第7話 焼きそばUFO

 夜、午後十時過ぎ、俺はミユとエレノワの部屋を訪ねる。

 小腹が空いてコンビニに行こうと思ったのだが、ふたりを誘わないと文句を言われそうな気がしたからだ。

 ノックをするとすぐにエレノワがドアを開けてくれる。

 ミユは自分たちの部屋の窓を開け、星を見ていた。


「そろそろ、来てもよいころなのじゃが……」


 早春の冷たい夜風がミユの鮮やかな金髪を揺らす。睨むような目で空を見つめるミユ。

 バタバタとたなびくカーテン。

 実に不穏な雰囲気である。


「どうしたの?」


 俺はそっとエレノワに耳打ちする。


「はい。以前、こちらから手紙とお土産をあちらの世界に送ったではないですか。その反対に向こうから物資が送られてくるはずなのですが……」

「来ないんだ? どうして?」

「……考えられるのは、ふたつの世界をつなぐ〝みち〟が先に使われていることです」


 エレノワの説明によると、〝路〟とは当然本当に道路があるわけではなく、あくまでそう呼ばれる概念のようなもの。路は使用されると細くなり、一定期間で回復する。


「ネットの回線みたいなものかな? データ使用料の限界に達した的な?」

「逆にその概念が私には理解できないのですが、とにかく先に大量に路を使用した者がいる可能性があるのです。他にも原因はたくさんあるので、そうと決まったわけではありませんが」


 エレノワはそう言うと、自信の不安を吹き飛ばすかのように、笑顔を作る。


「王家の召喚魔法を妨げるふとどきものの存在など信じたくはないがのう。もしそのような者がいるとすれば、炙らねばならぬのう。強めの火で」


 ミユはエレノワの言葉にそう付け加えるとようやく窓を閉め、今度は自分のトランクから異世界の言葉で書かれた分厚い本を取り出し、パラパラとめくり始めた。

 たぶん召喚に関する書物なのだろう。


「あの、夜食を買いにコンビニ行こうと思ってたんだけど、なにかいる?」


 ミユはなんだか忙しそうだ。誘うのは遠慮しておこう。


「コンビニ……、行きたいのはやまやまなのじゃが、いろいろ調べねばならぬ……」


 ミユは心から残念そうに言う。


「じゃあ、なにか買ってくるよ。そうだな……UFOでいいかな」

「ゆーふぉー? それはなんであるか? 膝を破壊する拷問器具であるか?」

「そんなのコンビニに売ってないわ! 有名なカップ焼きそばだよ」

「焼きそばであるか……実に興味がある。楽しみであるのう」


 ミユとエレノワを残し、俺は結局ひとりでコンビニへと向かった。

 せっかくのカップ焼きそば初体験だ。いろいろと味のバリエーションも楽しんでもらいたい。

 俺はコンビニの棚を巡り、ミユたちが喜んでくれそうなちょい足しの材料を見繕う。

 俺がひと通り買い物を終えて、コンビニを出た直後だった。


成彦なるひこだな。チョップする」


 聞き慣れない声、その声に振り返る間もなく、俺の首筋に強い衝撃が走る。

 言葉の通り、首筋に手刀を打ち込まれ……。

 ……いったい……なんのために…………。

 ………………………………………………………………………………。


 気がつくと俺は見慣れぬ部屋に転がされていた。

 畳敷きの和室。

 玄関と小さなキッチンが見える。どうやらアパートのようだが……まったくなんの家具もない。空き部屋だろうか?

 しかし、俺は空き部屋でないことをすぐに理解した。

 なぜならこの部屋の主とおぼしき人間、そして俺の首に手刀を打ち込んだ張本人であろう人間の姿があったからだ。

 なんの飾りもない白壁によりかかり、俺の様子をじっと見つめている人物。

 それはひと言で表現するならば、女騎士であった。

 妙に胸を強調した甲冑を身に着け、傍らには布の袋と刃渡り一メートルはありそうなロングソード。端正な顔立ちだが、俺を見つめる視線は鋭い。

 誰がどう見ても女騎士だし、誰がどう見ても異世界関係者である。


「……誰? ミユの関係者?」


 俺はまだ痛む首筋をさすりながら、女騎士に話しかける。

 しかし女騎士は俺を見ていない。その代わりに手にしているメモ用紙を穴が開くほど見つめている。


「ふふ、目を覚ましたか」


 女騎士の視線はメモに据えられたまま。メモを読み上げているだけ。「ふふ」とか言っているが、完全に棒読みである。おそらく日本語の習得レベルがあやしいのだろう。


「で、そちらの要求は?」

「私を襲うがいい!」

「はあ!?」

「さっさとしたらどうだ。このけだもの!」


 女騎士はメモを読み上げると、畳の上に身を投げ出した。


「なんで俺が? 襲ったのそっちでしょ」


 女騎士は俺の言葉が通じているのか、通じてないのか、女騎士は大の字になったまま、慌ただしくメモ帳のページをめくっている。


「くっ……このような辱めを受けるなんて。万全の状態ならお前など」


 まだ俺はなにもしてないのに、なんか進行してる!

 畳の上に身を横たえながら、たとえ身体を自由にされても心までは奪われないぞ的な目で俺をにらみつけている女騎士。

 ……いやいや、待て、待て。


「なんにもしてないし! 捕らえられてるのこっちだし!」

「くっ、人質さえいなければ、貴様など……」

「人質いないから! 落ち着いて! いったんメモを読むの止めて」


 俺は女騎士の手を引き、強引に起こす。

 本当になにがやりたいのかさっぱりわからない。


「あなたは誰? なにをしたいの?」


 俺は女騎士の目を見てゆっくりと丁寧に話しかける。


「えと……えと……私……命令。お前に襲われる」


 ようやく女騎士はメモを見ずに話してくれる。

 どうやら誰からに命じられて、俺に襲われなければいけないらしい。

 以前エレノワに聞いたことがある。ミユとミユの叔父さんが王位をめぐって争っているらしい。たぶんその関係者だろう。

 襲われろと言うのは、おそらく、ミユと俺が結婚するとマズいから、邪魔をしようとの意図なのだろう。

 先ほどの召喚の路の使用状況に関する話もこの女騎士が使用していたということで整合性がとれる。


「つまりは俺と……その……関係を結べと命令されているのね?」

「さあな。私が口を割ると思うか! 殺せっ!」

 

 またメモを読む女騎士。

 すでにそこそこ口を割ってたと思うが……。 


「女騎士が言いそうなことリスト読むのは止めてもらえるかな。落ち着いて、ゆっくり話そう」


 俺の言葉にうなずく女騎士。

 どうやら意味は理解できているらしい。


「君の名前は?」


 ゆっくりと尋ねるが、女騎士はぷいっと横を向いてしまう。

 やはり名を名乗るつもりはないらしい。


「もういいよ、ミユに聞くから」


 俺はおもむろにスマートフォンを取り出し、女騎士の画像を撮影する。

 断りなく撮影するのは気が引けるが、相手は手刀を喰らわせているのだ。これくらい当たり前。この画像を見せれば、誰なのかわかるかもしれない。


「カシャ? なんだ? カシャ!?」


 女騎士は慌てて立ち上がり、俺に向かって抜刀する。

 俺の鼻先できらめくロングソード。

 俺は両手を上げて、抵抗するつもりがないことを示す。


「ちょっと! 危ないなっ。なにもしてないって!」

「した、カシャってした!」

「こっちの世界の人間はこの機械をたまにいじらないと死んじゃうの」

「むむ……、みんないじっている。成彦、死ぬな、命令と違う」


 女騎士はそう言うと剣を鞘に収める。

 どうやら必要以上に俺に危害を加える気はないようだ。もし殺してもいいとの命令ならば、いきなり殺されていただろうし。

 となると、問題はここからいかに脱出するかだ……。

 相手は女の子とはいえ、ロングソードを持っている、当然、武術のたしなみもあるだろう。

 それに対し、俺の装備はコンビニで買ったUFO。

 ロングソードを持った女騎士VSカップ焼きそばを持った大学生、戦っても勝ち目はない。

 ならば、正しいUFOの使い方で勝負するしかない。

 そう。一緒にUFOを食べて、女騎士の心をほぐすのだ。


「あのさあ、お腹、空かない?」


 俺は笑顔を作り、優しく話しかける。


「喰え」


 女騎士はそう言うと、布の袋からパンをひと欠片取り出して、俺に向かって投げてよこす。

 長期保存用なのか、色も黒ずんでカチカチだ。


「いや、こういう捕虜丸出しの食事じゃなくて……、買ったのあるんだよ。食べない? これ食べたことある? すごく美味しいよ」


 俺は武器ではないことを示すために、ゆっくりとコンビニの袋からUFOを取り出し、女騎士に見せる。


「美味しい、知らん。騎士、食事の味、こだわらない。勝手に食え、食ったら抱け」

「だから、やめなってそういうの」

「抱かない、成彦、部屋から出れない」


 女騎士はもうひとつパンを取り出すと自らの口に入れる。

 こう言っちゃなんだが、全然美味しそうじゃない。

 俺はなおさらUFOを食わせたくなる。

 はたしてUFOができてもそのパンで満足できるか……。

 俺が台所に向かうと、ロングソードを携えたまま、女騎士もぴったりとついてくる。

 どうやら逃亡を警戒しているらしい。

 俺は気にしてない態度を装い、作業を続ける。

 蛇口をひねると通常通りに水は出るようだが……。しかし、コンロがない。


「この部屋さ、コンロもないけど、お湯は沸かせるかな? お湯、わかる?」

「コンロ、知らない。お湯、これでやる」


 女騎士は布の袋から脚のついた五徳と小さな鍋を取り出すと、コンロが置かれるはずの場所に設置する。

 さらには黒い布の芯が付いたキューブ状の物を五徳の下に置く。


「これはなに」

「陸イルカの脂、固めた物」


 女騎士は俺の疑問を察知してそう答えると、火打ち石でキューブ状の物に火花を飛ばす。

 すぐに黒いキューブの芯が燃え上がる。コンロほどの火力はないが、お湯を沸かすことはできそうだ。


「なんだかキャンプみたいだね」

「騎士、戦場ではこう。肉と草、捕って、これで煮る。こっちの世界、犬と猫しかいない」

「それ食べちゃダメだからね!」


 よく見ると、女騎士の頬は少しコケているように見える。明るいブラウンのロングヘア―にもなんとなくハリがない気がする。

 現金を持たずに現地調達で活動しているのだとしたら、こちらの世界に来てから、あの固いパン以外なにも食べていないのかもしれない。

 ならばUFOの魅力にはなおさら逆らえないだろう。


「キャベツ切って、細めの千切りで」


 俺は女騎士にキャベツを手渡す。


「む、なぜ私が?」

「包丁かナイフ貸してって言っても無理でしょ。じゃあ切ってよ」

「…………」


 ムッとしながらも、ももにベルトで止めていた隠しナイフでキャベツを刻みはじめる。

 さすが騎士だけあってなかなかの手さばきだ。

 俺はUFOにキャベツを足す派なのだ。一度麺を取り出して、下にキャベツの千切りを入れてからまた戻す。熱湯三分で十分に火は通るし、これだけで随分と満足度がアップする。

 キャベツをUFOの底に装填すると、ちょうどお湯が沸騰する。

 ここからはやり方を知らない人はいないであろう、いつもの作業。

 お湯を注ぎ、ソースを乗せて温め、待つこと三分。ソースとスパイスを投入しよく混ぜればできあがり。

 屋台の焼きそばとも家で作る焼きそばとも微妙に違う、カップ焼きそば独特の香りが立ち上る。

 まさにキングオブ食欲が出る匂い。この香りを嗅いだだけで、満腹の人間でも腹ペコになるレベルだ。

 当然ながら、その香りは女騎士の鼻腔にも届いている。

 女騎士は逃亡を防ぐために、背後から俺の作業を注意深く観察していたが、いまは焼きそばUFOしか見ていない。

 本物の未確認飛行物体を見つけても、こんなに見ないんじゃないかと思うレベルでひたすら見つめている。


「これなんだ?」

「これはUFOだよ」

「ゆーふぉ……!? 膝、破壊するやつ?」

「違うわ! 焼きそばだよ。いらないって言ってたけど、食べるでしょ?」

「成彦、食べ物で釣ろうとしてる……。騎士、誘惑、屈しない!」


 言葉は強気だが、女騎士の目はカップ焼きそばに釘づけのままだ。


「カチカチのパンだけじゃ、身体に悪いし、美味しくないでしょ」


 俺はUFOと割り箸を差し出す。

 ソースの香りがさらに強く女騎士を刺激する。


「……騎士、食事の味、こだ……こだ……、誘惑、屈し……」


 食べた! ガツガツ食べた!

 女騎士は箸をナイフでも持つかのように二本まとめて握りしめ、強引に麺を口へと運ぶ。

 やはり剣術で鍛え上げられた強靭な意志を持ってしても、目の前にUFOがあるのに無視するなど不可能なのだ。


「どう、美味しい?」


 女騎士はうんうんと何度もうなずく。


「香り、ふわっ、つるつる、はむはむ、シャキシャキ、ちょっと、ピリピリ、ソース、ガツン、つるつる、ガツン、凄い!」


 元々の日本語が拙い上に、興奮状態でほとんどなにを言っているのかわからないが、とにかく気に入ってもらえたようだ。

 とにかく夢中で食べて、あっという間にUFOが空になる。

 その空の容器を寂しそうに見つめる女騎士。


「くっ、殺せっ!」


 俺に向かって真っすぐに空の容器を差し出す。

 この〝くっ殺せ〟はお代わりの意味だろうか……。

 キャベツの千切りも残っているし、お湯も沸いている。

 もうひとつ作るのは簡単だ。

 またお湯を注ぎ、ソースを蓋の上に載せて待つこと三分。


「さすがに味にも飽きてくるだろうから、そんなときはこれだよ」


 俺はソースと一緒にアゴ出汁の顆粒粉末を加えて、麺と混ぜ合わせる。

 顆粒の出汁はアゴ出汁がなければイリコ出汁でもOKだ。

 これを入れると味に深みが出て、ちょっとつけ麺っぽいニュアンスが加わるのだ。

 そして湯きりするお湯をカップに取っておいて、余った顆粒出汁と千切りキャベツ、塩コショウでスープにもなる。残念ながらこの部屋にはカップすらないが……。

 とにかく俺はUFOふたつ目を作り女騎士に差し出す。


「騎士、見逃さない、成彦、薬入れた。……知っている。エッチな薬。……騎士、エッチな薬、効かない。………………くっ、美味い! とても美味い!」

「ね、味が複雑になるでしょ」

「ふわっときて、つるつる、はむはむの後にシャキシャキ、ぶわん、ガツン、ぽわーん」


 相変わらず擬音で懸命に味を表現しようとしている。なんだか擬音の種類が増えているのは、味の複雑さが増したことを表しているのだろうか。


「……悔しい、箸、止まらない。シャキシャキ、ぶわん、ガツン、ぽわーん。キキー、ドカーン」


 なんか交通事故みたいなの起きてるけど……。

 しかし、そんなことをツッコむことが無粋に感じるほどの食べっぷり。

 女騎士は完全にUFOの虜だ。

 やはりこちらの世界でまともな食事をしていなかったのだろう。なんだかんだ言いながら、またしても平らげてしまう。


「悔しい、こんなもの……食べたら……もうカチカチのパン、食べられない、くっ、殺せっ!」


 再び空になったUFOのカップが俺に向かって差し出される。

 まさかの三つ目のお代わり。

 本当にあのカチカチのパン以外なにも食べてないのかもしれない。


「どうせ、味、変えるのだろう。好きにしろ。このけだもの!」


 けだものはカップ焼きそばにちょい足しない!

 強情な態度は崩していないが、しかし、もはや心も身体もUFOの虜だ。

 ならば、三つ目はどうするか。

 さすがにこのタイミングはあっさり食べられるバリエーションがいいだろう。

 ここはコールスロートッピングが……。

 出来上がったUFOの真ん中にドンとコールスローを追加する。

 コールスローといえばマヨネーズとキャベツ。

 両方焼きそばと相性は最高。合わないはずがないのだ。

 カップ焼きそばのがっつりしたテイストは減ってしまうが、その分、マイルドかつさっぱりとした味わいになる。

 俺が三つ目を差し出すと、すぐに飛びつく女騎士。


「クッ……、つるつる、シャキシャキ、ふんわーり、ソース、ぱきーん、味、まろーん、つるつる、シャキッ、まろまろ、シャキシャキ、ガキッ、ガキガキ、ボリッ!」

「大丈夫!? なんか入ってた?」

「真似して、カチカチパン、足した。くっ、合わない!」


 目を離した隙にそんなことを……。

 悔しがりながらも、その箸は休むことなくUFOを口に運び続ける。

 結局、買ってきた焼きそばUFOを全部食べられてしまった……。

 コンビニの袋に残っているのはちょい足しで試してみようと思っていた別売りの小さなドレッシングな何種類かのみ。


「お腹が空いてたんだね。こっちの世界で食料の現地調達は止めた方がいいよ」

「む、……今後、考える。……しまった! 成彦、食べてない。カチカチパン、あるぞ」


 女騎士はまた例のパンを俺に差し出す。

 投げてよこさなくなっただけ親しみを感じるが……。


「それはいらないかな」

「味、見た目、悪い。でも、よく噛めば、飲み込める」

「そう言われて食べたくなる人はいないよ」


 俺はどんな食べ物にも興味を持つタイプだが、さすがにこれは食べ物として認定し難いし、そもそも目的はUFOを使って女騎士の警戒心を解くこと。

 いつの間にか常に携えていたロングソードも壁に立てかけたまま。

 その目的は十分に果たしたように思える。

 

「あのさ、ご飯も食べたところで眠くなったんじゃないかな? ちょっと休んだら?」


 スマホで時間を確認すると午前零時を回っている。

 我ながら白々しいが、実際に眠くなっていてもおかしくない。

 女騎士は俺の意図を察してか、小さく鼻で笑う。

 やはりバレバレだったか……。

 しかし女騎士の返答は意外なものだった。


「見逃す。帰って、寝ろ」


 女騎士はそう言うと、俺に背中を向ける。

 どうやら見てないうちに逃げろ、との意味らしい。


「いいの?」

「騎士、ご飯の恩、忘れない。アルバイト、面接に落ちまくり、正直、餓死、寸前だった。正直、成彦は命の恩人! 今日は見逃す。家に帰って寝ろ、このけだもの!」


 女騎士はこちらを見ることなくそう言い放つ。


「バイトの面接は甲冑で行かない方がいいよ」


 俺はそれだけ言い残すと、アパートのドアを出る。


  ◆


 女騎士の根城は俺の自宅から比較的近くにあった。

 俺をさらうことを目的に行動していたのだから、当然といえば同然なのだが……。

 歩くこと五分。我が家に生還を果たす。

 深夜につき、物音を立てないようにそっとドアを開け、自分の部屋に戻る。


「成彦殿、遅かったではないかっ!」


 部屋のドアを開けると中からミユが駆け寄ってきた。

 そのまま勢いよく俺の胸に飛び込むミユ。


「姫様は成彦様の身になにかあったのではないかと、大変心配されていたのです」

「詳しく調べてみると叔父上がこちらに人を送ったとしか思えなくてのう。こんな深夜にフラフラしておっては、さらわれてしまっても不思議ではないぞ」

「まさに不思議でもなかったよ……」


 俺はすでに襲撃されたこと。そしてなんとか脱出したことを、スマートフォンで撮影した女騎士の画像を見せながらミユたちに話して聞かせる。


「こやつは……確かに叔父上の部下である」

「姿は宮中で何度かお見掛けしております。たしかリディア様かと」

「うむ、そのような名であったか。腕の立つ騎士であると記憶しておる」


 うなずき合うミユとエレノワ。

 やはり腕の立つ騎士なのか、無理に抵抗しなくてよかった……。

 ミユもこれまでにない真剣な表情を浮かべているが……、表情に反して、お腹がくるるると小さく音を立てる。


「そんなタイミングで申し訳ないのだが、ゆーふぉーはどうなったかの?」

「それが……ちょっと」


 俺はほぼ空になったコンビニの袋を手渡す。

 それをしげしげと覗き込むミユ。

 当然中にUFOは入っていない。残っているのは、ちょい足しで試してみたかった、別売りドレッシングが何種類か


「ほほう。これがゆーふぉーであるか、想像よりもはるかに小ぶりじゃ……。これを指で挟んでプチンとすると中から焼きそばが……、違うっ! これは小さいドレッシングではないか!」


 異世界王女のノリツッコミ!

 ミユは以前からあげクンにこれをかけて食べたことがあるので、存在は知っているのだ。


「まあ、いろいろあって」

「夜食でドレッシングとは成彦殿! どうしてしまったのじゃ!」


 ミユはぽかぽかと俺の胸を殴りつける。


「すみません。姫様は心配もしていたのですが、夜食を心待ちにもしていたのです」

「お腹が空いたっ! 成彦殿、夜食を! 夜食を買いに行こうではないか!」


 さっき夜出歩くと危ないって言ってたのに……。

 結局、俺はもう一度夜食の買い出しに行く羽目になったのだった。

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