ひたすら耐えることしかできなかったのだ。
「もういやだ~! お家に帰りた~い!」
おさげの女の子が、泣きわめいた。
「ばっきゃろ~! ここで帰ってみろ。母ちゃん達に叱られるだけだぞ! 今更、引き返せるかってんだ! どうなってんだよ。この天気は~?! 聞いていないぞ~!」
先頭に居る短髪の男の子が、真後ろに居る眼鏡をかけた男の子に向かって怒鳴った。
「雨が降る確率は五十パーセントって言っただろ! それに大荒れになるともちゃんと警告しておいたんだから僕に責任はないよ!」
眼鏡の男の子は、負けじと怒鳴り返した。
「それじゃあ、お聞きしますが、大先生様よ。この雨はいつ止むんですかい?!」
「僕の計算が正しければ、後五十分ほどで収まるはずだ! そうすればギリギリ間に合うよ!」
二人は、大声で罵り合うように言葉を交し合った。そのくらいの声量でないとまともな会話ができないからだ。
「五十分って、どのくらいだ~?!」
「学校の授業、一回分だ!」
「やっぱり、お家帰る~!」
おさげの女の子が、再度泣き叫びながら訴えた。
「その間、なにをしていればいいのよ!」
長髪の女の子が、大声で尋ねてきた。
「俺に聞くな!」
「言いだしっぺで、みんなの反対意見を無視して、今夜ここに行くことを強行したんだから、待つ間のこともきちんと考えておきなさいよ!」
「その為に用意した遊び道具はみんな雨と風にやられちまったんだからどうしようもねえだろ。それにこういう場合、考えるのはこいつの担当だろうが!」
眼鏡の男の子を指さしながら言い返した。
「僕が任されたのは天候の対策だけだ。だから全員分の雨合羽を用意して、雨を凌げているじゃないか! それ以上のことを要求しないでくれ!」
「まったく、当てにならない男共ね~!」
長髪の女の子は、大声で呆れる言葉を口にした。
「だったら、お前はどうなんだよ! 自分でも考えろよな~!」
「とにかく、みんな雨が止むまでふんばれ! そうすりゃ、きっと見られる!」
五人の中で一番体格のいい丸刈りの男の子が、励ますように四人に言葉をかけた。
その後もなんだかんだと言い合いをしながら、五人はその場に留まり続け、帰る者は一人も居なかった。
五人の必死のがんばりが天に届いたのか、それとも神様のきまぐれか、予報通りになっただけなのか、雨と風は次第に収まり、高台に静けさと平穏が戻り始めた。
そうして緞帳が開かれるように、ドス黒い暗雲がはれていくと、くっきりとした見事な円を描く満月と共に満点の星空が、五人の目の前に広がっていった。
「きれいなお星さま~」
「俺達のがんばりが、天に通じたんだ~!」
「ほんとにきれい」
「最高のお星さまだぜ~!」
「僕の計算通りだな」
立ち上がり、雨合羽をその場に脱ぎ捨てて、身軽になった五人は、髪はズブ濡れで手足が泥だらけであることも忘れて、祭りを楽しむように大はしゃぎしながら、それぞれの言葉で星空を賛美していった。
苦難を乗り越えて見ることのできた光景だけに、その喜びも人一倍大きかったのだ。
「あ~流れ星!」
すっかり泣き止んだおさげの女の子が、流れ星が飛んでいった方を指さしながら叫んだ。
「ほんとかよ~。俺、見逃したぜ~」
短髪の男の子が、くやしそうに右手を鳴らした。
「もうすぐ時間だ。そうすれば、もっとたくさん見られるよ」
眼鏡の男の子が、時計を見ながら予告時間を告げた。
「ようし、全員星空に注目~!」
短髪の男の子の号令に合わせて、四人は一斉に顔を上げ、視線を星空に向けた。
五人のタイミングに合わせるように、流れ星が一つ、また一つと通り過ぎていくと、その数はどんどん増していき、一大流星群となって、夜空を光のシャワーで彩った。それは星空だけが見せることのできる最高かつ究極の演出だった。
子供達は、はしゃぐことすら忘れて、流星群に魅入っていた。実際には天と地ほどの距離があるのだが、この時の五人にとっては、確かに手の届く距離にあり、自分達が星々の中に身を委ねているような気分に浸っていたからである。
「終わり?」
流星群が終わったところで、おさげの女の子が、誰にでもなく聞いた。
「そうみたいね」
「最高の光景だけだったぜ~」
丸刈りの男の子は、固く握った拳を上下させながら喜びを表現した。
「きれいだったな~」
眼鏡の男の子は、うっとりした表情で感想を述べた。
「次に見られるのいつだ?」
短髪の男の子が、眼鏡の男の子に尋ねた。
「観測予想だと、次に見られるのは百年後だ」
眼鏡の男の子は、服の下から出したタブレットの画面を見ながら説明した。
「それじゃあ、俺達じいさんばあさんどころか、ほとけ様になっているじゃんか」
「僕に言われても困るよ。それにこうして見られただけでも十分だと思うけどね」
「それなら仕方ないよな」
「もう見られないんだね~」
「だから、この百年に一回の光景に価値があるんでしょ」
その後、全員がせめてもう一つくらい流れ星が見られないものかと、夜空に目を向けると、その願いが通じたかのように、一つの流れ星が視界に入ってきたが、それは他のものとは異なり、五人の立っている場所に向きを変えると、光加減や色合いまではっきりと見えるところまで急接近してきた。
五人は、何が起こったのか理解できず、茫然と見ている中、星は風船が割れるように弾けて、光の粒子らしきものを大量にばらまいた。
逃げることも忘れて、その光景を見ていた五人は光の粒を全身に浴び、体全体が星のように強く発光したが、その光はすぐに消え、元の状態に戻っていった。
「なんだったの? 今の」
長髪の女の子が、茫然とした表情を浮かべながら言った。
「わからないけど、なんかすごく光っていたよな」
丸刈りの男の子は、自身の体を見ながら返事をした。
「体に害が無ければいいけど」
眼鏡の男の子は、体を触りつつ冷静な声で考えを口にした。
「でも、怖いって感じはしなかったよ」
おさげの女の子は、泣く素振りも見せず、落ち着いていた。
「よくわかんないけど、奇跡の体験ってやつじゃねえのか。そうとしか言いようがないぜ」
短髪の男の子は、一人だけ納得したようだった。
「今は、そう言うのが無難かな」
眼鏡の男の子が、結論付けるように言うと、三人もその意見に賛同するように、首を縦に振った。
「それで思ったんだけどさ。十年後にここに集まって、またみんなで一緒に星見ようぜ」
短髪の男の子が、いいアイディアを思い付いたとばかりに両手を叩きながら提案してきた。
「なんの為に集まるの? 流星群見られないのよ」
長髪の女の子が、意図するところをストレートに尋ねた。
「百年後が無理なら、その十分の一の十年後に同じ星空を見るくらいはいいだろって思ったんだよ。俺達だけの星祭りってわけだ」
自画自賛の感情の籠った説明であった。
「・・・・・・・・・・・わ、わたしはいいと思う」
一番先に賛同したのは、おさげの女の子で、言い終わるなり、恥ずかしそうに縮こまってしまった。
「俺も賛成する」
二番目は、丸刈りの男の子だった。
「非効率的な考えだけど、僕も構わないよ」
三番目は、眼鏡の男の子であった。
「ここまで賛成が出たんじゃ、反対するわけにはいかないわね」
長髪の女の子は、言葉の上では渋っていたものの、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「決まりだ。そんじゃ チーム名決めようぜ」
「チーム名? そんなもの必要なのか?」
「五人のこれからのことを考えれば、チーム名があった方がいいだろ。五人一組なんだし」
「そこまで言うのなら、ちゃんとした名前を考えているのでしょうね」
「もちろんだ。その名もミラクル☆5《ファイブ》!」
短髪の男の子は、大きく広げて5を強調した右手を前に出しながら、堂々と言い放った。
「いかにもお前が考えそうな名称だ。どんな理由かはわからないけど」
「奇跡的な流星群を見た瞬間に立ち会った五人って意味だ。名前と数字の間にはちゃんと☆マークも入れてあるんだぜ」
「うわ~人前で絶対言いたくない」
長髪の女の子が、即効で否定した。
「んだよ。なら、もっといい名前あるのかよ!」
「わ、わたしはいいと思うな。その分かりやすし」
おさげの女の子は、もじもじしながら賛成の言葉を口にした。
「ほら、こいつもこう言ってんだからいいじゃないか」
「とりあえず、それでいいだろ。今は議論する気力も無いし」
「さすがに疲れたしな」
「わたしも早く家に帰りたい」
三人は、呆れながらも、まんざらでもなさそうに賛同していった。
「ようし、チーム名が正式に決まったところで、誓いの言葉といこうぜ」
短髪の男の子が、手を前に出しながら、誓いの言葉を言うように呼びかけた。
四人は、順番に手を重ねていった。
「十年後、ミラクル☆5として、この場所に集まって星空を見ることをここに誓う!」
五人揃って、誓いの言葉を口にした。
それから家に帰った五人は、町中を探し回っていた各々の両親と出くわし、こっぴどく怒られ、大泣きしたが、誰一人として悲しいという感情は抱かなかった。
心に刻まれた 流星群の美さが、悲しみの感情を打ち負かしていたからである。
乗り手が決まったぞ。
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