第20話 入城

「おいニーナ、城に入るにはお前んとこの騎士どもをなんとかしないとがならんけど、殺してもいいか?」


 おそらくだが、そいつらを含めたこの町にいるほとんどの騎士が魔族を殺し、その死体を集めたのだと思う。

 あれだけの数の魔族を殺すには、大多数の人間が必要だろうからな。

 それに人間なんていくらでもいるんだ。100や200減ったところでどうでもいい。

 聞けば人間の総数は約1000万。魔族の総数は約50万だというのに、人間は数だけ無駄に多いものだ。間引きも必要だと思う。


「殺したいのか?」

「まぁ」


 気に入った人間を殺す気はないが、魔族を平気で殺す人間は皆殺しにするべきだ。

 魔族を下に見る人間など害でしかない。人間こそが下等だというのに、それすら分からない人間などに価値はないからな。

 稀にフレアなどの魔族を超える人間もいるが、それは本当に稀。例外だ。


「お前とかニーナみたいなのばかりだと楽なんだけどな」

「ふむ?」

「分からんならそれでいいさ」

「む、そうか」


 そうして共に走っていると、城が見えて来た。

 さっき見た時と同じく、城を囲んでいる壁の前門には多くの騎士がいる。フレアの国の騎士たちだ。数はさっきと変わらず、50人から60人くらいだな。


「では殺すか」

「お前は自分の国の騎士を殺すのに躊躇とかしないんだな」


 俺はてっきりニーナとレンフィーエンを拷問した奴以外の人間は殺すなとでも言われると思っていたが。


「ユルベルグにいる私のトモダチは2人だけだ。それ以外などはどうなろうが知ったことではない」


 ユルベルグってのは確か、この国の隣の国だったな。


「友達以外はどうでもいいってことか」

「無論だ。むしろユルベルグの騎士共や姉上たち、ユルベルグの王は私の行動を制限する邪魔者だ。好意を持ったことはない。口を開けば私に戦いを強いるしな」

「だったらその友達連れて逃げればよかったじゃん」

「あ奴にも家族がいる。私の都合で連れ出す訳にもいかぬし、私が逃げればあ奴とその家族を殺すとも言われているからな。下手な行動は取れない」

「成程な」


 その友達はフレアを縛る楔であると同時に、爆弾のようなものでもある。それがある限りフレアは逃げることや他国に寝返ることは出来ないが、その友達を殺してしまえばフレアがユルベルグを滅ぼすだろう。

 だからフレアがある程度命令を無視しても大丈夫だったのだろうな。殺気の騎士の話ではフレアが命令を聞かないのはよくあることのようだったし。


「でも流石にお前の姉を殺したらユルベルグの王も黙ってないんじゃないか?」

「……それもそうだな」


 気付いてなかったのか、こいつは。本能のままに行動するのもいいが、もう少し頭を使った方がいいと思うよ。


「だがしかし、ニーナとレンをあのような目に合わせた者をのさばらせておく訳にはいかぬし、だがあ奴を殺されても困るし……」

「なら、こういうのはどうだ?」


 俺は思いついた考えを口に出す。


「この国の王は死んだじゃん? それにこの国の強者とか言われてる奴は俺がとっくに殺してんだよ」


 あの赤鎧の騎士はどう考えてもザコだったけど、強者らしい。人間の強さの底が知れるな。


「だからさ、ユルベルグも壊しちゃおうぜ。王とか偉い奴を皆殺しにしてさ」

「するとどうなる?」

「放っておけばマシな奴が代わりに王になるだろ。そうしなきゃ国が亡びるだろうし」


 俺はそうなっても構わないが。いや、むしろ滅びて欲しいくらいだ。


「だから、お前の姉とか他の騎士を皆殺しにした後にユルベルグに行こうぜ。んで、王とか偉い奴を殺せばいい。そうすればお前を縛る奴もいなくなって、お前は自由になるだろ? それにその友達も安心だ」

「成程、名案だな!」

「だろ!」


 どうやらフレアも乗り気らしい。嬉しい誤算だな。


「んじゃ手始めに前門の騎士を皆殺しにしようぜ」

「うむ!」


 俺とフレアは走って前門へと行き、ユルベルグの騎士たちの前に立つ。


「おお、フレアさまではありませんか! どうされましたか? もしや、コロナさまたちと共にこの城へと入るのですか?」

「ああ」

「それはよかったです! フレアさま程のお方がいれば全力として安心できますから!」


 注意してみればよく分かる。この騎士たちのフレアを見る目には、感情がまったく籠っていないということが。

 いや、籠っている。あれは妬みや恨みなどの負の感情だな。

 おそらくはフレアが羨ましいのだろう。そしてこう考えているに違いない。命令を聞かないのに強いだなんて妬ましい、と。


「君もフレアさまと行くのかい?」


 騎士の1人が俺に問う。

 この騎士の俺を見る目はフレアを見る目と同じだ。何故こんな奴が、何故自分ではないのか、そう言いたげな目をしている。

 つまらない。何とつまらない存在なのだろうか。


「……強者が正義の魔族領で生まれなかったのが、お前の唯一の幸運だよ」


 俺は掌底で騎士の体内に衝撃を当て、その首を手刀で折った。そして隣にいた騎士の首を掴み、その騎士を棍棒の用に振り回して周りの騎士を一ヶ所に集めるように弾く。

 そこには棒立ちで立ち尽くす騎士たちもおり、数はこれで計20人くらいになっただろうか。


「水辺に立ちしは雲雷の雄叫び。地中に行きしは轟の雄叫び。《サンダーレイタクス》」


 一か所に集めた騎士の真下に魔法陣が浮かび上がり、そこから這い出たのは雷の手。雷の手は騎士たちに雷のダメージを与えながら空へとその手を伸ばす。

 そして、空からの落雷がその手に落ち、更なるダメージを負わせる。雷による上下からの攻撃。それが《サンダーレイタクス》だ。

 これにより20人くらいに騎士が焼け死んだ。

 横を見ると、フレアは10人くらいの騎士をその拳で粉砕していた。見ればそれらの騎士の体は陥没していたり、ふくらみが足りていなかった。おそらくは体中の骨を砕かれたのだろう。

 細身の女の両手にある巨大な手甲。何とも不格好に見えるが、これがフレアの戦闘用装備なのだろう。

 いや、何か違和感があるな。


「……そういや、お前が最初に背負ってたあの盾はどうしたんだ?」


 俺はフレアに近寄って問う。


「あれはお前と戦う為に外したからな。まだ城の中だ」

「盾が無くてもお前なら平気そうだけどな。お前、結構速いし」


 俺ほどではないが、中々に速かった。油断していたら俺の方が危なかったかもしれないくらいだ。



「ぬ? あれは盾ではないぞ?」

「え?」


 大きさといい、形といい、あれはどう見ても盾のように思えたが。


「あれは脚部装甲だ。お前との戦いでは使わなかったがな」

「あれも装甲だったのかよ。俺はてっきり盾だと思ってたよ」

「いや、あれは本気で戦う時の為の装備だ。私としたことがお前の戦力を見誤ってしまったようでな、あれを外してしまった」

「お前は脚部装甲付けた方が速いのか? 重くなるんじゃねーの?」

「私からすればあれをつけたところで重いなどとは毛ほども思わん」

「……その手甲は重くねーの?」

「無論だ」


 何となく思っていたが、コイツの筋力は下手をすれば魔族をも超えている気がする。

 あの背負ってた脚部装甲なんてかなり重い筈だ。あれが床に落ちた瞬間の音と揺れがそれを物語っていた。


「まぁでも、それならさっきの戦いでは、お前本気じゃなかったんだな」

「本気だったぞ」

「でも装備は完全じゃなかったんだろ?」

「ああ」

「なら、その内にでも再戦しようぜ!」

「いいだろう。次は負けんぞ!」


 その時が楽しみだな。やはり強い敵との戦いは胸が躍る。


「そういや、これで騎士は最後の1人か」

「そうだな」


 俺たちは会話しながらも騎士たちの殲滅を行っていて、俺たちの目にいるこの騎士が最後の1人だ。

 60人近くいたが、どれもこれも弱すぎて話にならない。こんな奴らが大手を振って歩けるなど、人間領の強者は何をやっているのだ。それとも、これが人間領の強者とでも言うのだろうか。もしそうならば、滑稽だ。


「んじゃ、城に入るか」

「そうだな」


 俺とフレアはそのまま城へと入って行った。

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