他人越しの景色 2
地下牢は基地のほぼ真ん中に作られていた。それは脱走を防ぐ意図があってのことで、今回の状況を見ると確実に機能している。
サラザールの横で降伏勧告を終えたカトルはため息を吐いた。
「彼らは降伏しますかね……」
「してくれると手間が省ける。まあ、ここまで仲間を助けに来るほどだ。期待はしていない」
「無駄では?」
カトルがささやかな反感を混ぜて言う。
彼には嫌な役回りをさせている。不満が零れるのも仕方ない。
「無駄ではないぞ。降伏を促されたという事実が、反抗の意志を僅かでも削ぐ。特攻をしかけようと思う者であればあるほど、そういった『降伏すれば助かるかもしれない』という希望が魔法を弱らせるものだ」
魔法は心の表れ。貴族の戦いは魂のぶつかり合いなのだ。不純な者は負け、純粋な者が勝つ。基本的に自分を裏付けるものが力となる。
「彼らに残された道は一つ。命を賭しての反撃よ。死を覚悟した魔法使いは恐ろしい。だから私は選択肢を与えてやったのだ。一瞬でも降伏しようかと思えば、心は揺れる。決死の行動にどこか後悔が宿る。ゆえに、我々の勝利だ」
「なるほど……」
カトルは納得して頷いた。
サラザールは、しかし表情が渋いままだった。
あの青年たちは、仲間を救うために危険を冒せる。そんな人間が自棄になると言いきれるか。……分からない。そう転んでもおかしくないが、諦めない気もする。
サラザールは周囲を目だけで見まわした。
基地中央、地下牢の入り口を約二百人で包囲している。距離は30mほどで円状の包囲。隙間はない。全ての民兵に魔法石が行き渡っている。戦力は十分。二人相手におおげさすぎるくらいだ。
貴族は私とカトル。他に4名を配置している。指揮系統に問題はない。
命令すれば、集中砲火で確実に始末できる。仮に四層魔法使いが相手でも、この布陣で負けるはずがない。慢心ではなく理屈としてだ。
「妙な気分ですね。自国の基地なのに戦陣を組んでいる」
「ああ……」
普通の状況ではない。こうなった経緯も、彼らの行動も不条理。
だからか。勝利を確信できないのは。
どこか得体のしれない印象がある。予想の範疇を越えそうな……嫌な予感がする。
「東門は開いているか?」
「え? ええ。それが何か?」
「いや。チ……」
舌打ちは、聞いた自分に向けてだった。
なぜ聞いた。退路の心配などそれこそ弱み。心の逃げ道ではないか。
そう自分を叱咤しながらも、理由は明らかだった。
指揮官なのだ。あらゆる状況を考え、部隊を生かさなければならない。純粋な者ほど強いが、指揮官はただ前だけを見ていればいいわけではない。そこには責任が伴う。
「ッ、一人出てきますッ」
カトルの言葉に包囲する民にも緊張が走る。
今後の展開を決める人物に注目が集まる。
「ハーニー・ルイスか……」
地下牢に続く闇から出てきたのは、土色の髪で腰に刀を差した青年だった。
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