第5話 使い魔・琥珀
エクソシストの話によれば、別の時間軸の『僕』がこの時間軸の僕になり替わろうとしているいうことだった。
目的は何だろうか、僕ならば分かるのではないか。自分の事なのだから。例えば未来に何らかの失敗をして、現在に戻ってやり直そうとしているということだろうか。あるいは過去……しかし過去のことは僕が一番よくわかる。死神などという妙な者と契約なんてしていない。
もしくは……違う時空での可能性上の『僕』ならば、現時点よりも過去で行われるということも……。そこまで考えて、頭がこんがらがってきた。
だめだ。考えても分からないものは仕方ない。エクソシストに説明を求めよう。
思いながらタリスマンを掲げる。
さっきはそんな演出などなかったのに、ぼふんという煙が上がる。ケホケホと咳をしながら巫女姿の少女の姿を探す。
だが、現れたのはエクソシストではなかったのだ。
「使い魔の琥珀です。マスター、ご用命ですか?」
ニコニコとした笑顔を浮かべながらちんちくりんな少女が言う。市松人形か座敷童かというのが第一印象である。要は、小さい。人形サイズなのだ。
琥珀は袴姿で、頭には宝飾の施された金色に光る冠が据えられている。女陰陽師といったイメージだ。
しかし使い魔が現れたということは、どうやらエクソシストの言っていたタリスマンへの魔力の充填とやらが終わったらしい……?
「よ、よろしく」
エクソシストは使い魔を使役して闘うと言っていたが、こんなか弱そうな子で大丈夫なのだろうか。……いや、文句は言えまい。
「ところでエクソシストは?時間軸っていうのについて聞きたいんだけど」
「エクソシスト様は戦闘中です」
ニコニコ笑顔を絶やさずに琥珀が言う。
「え、死神が出てるということ?」
「彼らは常に存在しています。マスターの近くに現れたので危機予測によってエクソシスト様が出動中なのです」
は、はぁ。もしかして僕が思う以上に危険と隣り合わせで、知らぬ間にエクソシストが処理しているから今までは一見何も起こっていないように思われるだけなのか。
――そう思われたとき、部屋の窓ガラスがけたたましい音を立てて弾け飛んだ。
「……は?」
呆然としてその方を見遣ると、エクソシストがだらりと立ち上がるところだった。
「エクソシスト様!」
「ああ、琥珀か。お前が最初の召喚になるとはな」
「援護します」
「頼む」
状況が掴めないままエクソシストと琥珀との会話が進んでいく。
「クライアントはここで待つように」
待つようにって言ったって……。今、どういう状況なのか。死神がそこまできているということか。
「いや、タリスマンを掲げただろう。ここに現れたかと思ったのだけれど」
「その割には時間差がありましたよね」
本当に現れてたら、僕死んでたんじゃ……。
「使い魔を召喚するだけの充填時間は確保できていたから時間は稼げると判断したまでの事。しかし琥珀とはな……琥珀は補助の使い魔だから一人では死神に応戦できない」
「ほら、やっぱり僕死んでたんじゃないですか。守ってくださいよ、頼みます」
「今、まさに守っている最中だ」
エクソシストは凛々しくも険しい表情を浮かべて睨み付けてくる。ああ、僕は別にエクソシストの雇い主でもないのだから格別に敬うべき存在でもないのだろう。
「行くわよ。琥珀」
「はい、エクソシスト様」
ガラスの砕けた窓枠を飛び越えて二人は外へと出て行った。部屋に寒気が吹きすさぶ。夜の闇の中を一人の女と一体の人形が宙を駆け抜けて行くのを呆然と見送った。
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