第3話苦悩
僅か、7歳に満たない子供に、どう説明すれば理解できるだろうか...。
自分の母親が、あと一年の命だと。
しかも、我が子は発達障害もある。
先日、小学校の後に行く、放課後デイサービスにて、ショウがお友達に言われた、という言葉...
そして、ショウが、私に涙を流して問い詰めた言葉が、頭から離れずにいる。
「ねぇ母ちゃん、ショウくん、悪い子だから、母ちゃんも居なくなるの?」
悪い子だから居なくなる訳では無い。
でも……
私が一年後、病に負けてこの世を去ってしまったら、ショウはきっと、自分を責めて、自傷が爆発するのだろうと思うと...
とてつもなく、怖くなる。
死ぬ事が、ショウの前から消えることが、怖くてたまらない。
ショウのせいじゃないよ、ショウが悪いんじゃないよ。
母ちゃんが、病気に負けちゃっただけ。
せめて……もっともっと、たくさんの時間があれば...。
せめて……ショウがそれを理解できる日まで、この命が持ってくれれば...
延命処置でも何でもいい。
どうにかならないのか……。
私は、子供たちを、学校と療育園へ見送った後、すがるように病院へ行った。
「先生、子供が、こう言ったんです。私、どう言えばいいのか解らなくて...。
どう...どうすれば……。
せめて、せめて子供が理解できる年になるまで、延命処置でも何でも良いです!
どうにかなりませんか!!!」
パニックに近い程、動揺しながら、祈るように、医者の言葉が出るのを待つ。
「治療するにも、延命するにも、今の、飲み薬のままではどうにも成りません、最初にお話ししたとおり、入院して、適切な治療、処置をして行かなければ、今のままでは、一年も持ちませんよ。」
イマノママデハ、イチネンモモチマセンヨ
その後、自分がどうやって家まで帰ってきたのかすら、覚えていない。
あの言葉の後、頭が真っ白になったのは覚えている。
入院しなければ、子供と一緒にいられる時間は、とても短くなってしまう。
でも、入院してしまえば、子供は預け先がない為、施設での預りとなり...
もし、私がそのまま逝ってしまえば、
それきりになってしまう。
もっと、「家庭」で、教えておきたいことがたくさんあるのに。
もっと、「母として」やりたいことがたくさんあるのに。
いや、そんなの体裁だ。
私はただ、きっと、私が、子どもたちと離れたくないだけなんだ。
離れたくない。
死にたくない。
もっと、あの笑顔を見ていたいのに。
もっと、触れていたい、
成長を一緒に喜びたい、
「出来たね〜」
「上手だね〜」
「すごい〜!そんなこと出来るようになったんだ〜!」
こんな言葉を、側でずっと、言っていたいのに。
何で私なんだ……
まだこんな小さな子供がいるのに!
「どうして!!!!
なんで!!!!!なんでよぉ!!!!
なんで私なのよぉ!!!!
どうして...どうしてぇ〜!!!!!」
悔しい気持ちと、絶望にも似た感情が入り混じり、近くにあったものを手当たり次第に床に投げつけた。
襖に穴が開き、湯のみは廊下まで飛んでいき、鈍い音と共に割れた。
「はぁ...はぁ……はぁ...。」
自分の不安定さに、我に返る。
部屋を見渡してみると、凄い惨状だった。
どんなに望んでも、どうにもならない事がある。
いつか、私が幼い時に、今は亡き母が私を叱る時に言った言葉が、頭をよぎった。
母が亡くなっても、私の中で、こんな時に、母の言葉が蘇る。
私が居なくなっても、いつか、ショウやリョウがどうにもならなくなった時、困った時、私の言葉は蘇ってくれるだろうか...。
彼らの中で、生き続けられるだろうか...。
そうなるように、私が、しなければいけないんだ……。
母として、彼らに出来ることは、きっと、そうしてあげることなんだ。
それしか、きっと私にはもう、出来ないから。
大丈夫、信じるんだ。
自分の事を。
わが子のことを。
すぐには無理でも、きっといつか、理解してくれる時が来る。
きっと、その時には、私はそばにいる事は出来ないだろうけど……
それでも、私が彼らに残していけるものは、きっとたくさんあるはずだから。
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