第3話九十九家
自分部屋に戻った光龍は…お気に入りのチェアーに座り煙管を吸いながら、古い本を読んでいた。
「…ちゃう…。あの…蔵やったかなぁ~。」
そう独り言を言いながら着物の袖から人型を取り出し呪文を唱えると…みるみると人になった。その姿は…爽やかな好青年。
「お呼びでしょうか。光龍様。」
「ぉん。蔵からこれ関係の本宜しく。」
「え?それだけですか?」
「ぉん。何で?」
「いえ…かしこまりました。」
式神は、スッと消えた。光龍は…煙管を吸い気だるそうに煙を吐き出す。さっきの話を思い出しチッと舌打ちをしてるときに式紙が戻って来た。
「お待たせ致しました。光龍様。」
「おぉ~ありがとうこ勾陳(こうちん)。」
「どうしたんですか?舌打ちなんて…。顔も凄い怖いですが…。」
「あぁ…めんどうな依頼受けたせいや…。」
「えぇ!!光龍様が面倒な物を受けるなんて…!!」
「俺は…嫌言うてん!!でも、剛好が…受けたからしゃーなしで…。」
「なるほど、剛好様が受けたならしょうがないですね。」
「…そう…やねん…」
光龍は…口を少し尖らせながら式神に愚痴をこぼした。勾陳は、苦笑いしながら主人を見ると不機嫌顔で本を読み始めたので慌てて
「光龍様!!私は他にする事ないのであれば…戻して頂ければ…。」
「ぅん?あぁ~、なら九十九家を調べてくれ。」
「今回の依頼者ですね。かしこまりました。」
勾陳は、満面の笑顔で主人を見る。光龍は…少し引きぎみに…
「あぁ」
一礼をしてスッと消える。光龍は、また本を読み始める。
剛好は、何気なく時計を見ると5時を回っていたので…
「彌生ちゃん?時間大丈夫なん?」
「え?あっ!!もうこんな時間なんですね!!私…そろそろ帰らないとすみません。こんな遅くまで。」
「いやいや、こっちこそこないな時間まで話込んで悪かったし。送るで?」
「いえいえ大丈夫です。」
「気にせんといて買い物も行かんなアカンし(笑)此処の夜道を女の子一人で何て出来ひん!!」
「…では、お言葉に甘えてお願いします。」
「ぉん。俺、鍵取ってくるから準備しとき?」
剛好は、パッとコップなどお盆に乗せ奥に行く。彌生は…サッと帰り支度をする。数分後…
「準備出来た?」
「はい。」
「ほな、行こう。」
剛好達は、車に乗り駅に向かう。駅に着くと
「ほな、決まったら連絡お願いな!!」
「はい。決まったらすぐ言います。今日は…ありがとうございました!」
「ぉん。気をつけて帰りやぁ~!!」
私は、お辞儀をしてホームに向かう。剛好は、車に戻りスーパーに向かう。
光龍は、最後の本を読み終わり欠伸をしながら背伸びをしながら立ち上がり
「……風呂…」
ドアに向かうと、勾陳が戻る。
「只今、戻りました。」
「おっ…早いやん!!」
「ハイ!あっ…お風呂ですか?」
「あぁ~、でも報告聞く。」
「いえ、お先にどうぞ。それに、夕食もそろそろだと思いますので、その後からでも報告致します。」
「…なら…後で…」
「かしこまりました。その間、資料の整理とこちらの本達を戻しておきます。」
「ぉん。あっ…勾陳…夕ご飯一緒におれば?」
「えっ?それは大変嬉しいのですが、私は物は食べませんけど…?」
「知ってるわ!!別に食べへんでも話は出来るやろ!!」
「いいのですか!!光龍様!」
「ええよ。一人で此処におっても暇やん。」
その言葉に、勾陳は嬉しいそうに
「それでは、お言葉に甘えてお邪魔させて頂きます!!どうぞ、お風呂へ!!」
光龍は、いつものように檜風呂に浸かり
「はぁ~ええ湯。」
ぼーっと遠くを見つめた後、ふと嫌な予感を感じ
「チッ。あぁー面倒くっせ!!ってか式神を行かせて俺は此処で報告と対処すれば……。無理だな…そんな事言うたらアイツ……コワッ!!」
光龍は、うなだれながら浸かっていると…ガラガラ
「光ちゃん!!いい加減上がり…ご飯出来たで!!まさか、また寝てるんやろ!!」
「寝てへん!!」
「珍しいやん!!寝てへんなんて。」
剛好はそれだけ言うと消える。光龍は、少しむくれながら上がり…リビングに行くと。
勾陳が、楽しそうに剛好の手伝いをしていた。
「あっ、光龍様!どうぞ、こちらにお座りなって下さいませ。」
勾陳は、椅子を引き笑顔で見つめるので光龍は言われるまま席に着く。
「今日は、ほんま助かったわぁ~。ありがとう勾陳。」
「いえ、こちらこそお招き頂きありがとうございます。剛好様のお役に立てて嬉しいです。」
「でも、帰って来たら勾陳がおった時はビビったけど!!また、光ちゃんが招く事も驚きやけど…!!」
少し、棘のある言い方
「何や?そない珍しいみたいな!!」
「あら?珍しいやん!!式神の勾陳には優しく出来んねんから彌生ちゃんにもして欲しいわぁ~。」
呆れながら剛好も席に着く。勾陳は、戸惑ってキョロキョロしてると…光龍が自分の隣の椅子を引きポンポンと叩くと勾陳は座る。
「ほら、勾陳にはそないな事出来るやん!!」
「あぁ?何でアイツにする必要があんだよ!!」
「あんな…彌生ちゃんは依頼者やで?優しくすんのは当たり前やろ?」
「アイツが勝手に来て依頼したのに?」
「お前な!!」
少し怒ると、勾陳が慌てて
「お二人とも!!喧嘩はいけません!折角の夕ご飯が美味しくなります!!楽しくね?」
勾陳は交互に顔を向け言うが、その顔があまりにもブサイクだったので、2人はプッと笑い。
「お前…ブッサイクな顔何やねん!!」
「ほんまに、なんちゅう顔やねん!!」
「へぇ?お二人とも酷いです!人の顔見てブサイクなんて!!」
「アハハ…ごめんな?後…光ちゃんちょ言いすぎた…。」
「俺も…ごめん。」
「お二人ともご飯冷めますよ。」
「そうやな…頂きます。」
3人は、くだらない話や勾陳をいじりながら食べた。食事が終わると勾陳は、剛好の手伝いをする。
「ありがとうさん。食べてへんのに片付けまで。」
「いえとんでもないです。剛好様も大切なご主人様です。」
「えっ?」
「光龍様の大切な人は、我々にも大切な人ですから!!」
「光ちゃんが言うたん?」
「言わなくても分かります。剛好様が決めた依頼やしたい事はすべてする人です。もし違うならそんな事は絶対にしません。後…他の人には甘える言動もしません。」
「………?」
勾陳の言葉に、思い当たる出来事がいくつかあったので照れくさいなってると…
「剛好~コーラ!!」
奥のソファーから聞こえ
「自分でやれやぁ~。」
「ええやん!入れてくれても~。」
「ほんま~ハァ。分かりました!!これ、終わったらな!!」
「ぉん。勾陳!!報告。」
「あっはい!只今!!」
スッと光龍の側に行き、まとめた資料を渡す。光龍は、受け取るとすぐに読み始める。片付けが終わった剛好は、コーラを持って光龍の所に行き無言で渡すと光龍は見ずにスッと受け取る。
「九十九佐代里(つくもさより)現・女将兼経営者です。この家の一人娘です。夫・九十九政幸(つくもまさゆき)は、婿養子で現在は意識不明で入院中です。
故・九十九茂男(つくもしげお)も婿養子で旅館の経営者を任されていました。だが…数年前に病死となっていますが…亡くなるその日は、至って元気だったと証言がございます。
その後…妻の九十九寿子(つくもひさこ)が当主となりました。その頃から経営方針もガラリと変わり客層も変わったそうです。」
「経営方針?彌生ちゃんそんなん言うてなかったで?」
「剛好様。あまりの昔の事ですので…。」
「あぁ~なるほどね!」
「で?客層って?」
「あっハイ。茂男様の時は、お偉い政治家や大企業の社長や大物芸能人のみ対応でした。」
「ひぇ~そんなん高級旅館やん!!」
「ハイ。しかも、会員制で一般の方はお断りだったようです。でも…その前は経営破綻まで追い込まれていたようですが…。」
「ふーん。で?」
「軌道に乗ったきっかけが…茂男様が連れてきた…何でも願いを叶える巫女のようです。その巫女は、茂男様が亡くなった日に消えたそうです。それから、寿子様が当主になると会員制を廃止。一般のみの受付に変わり今に至ります。」
「何でも願いを叶える巫女ねぇ~。」
「めっちゃ巫女怪しいやん!!そいつがおじいちゃん殺したんちゃう!!そんで…彌生ちゃん達にイタズラしてるんちゃう?そいつを見つければ解決やん!!」
「まぁ~それは視てからのお楽しみやなぁ~。」
光龍はニヤリと笑いながら煙管を吸うと
「お前…楽しみって…不謹慎やで!!」
呆れながら言うと立ち上がり風呂と一言いい消える。風呂から上がると携帯に目がいき見ると不在着信1件とあったのでかけ直そうとすると…ブルブルと鳴ったので
「はい、拝み屋です。」
「もしもし、剛好さん?彌生です。遅くにすみません。今、大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。大丈夫やで。」
「今日、母に例の話をしたら…来ていただけるならぜひお願いしたと!!急で申し訳ないのですが…来週とかに来て頂くことって可能ですか?」
「来週?ちょ…待ってな!!今、確認するから」
剛好は、もう一つの携帯を取り出しスケジュールを確認する。
「あっもしもし?大丈夫やで。」
「本当ですか!!それならお願いします。部屋を用意しておきますので…希望とかありますか?」
「特にないかなぁ~。部屋は1つでええし。」
「えっ?1つですか?2つでも構いませんが?」
「ぉん。その方が何かと楽やねん。あっ…しいいて言えば露天付きがええかなぁ~!!」
「それは…全然構いません。分かりました。では、露天付きの部屋を1つ用意しますね。」
「ぉん。なんかかえって悪いなぁ~。ありがとうな!!」
「いえ…とんでもないです!!こちらこそお願いします。夜遅くにすみませんでした。おやすみなさい。」
「おやすみなさい彌生ちゃん。」
剛好は、切るとリビングに戻るが光龍の姿が見えないので部屋に戻ったのかと思いぼーっとしながらソファーに行くと…そこに煙管を加えたまま寝てる光龍が
「うわぁ!!コラッ!!光ちゃん!!煙管を加えたまま寝るな!!あぶなっ!!」
慌てて煙管を奪いテーブルに置き光龍を揺さぶる。一瞬、目をうっすら開け
「あぁ?あーっよし…。」
そう言うとまた寝るので
「あぁ!!コラッ光ちゃん!!部屋で寝ろ!!」
「………」
「ハァ~アカン。」
剛好は、仕方なく光龍をよっとお姫様抱っこすると小さい声で軽っ!!と言い部屋まで連れて行きベッドまで運ぶ。ベッドに寝かせると…周りを見渡すがほとんど何も無い。ビックリするぐらい自分とは正反対だ。
「ほんま…殺風景な部屋やなぁ~。ったく、俺はお前の家政婦かちゅうの!!」
ペシッと軽くオデコを叩くと光龍は眉をひそめヴーン唸りながら寝返りをうつ。剛好は、苦笑いしながら自分の部屋に戻る。
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