第10話
期待を込めて向かった部活動紹介。しかしながら、僕の期待は早々に裏切られることになった。
確かに部活動の数は沢山あったが、どうも魅力的に感じない。それは殆どの紹介がやらされていると感じる適当なものであったというのも理由だし、笑いを取ろうとふざけている部活動の紹介は自分の心が冷めていくのを感じることができた。
勿論、光るものを感じる部活動はあった。例えば剣道部はこの当時はたいして有名ではない弱小部といってもいい部活だったが、紹介をする先輩の背筋はしっかりと伸びていて、やる気に道溢れていた。
だが、腐りきった生活を送っていた僕にとっては、彼女達の姿はどうしても眩しすぎた。僕があのなかに混ざるイメージが欠片も想像できない。
友人は楽しそうにしていたけれど、僕にとって退屈な時間が過ぎていく。中には紅茶研究会や細工部など聞いたことがない名前もあり、少しは驚いたがそれだけだった。
結局、僕は部活に参加することを止めた。
友人にそれを話したところ、もったいないという言葉と共に、やっぱりという言葉も頂いた。
彼は気になった部活を見に行くらしく、僕と別れる。彼が側からいなくなったとたん、自己嫌悪が僕を襲った。
やっぱり。その言葉が重く感じる。
少しだけやる気を出しても、僕はやっぱり行動に移さない。そのせいで、大した価値もない高校生活を送ったというのに。
夢なんだから、やらなくていい。そんな言い訳が頭の中で増えていく。僕はわかっていたはずだ。こんな現実的な夢なんてない。だから、僕は行動しなければならない。のに。
「はぁ・・・」
やっぱり、行動しよう。これはチャンスじゃないか。やらなければ、変わらない。友人を追いかけて、共に部活を見学する。そうしたら、いい道が開ける。きっと。
「会長ー。お疲れ様でしたー」
ちいさな決意を新たにしたところで、そんな声が聞こえてきた。
会長、とは。もちろんこの学校の生徒会長のことだろう。そういえば、僕はその姿を正確に記憶していない。始業式や文化祭などの行事では必ず挨拶をしていたはずだが、静聴などしていなかった僕はその姿をシッカリと眺めたことはなかった。
そしてなによりも、この部活動紹介の場で挨拶をしたはずの生徒会長の記憶もまた、曖昧だった。
━━━━━昔と違い、シッカリと彼女の挨拶を聞いていたはずなのに。
「ありがとう。皆のおかげだ」
綺麗な声が、耳に届く。音は鼓膜を通り、僕の脳を犯した。グラリと世界が歪む感覚を味わう。僕の瞳は狂ったように開かれた。彼女の姿を、決して逃すまいと。
美しい、容姿だった。けれども僕は、彼女の容姿に見惚れた訳じゃない。
風が香りを運んでくる。ハーブのように清涼感があり、芳醇で、香ばしい芳香。その香りを、僕はよく知っている。彼女の容姿を、よく知っている。
「━━━雌山羊の、魔女・・・・・?」
彼女の淹れた、コーヒーの味。それを思い出し、僕は溢れでた唾を、飲み込んだ。
「やぁ、オビ」
そして彼女は、不気味に頬笑んだ。
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