第42話 あたしの変態バイクは宇宙一!
リディアは図書館の外に出て背伸びをした。
今日はよく晴れていて、とっても気持ちがいい。
リディアは黒のメッシュジャケットとメッシュパンツを装備している。どちらも防御力の高い素材で作ったものだ。
だいぶ気温が上がってきたので、いつものジャケットとパンツだと少し暑い。
「さぁて、ノアに乗るの久しぶりだなぁ」
呟き、リディアはガレージに足を運んだ。
しかしガレージにノアの姿がない。
「あっれぇ? もしかして、またオフラインにするの忘れてたかなぁ?」
リディアはガレージを出て、キョロキョロと周囲を散策する。
そうすると、
「はっはー! 働け働け愚民ども! 俺様のために立派な王城を創れ愚民ども!」
メーカファクトリを建設中の作業用ADに混じって、ノアが叫んでいた。
「何してるの?」
リディアは苦笑いしながら、ノアに寄っていった。
「おう、リディ子か。いや、暇だったから、独裁者ゴッコをだな」
「楽しい?」
「いやまったく」
「そ、そうなんだ」
「おう。暇すぎて死にそうだったからな、俺」
「ゴメンねぇ。なんか、いっつもオフラインにするの忘れるね」
「わざとだろ?」
「……ち、違うよ……」
スッとリディアが視線を逸らす。
「ふん、まぁいいさ。約二週間ぶりってとこか?」
「そうだね。そのくらいだね」
正確な日数を、リディアは数えていない。
この世界で、時間という概念はあまり大きな意味を持たない。
やりたい時にやりたいことをやりたいだけやる。それがリディアの生活だから。
「優闇さんは?」
「もうすぐ来るよ」
「ってことは、久しぶりの探索か?」
「んーん」リディアが首を振る。「今日はブラブラするだけ」
「気分転換ってやつか?」
「違うよ。もう作業終わったから、風になりたいな、って思って」
「何の作業してたんだ? あと、風になるってのは俺と走り回るって意味だよな?」
「子供創る作業。風になるの意味は正解」
リディアと優闇は、すでに子供を完成させた。
けれど、まだオンラインにはしていない。
「子供? 妊娠してるようなバイタルじゃねぇけど?」
「違う違う」リディアがヒラヒラと手を振った。「あたしと優闇の子供はADだよ」
「なるほど。そういうことか」
「うん。近いうちにパーティやる予定なんだけど、ノアも参加するでしょ?」
「何のパーティ?」
「子供の完成祝いと、あたしと優闇の結婚披露宴を兼ねるの。で、パーティ中に子供をみんなにお披露目しようかなって」
「へぇ。楽しそうだな。外でやるのか?」
「んーん。図書館の中だよ。ノアはタイヤを綺麗にしてから入ってね。土だらけで入ったら、優闇に怒られるから」
「おう。むしろリディ子が綺麗にしてくれよ。俺、自分じゃできないぜ?」
「そっか。そうだよね」
「おう。頼むぜ」
ノアがそう言った時、優闇がリディアたちの方に歩いてきた。
「進捗は7割弱でしょうか?」
優闇がメーカファクトリを見上げて言った。
「そんなところだね」
リディアもメーカファクトリを見上げた。
「よぉ優闇さん」
「はい。お久しぶりですノア」
「早く優闇さんのお尻をシートに感じたいぜ」
「そう焦らなくても、すぐに出発しますよ」
優闇は淡々と言った。
優闇はいつものメイド服に、バックパックを背負っている。すでに準備は万端なのだ。
「ノア」リディアがノアに耳打ちする。「優闇のお尻は、名実共にあたしのだからね?」
「じゃあ、俺は右側だけ」
「ダーメ、全部あたしの」
リディアはニコニコと笑ってから、ノアに跨った。
しかし、
「今日は私が運転したいです」
と、優闇が言ったので、リディアはノアから降りる。
「ありがとうございます」
優闇が微笑み、ノアに跨る。
「はぁ、懐かしい感触だぜ」
「だからあたしのだってば」
言いながら、リディアはタンデムシートに座る。
「基本的に、私のお尻は私のです。あと、リディアのお尻も私のです」
優闇はとっても真面目に言った。
「はっはー。でも今は両方俺の上だぜ!」
「まぁそうですね」
応えて、優闇がスロットルを捻る。
ノアがゆっくりと前進する。
優闇は時速を40キロで固定した。
会話を楽しむためにその速度にしたのだと、リディアにはすぐ分かった。
「あ、ところでノア」
「なんだリディ子」
「ミカといつ知り合いになったの?」
「ミカってーと、天使ちゃんか」
「そう。天使ちゃん」
「樹海の入り口で暇してた時だな。天使ちゃんはリディヤミさんに会いに来たんだけど、間が悪くて俺の方に来たらしいぜ」
「リディヤミさん?」
優闇が首を傾げた。
「ああ。リディ子と優闇さんを同時に呼ぶ時の呼称だ」
「えー? なんか変なのぉ」
リディアはそう言ったが、
「いえいえ。私とリディアがくっついたみたいで素敵です!」
優闇は気に入ったようだ。
「そう?」
「そうですとも」
優闇は自信満々で言ったので、リディアはまぁいいか、と思った。
「リュー・インダストリも、リディヤミ・インダストリに変える?」
「いえ。それはリューの方がいいと思います。響きが」
「そっか。分かったよ」
「ま、それはそれとして、だ。リディヤミさんは天使ちゃんに会えたんだな?」
「うん。ノアによろしくって言ってたよ」
「そうかそうか。天使ちゃんとは二人で朝帰りした仲だ。また会いたいぜ」
「朝帰りですか?」「もう会えないよ」
優闇とリディアの発言が重なった。
「朝帰りってのは、そのままの意味だぜ。二人でブラブラ朝まで走ってたんだ。で、もう会えないってのは?」
ノアはきちんと二人の言葉を聞き分けていた。
「なんか、すごく遠くに行くんだって」
「俺でも行けないぐらいか?」
「うん。そう言ってた」
「そうか。寂しいぜ。けどまぁ、神様んとこに帰ったんだな」
「なんで神様?」とリディアは首を傾げた。
「あん? 天使ちゃんが帰る場所っつったら、神様んとこしかねぇだろ?」
ノアがそう言った時、リディアの中である閃きが起こった。
バラバラだったパズルのピースが、綺麗に全部はまったような感覚。
それはとっても素敵で、心が躍るような直観だった。
「そういうことかぁ!」
リディアは思わず叫んでしまう。
「何がですか?」と優闇
「えへへ、あたし、アイリスの正体分かっちゃった」
「本当ですか? どうして分かったのです?」
「ヒントは神様だよ」
「神様……神様」
優闇が一生懸命にログを漁る。
リディアはアイリスの正体について、会話の中で触れているらしい。それは図書館で目覚めてから、アンダーグラウンドで目覚めるまでの期間。
リディアはそのことを優闇に話している。
少しだけ沈黙があって、
「私も分かりました」と優闇が言った。
「じゃあ答え合わせね?」
「はい。『そうよ、あたしたちのエンジニアは、あたしたちにゲームを楽しんで欲しいと願ったに違いない!』」
優闇がリディアの発言を再現した。
それはガレージが完成した日、二人で意識について話をした時の台詞。
「正解!」
「つまりアイリスはこの惑星のエンジニアですね?」
「そう。ある意味では神様に近いかも」
「創造主、という言葉の方がより近いですね」
「そうだね。うん、アイリスは創造主。だからエンジニア。でも、アキちゃんって何だろうね?」
ミカはアイリスのことをアキちゃんと呼んでいた。そこだけ、リディアには分からない。
「関連を検索してみます」
「お願い」
それからまた、しばらくの沈黙。
「それらしい名前を発見しました」
「教えて」
「アヌンナキです」
「アヌンナキ?」
リディアは聞いたことがない。
でも確かに、アキちゃんという愛称で呼べないこともない。
「古代シュメール文明の言葉で、神々、という意味です。あるいは、天から降りてきた人々」
「シュメール……えっと、謎の多い文明だよね?」
リディアは優闇と一緒に歴史を学習していた時のことを思い出す。
「ええ。非常に高度な文明でしたが、まぁそれは置いておきましょう。アヌンナキとは人類を創造したエイリアンのことですね」
「エイリアン!?」
楽しい単語が出てきた、とリディアは思った。
「まぁ一説によると、という注釈が必要ですが」
「うんうん。いいよいいよ、続けて」
「彼らは猿と自分たちのDNAを掛け合わせ、人類を創造したとされています」
「ID進化論だね」
「ええ。IDとはインテリジェントデザイン。つまり、高度な知性を持つ存在による人類の創造。高度な存在というのは、アイリスのことですね」
「わぁ、全部が繋がっていくね! ワクワクしてきちゃった! ねぇ、このままアンダーグラウンドに行こう?」
「ラファさんのところですね? いいですよ」
「それで、早速ドリームサーバに入って、アイリスに話を聞こう!」
「分かりました。では速度を上げます」
優闇が体重移動でノアの向きを変え、スロットルを捻る。
「やっぱりノアは最高のバイクだよ!」
リディアが叫んだ。
答えに辿り着けたのは、ノアのおかげだ。
「おう。何の話かよく分からんが、俺は最高のバイクだぜ!」
「うん! 宇宙一!」
◇
オハンがいつものように地上に一人立っていると、リディアと優闇とノアを視覚センサに捉えた。
「お嬢様」
オハンがアンダーグラウンド内部にいるラファに通信を入れる。
「なんですの?」
少し眠そうなラファからの応答。
「リディア様とユーヤミが来ました」
「なんですって!?」
「リディア様とユーヤミが来ました」
オハンは繰り返した。
「不意打ちですの!?」
「不意打ち?」
「まずいですわ! わたくし、髪の毛がボサボサですわ!」
「そうですか」
「その上、パジャマ姿ですわ!」
「そうですか」
「大変ですわ! すぐに髪をとかして、服を着なくちゃ、ですわ!」
「はぁ……」
ラファは慌てている様子だったが、なぜ慌てる必要があるのかオハンには分からない。
「いいですこと? お姉ちゃまたちを、中に入れてはいけませんわよ」
「なぜです?」
「わたくしの優雅なイメージと乙女なイメージを守るためですわ!」
「そうですか。ではどうしましょう?」
「わたくしが外に出るまで待つよう言ってくださる?」
「分かりました」
優雅な乙女というのは大変なんだな、とオハンは記憶した。
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