第9話術前カンファレンス(2)

この部屋に入ってから、どのくらいの時間が経ったんだろう。




二人とも、部屋に入ってから、一言も発しなかった。



ただ、沈黙だけが私達の空気を取り巻き、時間を余計に長く感じさせる。




コンコン…



「はっ、はい。」



全神経が、入り口に集中する。




「すみません、大変お待たせしました。」


そう言いながら、椅子に座る。




「桜木さんの主治医の山本です、本日はお忙しい中、お時間頂いてありがとうございます。」


机に額がくっつくのではと思うくらいに深々と頭を下げる山本先生。



「本日は、術前カンファレンスと言って、桜木さんの病気の詳細や、今後可能性の出てくる感染症やその他疾患、そして、それらに伴った治療法を、桜木さんの意思意向に沿って、決めていくものです。」


「はっはい、よろしくお願いします。」


私も同じくらい深々と、頭を下げた。



山本先生は、ファイルから資料を取りだし、一部ずつ配る。



「桜木さんの病名ですが、これから手術をし、病理検査に出して確定となりますが、写真の状態から見て、恐らくは、膵尾部癌(すいびぶがん)だと思われます。これは、前の病院での検査結果でも同じでしたよね。

手術で癌部分の全摘出が難しいため、予後宣告をされていたと思いますが、当院では、手術で全部摘出させていただきます。」



「本当ですか!?」


「はい、膵臓の仕組みとして、膵臓は胃の後ろにあり、長さ20cmほどの細長い臓器です。」


山本先生は、膵臓の写真を出し、部位を指しながら丁寧に説明してくれた。




「ふくらんだ部分は頭部(とうぶ)といい、十二指腸(じゅうにしちょう)に囲まれています。

反対側の幅が狭くなっている端は尾部(びぶ)といい、脾臓(ひぞう)に接しています。

膵臓の真ん中は体部(たいぶ)と呼ばれます。


膵臓は2つの役割を果たしています。食物の消化を助ける膵液の産生と、インスリンやグルカゴンなど血糖値の調節に必要なホルモンの産生です。

膵液は膵管(すいかん)によって運ばれ、主膵管(しゅすいかん)という1本の管に集まり、肝臓から膵頭部(すいとうぶ)の中に入ってくる総胆管と合流し、十二指腸乳頭(じゅうにしちょうにゅうとう)へ流れます。」



「あ、えっと…はい。」



「あ、ごめんなさい、解りづらいですよね、医療の事になると、話が止まらなくなってしまって。」



「膵体部や膵尾部にがんができている場合は、「尾側膵切除術」が行われます。

これはがんのできた膵体部や膵尾部だけでなく、隣接する脾臓も摘出する術式なのですが、膵頭部を残すので膵液が問題なく十二指腸に流れる事ができます。

この術式の場合、「膵頭十二指腸切除術」のように胃や十二指腸、胆管などを切除しないため、臓器の再建も必要ありません。

なので、他の臓器に転移が見られない今、膵臓の尾部の摘出は早くにした方が根治に向かう可能性は一層高くなります。」




「はっ、はい、よろっよろしくお願いします!!」






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