眩んだ戦闘 2

 サラザール・ガラアルは視界を奪われても、意識まで空白にしていなかった。

 ただ恐怖にも似た驚きはあった。

 この連携を相談する時間はなかったはずだ。にもかかわらず、完璧な形で実現された。いや、それよりも私の魔法を防ぎ切ったのだ。柔軟な無色の魔法によって。

 やはり、この者たちは危険だ。後世の障害となる消すべき存在。

 ザッ。

 見えない世界で足が地面を削る音。それは正面、数mから。

 ハーニー・ルイスが動いた。恐らく前進だ。私を斬るこれ以上の機会はない。

 手に持つ鉱石剣の重量を再確認する。ここで一振りすれば十中八九当たる。奴は、目の見えない一瞬を狙うしかないのだ。ここまで来て回り道などしてこない。最短距離でくるはず。

 ……しかし、確実ではない。外せば斬られる。それならば、ここは後退すべきか。一度下がって目が慣れるのを待った方がいいか。

 選択肢は二つ。

 闇雲の攻撃か。戦闘の仕切り直しか。

 サラザールは後方、東門から撤退する民の気配を感じた。

 そして選ぶ。取るべきだと思った行動を。


「ふッ!」


 サラザールは大地を蹴った。上体を僅かにそらし、後方への跳躍を安定させる。

 魔法の伴う後ろへの移動。

 これで敵の不意打ちは空振りに終わる。仮に刀を振らずとも、こちらの高速の後退を見てから追うようでは遅い。そして魔法を使って追いかけてくれば位置を把握できる。

 魔法を使った感覚はなかった。

 背中に当たる風を感じながら、サラザールは瞬きを繰り返す。光が薄まり、ぼやけて世界が戻ってくる。

 なんにせよ時間は稼げた。これから数度戦闘を繰り返せば、退避は確実なものとなる。

 束の間の安堵。それは、本当に一瞬のものでしかなかった。


「ば、馬鹿なッ!?」


 鮮やかな色を取り戻す視界。その正面には青年がいた。すぐ目の前で腰だめに刀を構えて駆けてきていた。


「くっ!」


 金剛の剣を振るおうとする。しかし、腕の筋肉は弛緩していた。力を込めるための、心構えをしていなかった。

 ゆえに、遅れる。咄嗟に動くための緊張が足りていない。

 目前の相手は違う。全て準備してきている。斬るための意識、行動を絶やしていない。

 刀身の白色が、光とは別の輝きを持って輝いた。


「ぐおっ」


 まず感じたのは、冷たさ。胴が線上に凍る感覚。それはすぐに熱い液体の感触に塗りつぶされる。

 激痛。嫌なほどに意識がはっきりする。

 サラザールは斬られた衝撃でバランスを失った。不格好な体勢で接地する。着地の衝撃を抑えられない。背中から落ち、地面の摩擦によって後退速度はなくなった。静止する。

 胴を一閃されたサラザールは仰向けで倒れた。

 微かな魔法のみで戦闘は決着した。

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