第14話
緋衣の居たマンションを後にした俺は、街へとやってきていた。
「……あそこら辺の奴らに聞いてみるか」
俺は辺りを見渡し、めぼしい奴を見つけるとそっちへと向かう。
「よぉ、ちょっといいか?」
「あん?」
俺が声を掛けると、四、五人ほどのガラの悪そうな奴らがこっちを振り向く。
「お前ら、黒巾党って知ってるか?」
「ああ? あー、確かノーマルどもで構成されてるグループだったか。最近、ちょっと調子こいてるって話を聞いたな。んで、それがどうかしたのか?」
「いやね、そいつらが根城にしてる場所があれば教えてほしいんだよ」
「はぁ? なんで、俺達がそんな事話さなきゃなんねーんだよ」
俺の言葉に、男の一人が怪訝そうな表情を浮かべる。
「いやいや、そう言わずに頼むよ」
「そう言われてもなぁ……実は俺、最近物忘れがひどくて思い出せないんだわ」
「あ、俺もちょうど黒巾党の奴らの場所忘れちゃってさー」
「なんかこう、俺達が今一番欲しい物が手に入ったら喜びのあまり思い出しそうだなぁー?」
男達は、ニヤニヤしながら口々にそんな事を言ってきた。
……なるほど、要は金を寄越せと。
素直に渡してやってもいいが、こういう奴らは一度要求を呑めばつけあがり、平気で約束を破るのが多い。
なので、奴らの要求はのまずに俺は少し強引な手に出る。
「お前ら、怪我したくないなら素直に教えた方がいいぞ?」
俺が静かにそう言うと、男達は怒気をはらむ。
「……おい、俺達を
「狩魔? 知らねーな。つうか、だっせぇ名前、中二病かよ」
「あぁ!? てめぇ、いい度胸だな」
「とりあえず、骨の一、二本逝っておくか? あぁ!」
俺の兆発に対し、男達は口々に叫ぶ。
「言っておくが、俺達全員、新世代だからな? てめぇが、どんなギフトを持ってるか知らねーが、この人数相手に勝てると思うなよ?」
男はギロリと睨みながらそう凄んでくる。
……正直言えば、めっちゃ逃げ出したい。
極力抑えてはいるが、気を抜けばすぐに体が震えだしそうだ。
だが、俺は逃げるわけにはいかない。
俺が下手に黒巾党と関わったせいで、緋衣はしなくていい怪我をしてしまった。
いや、もしかしたら俺が関わらなくても、遠からず怪我をしていたかもしれないが、少なくとも今回の怪我は俺が原因だ。
……なら、その責任は俺がしっかりとるべきだ。それが、ヒーローとしての条件だと思うから。
「はぁ……お前ら、俺を知らないのか?」
俺は覚悟を決めると、わざとらしく溜め息を吐いてやれやれといった感じで口を開く。
その言葉を聞いて、男達は一瞬身構える。
「てめぇが誰かなんて知らな……」
「あーっ!」
男が何かを言い掛けたところで、別の男がこちらを指差しながら唐突に叫ぶ。
「なんだよ、急に大声出しやがって。ちょっとビビったじゃねぇか」
「いや、ビビってる場合じゃねーよ。思い出したんだよ!」
男は、男に向かって……ああもう名前知らないとややこしいな。
文句を言っている方を男A、驚いてる方を男Bとしようか。
んで、男Bは文句を言っている男Aに対し、こう言葉を続ける。
「こいつ、犬落瀬だ! あの十傑の!」
男Bの言葉に、残りの男達はこちらを見てざわつく。
ふぅむ、毎回思うんだが犬落瀬はこういうガラの悪い奴らに顔が広すぎないだろうか。
十傑とはいえ、別に写真がネットに出回ってるとかそういうことはないはずなんだが。
……もしかして、犬落瀬の奴、こういう奴ら相手に色々やらかしてるのだろうか?
否定できないだけに、少しだけ怖くなってくる。
「……ま、そういうわけだ。お前らも、無駄な戦いはしたくないだろ?」
「て、てめぇが犬落瀬だって証拠はあるのかよ! 他人の空似って可能性もあるからな」
男Cは狼狽えながらもそう言う。
……鋭いなコイツ。まさにドンピシャな事を言われて俺は内心かなり焦るが、それは表には少しも出さない。
俺、もしかしたら演技の才能あるんじゃないか?
「しょれなら……」
やべ、動揺のあまり噛んじまった。
「「「……」」」
ああ、ほらもう! なんかすっげぇ微妙な空気流れてるし!
「ごほん! そ、それなら証拠はこれだ……」
俺は、恥ずかしさで頬が熱くなるのを感じながら、誤魔化すように咳払いをして制服の胸ポケットから生徒手帳を取り出す。
そこには、俺の顔写真と『犬落瀬清司』という名前が書かれていた。
「なんなら、機織学園に直接電話して確認もするか? ただ、その場合……俺が本人だとわかったら、それ相応の事は覚悟しろよ?」
俺は声を荒立てることなく、静かにそう言い放つ。
俺の有無を言わさない空気にビビったのか、男達はゴクリとつばを飲み込む。
「わ、わかった。お前を犬落瀬本人だって認めるよ」
「最初っから認めればいいんだよ」
そんな事を言いつつも、俺は内心ほっとする。
やはり、ハッタリをかます時は犬落瀬の名前を使うに限る。
本当なら、犬落瀬清司としてではなく武子誠二として結果が欲しいのだが、何の力も持たない武子誠二では何もできないので仕方ないと自分に言い聞かせる。
「そ、それで十傑の犬落瀬がいったい、俺達に何の用だった言うんだよ?」
「だから言ったろ。黒巾党の居場所を知ってたら教えろって……それとも、お前らの脳はたった数分前の事も覚えてないのか?」
俺は、男達をギロリと睨んですごみを利かせる。
「ひっ……わ、わかった。教える! 教えるから! 今、ちょうど思い出したんだ!」
俺ににらまれた事ですっかり萎縮してしまった男達はそう言いだした。
犬落瀬という名前に加えて、この目つきの悪さだ。
効果は絶大だろう。
普段はコンプレックスな目つきの悪さだが、こういう時は役に立つんだな。
……なんだか、少しだけこの目が好きになれそうだ。
「よし、ならさっさと教えろ」
「わ、わかった」
男Aはそう言うと、黒巾党の居場所を教えてくる。
どうやら、都市部の外れの方にある廃工場をアジトにしているらしい。
……廃工場をアジトにするとか、なんともまぁテンプレな奴らである。
まぁ、そもそもが自分達がノーマルで新世代が気に喰わないから襲おうってテンプレ発想する奴らだし、当然と言えば当然か。
「……悪いな、手間かけさせた」
「なぁ……なんで、あんたは黒巾党の居場所を探してるんだ? あ、いやほら! す、少し気になってな!」
俺の気に障るとでも思ったのか、男Aは慌ててフォローしながらそんな事を尋ねてきた。
……どうして、か。
まぁ、あれだな。一つは新世代狩りなんて馬鹿げた事をやめさせることだが一番の理由は……。
「俺の大事な奴を傷つけたから、だな」
俺は、そう答えるのだった。
◆
「ここか……」
あの後、狩魔と別れた俺は、同じように聞き込みをした。
あのビビり方からすると、まず嘘をついているというのは無いとは思うが……そもそも、場所を勘違いしていたという可能性もあった。
なので、俺は情報を確かにするためにも、他の奴らにも聞き込みをしたのだ。
結局、どいつもこいつも素直に教えてくれようとしてくれなかったので、犬落瀬の名前を使ったが。
……しっかし、どいつもこいつも犬落瀬の名前を聞いただけでビビりすぎだろう。
あんまりに酷いんで奴らから犬落瀬のやった所業について聞いてみたのたが。
曰く、奴に絡んだとある不良グループが次の日の朝、高架下に全裸で逆さづりにされていた。
曰く、機織学園の生徒にカツアゲをした不良は、何か恐ろしい物でも見たのか髪の毛が真っ白になり廃人のようになっていた。
人殺し自体はやっていないようだが、どれも過激で犬落瀬周辺の奴らに絡んだアホ共は、もれなく悲惨な末路をたどっているらしいとのことだった。
……一見、自分の周りを大切にするヒーローっぽい奴に思えるが、いかんせん行動が過激すぎる。
他にも、犬落瀬に関する情報がわんさか出てきて、奴らがビビるのも納得できるといえば納得できる。
そして、挙句の果てに全部ブン投げて学園都市を脱走。
破天荒にもほどがある。
まぁ、そのおかげで聞き込みがスムーズにいったので複雑な気分ではあるが。
「……よし!」
俺は自分の両頬をパンッと軽く叩いて気合を入れる。
なぁに、相手はノーマルと分かっているのだから何にも怖くない。
それに……絡繰先輩からサポートアイテムをたんまり借りてきたので準備は万端である。
俺は覚悟を決めると、廃工場へと歩き出すのだった。
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