旧王都 今を生きる理由


 戦闘の影響か、それとも疲れがたまっていたのか、アルコーはすぐに目覚めなかった。戦闘が終わって数時間した今も眠っている。

 ハーニーはアルコーの部屋の前で立っていた。壁にもたれながら、アルコーが魔法を使えた事実を考えていた。

 アルコーは魔法を使えた。それはつまり、そういうことなのだろう。

 そのうちパウエルが階段を上ってきた。


「……ハーニー君、アルの様子はどうだ」


 やってきたパウエルも部屋に入らず、通路で立ち止まる。


「まだ寝てます。傷は多いですけどほとんど軽いから大丈夫ですよ」

「……まったく。話をしに来ればこの様だ。どういうことかね」


 パウエルは戦いがあったことしか知らないらしい。ハーニーは全て説明した。

 戦いの理由。アルコーが魔法を使えたこと。勝利したこと。

 話を最後まで聞いて、パウエルは嬉しそうな顔をしなかった。


「何で喜ばないんですか? 魔法が使えたんですよ! アルコーさんの心は折れてないんです!」

「……確かに魔法を使えたが、長続きしないだろう」

「どうしてそんなことが分かるんですか!」

「私と同じだからだ」

「同じっ?」

「過去を支えにしている。魔法が使えないよりましだが……仮初の魔法だ」

「そんな……」

「アルは過去を守る戦いだと言ったんだろう?」

「……そうですけど」

「あいつは故郷を蔑ろにされて戦った。この喧嘩の理由は明確だが、今起きている戦争に戦う理由はないだろう。理由がなければ、結局何も変わらないな」

「……」


 そうかもしれない。アルコーは故郷を馬鹿にされたから戦ったのだ。守ったという事実を、守りたいから戦ったのだ。

 今を戦う理由はない。


「でも戦いたい気持ちはあるんです……」

「戦いたくない気持ちもな。割り切れずにいるのだ。だから私は、やはり無理だと言おうと思う」

「パウエルさん!」

「睨むな。過去に縋って生きることの辛さは私が一番知っている。理由もなく戦場に出しはしない」

「……く」


 歯噛みする。魔法を使った場面を見てしまったばかりに悔しかった。希望を見たのだ。魔法が使える証明を見たのだ。


「どうしてそんなに難しく考えるんですか! もっと心って単純なものでしょう!」

「複雑な問題だ」

「単純ですよ! そもそも反戦なんてなかったら……なかったら……」


 ……そうだ。

 物事は単純のはずだ。苦しむ原因なんて一つしかないんだから。

 無茶かもしれない。勝手かもしれない。色々なところに迷惑をかけるだろう。

 でも、アルコーには救われる権利があるはずだ。


「……ハーニー君。気持ちの自由はあるものだ」


 パウエルが見透かして言う。


「そうかもしれません! でも、嫌うことないでしょう! 許してくれてもいいでしょう! 僕は行きますよ! 止められたって知りません!」

「……そうかね」

「ええ! アルコーさんのこと任せます! リアも!」


 パウエルのことを置いてハーニーは階段を駆け下りていった。

 残されたパウエルはため息をつく。


「まったく……私でもあそこまで向こう見ずではなかった」


 呆れながらパウエルはドアノブに手をかけた。


「……だから悔しく思うのか」


 パウエルはアルコーの部屋に入っていった。





 アルコーが目覚めたとき、既に夕暮れに差し掛かっていた。


「……俺、どうなった」


 その問いにはベッド横で立っていたパウエルが答えた。


「喧嘩に勝った」

「……何でお前がここにいるんだ?」

「話があってな。ハーニー君もいたが、出て行ってしまった」

「出て行った、って何でだ」

「それは今はいい。それよりもお前の話だ」


 パウエルの真顔にアルコーは起こしていた体をまた寝かせた。


「……俺は大丈夫だ。小僧から何を聞いたか知らねえが、魔法だって使える」

「ならその傷は何だ」

「……不覚を取ったんだよ。調子が悪かった」


 パウエルは盛大にため息をついた。


「私たちがいつから付き合いになると思っている。30年だぞ。誤魔化すのはよせ」

「……30年か」

「ああ。長かった」

「そうだな……」


 二人、感傷に浸る。先に現在に戻ったのはパウエルだった。


「アル。お前は十分よくやった。もう休んでもいいんじゃないのか」

「何言ってんだか。俺はまだ若ぇよ」

「話は聞いている。死が割り切れないんだろう」

「……」

「お前は昔から割と繊細だからな」

「うるせぇな。俺は大丈夫だ。さっきだって魔法を使えた。勝負にも勝った。それなのに何の文句があるってんだ。おかしいじゃねえか」

「……魔法は理由だ。思いの強さだ」

「ああ」

「だが、お前は過去を使って戦ったんだ。今を生きる戦いではなく」


 アルコーは生唾を飲んだ。


「だ、だけどよ、戦えるんだぜ?」

「過去を守るためにな。だが、これからの戦争で毎度毎度過去が絡むわけないだろう。その度にお前は思い出すのか? 拒絶されても守り抜いたことを支えにするために」

「……俺は過去を利用しねえ」

「だがお前の魔法の根源はそこにある。記憶に縋った魔法だ。今を戦うことには使えまい」

「……でもよ」


 アルコーは食い下がる。

 パウエルは無言のままだ。


「俺は……戦わないといけねえんだよ。それしかねえんだ。他に何もねえんだよ」

「だからダメだと言うのだ。別の理由が要る。お前も戦士なら分かるだろう」

「くそが……」


 アルコーは忌々し気に舌打ちする。


「……私はお前と違うと言ったらしいな」

「あん?」

「私とお前は根本から違うと言ったらしいな」

「チ……んなことも聞いてんのかよ」

「何も違わんよ」

「……」


 アルコーがパウエルの静かな様子を見て黙る。

 パウエルは過去を思い描きながら語り始めた。


「私は妻を失った。一番守りたかった人だった。私の魔法の理由だったともいえる人だ。お前も知ってるな?」

「……ああ」

「だが私は魔法を使ってこられた。なぜだか分かるか?」

「いや……どうやった?」

「妻の言葉があったのだ。貴族らしく誇りらしくいてくれ、と。私はそれだけを支えにして生きてきた。……今のお前と同じだ。過去に縋って今を生きてきた」

「なら俺だって……!」

「ダメなのだアル。それでは勝てない。今を生きる生者に死者は勝てないんだ」


 アルコーは旧友の前で涙をにじませながら訴えた。


「なら、どうすりゃいいんだ! 俺には何もねえ! 守るものも守りたいものも現在にねえよ! どうしろっつうんだ!」

「見つけるしかない。私はそうした」

「……理由をか?」

「そうだ。今を生きるための理由を……」


 パウエルはそこで言葉を切った。


「ところでハーニー君だが、どうやら君の故郷へ向かったらしい」

「ああ? 俺の故郷だあ?」

「私は止めたんだがね。聞かなかった。……放っておけないな。行くぞ」

「……俺もあそこに行けってのか」

「彼はお前のために行ったんだ。アル、お前には見届ける義務がある」


 パウエルは嫌がるアルコーをほとんど無理やり連れだす。ついでにハーニーの部屋にも寄ってリアに声をかけた。


「……どうしてチビを連れてく」

「頼まれたのだ。置いていくわけにもいかん」


 リアはハーニーがいないためか不安そうにしていた。そしてアルコーを見てさらに心配そうに表情を困らせる。


「おじさん、怪我大丈夫?」

「あ、ああ。大したことねえよ」

「この子はハーニー君の魔法の理由だ」

「……知ってるよ、んなこと」

「えへへ」


 アルコーはパウエルの意図が読めないままついていく。

 やがて区が近づき、アルコーにとって見慣れたものが増えてきた。

 この道。この家。この雰囲気。ずっと昔のことのようだ。


「いつ以来だ?」

「7年か8年か……分からねえ」


 場所は場所として形をそのままにしていた。人と違って変わることなく。


「アル、私は理由を見つけた」


 目的地までもうすぐという時、パウエルが言った。


「私の戦う理由。今を生きる理由だ」

「……何だよ」


 そう尋ねて、別のことに気づいた。

 騒ぎが聞こえる。口論だ。

 声の方へ歩く。旧王都の一区。アルコーの故郷の中心地に人は集まっていた。


「ほう。派手にやってるな」


 パウエルが他人ごとのように顎をさする。

 アルコーたちの前、僅か遠くにハーニーがいた。

 区民大勢を前にして一人、何事か叫んでいる。


「──ことを言ってるわけじゃないんです! ただ帰ることくらい許してくれてもいいじゃないですか!」


 アルコーは呆然とした。


「何やってんだ……?」


 パウエルは誇らしげに微笑む。


「戦っているんだ。自分以外の人のために」


 そして言う。


「あれが私の理由だ」

「あれが……?」


 パウエルは誇り高く、恥じらうことなく言葉にして見せる。


「そうだ。人のために自分を曲げられる優しい子だ。他人のために動いてしまう弱く、しかし強い若者だ。そういう若者がいてくれる。それがどれだけ誇らしいことか」


 パウエルは眩しいものを見るように目を細める。


「私たちの、次の時代の子なのだ。彼らがいてくれるなら……戦ったことは無駄ではなかった。そうは思わないか」

「俺たちはあいつらのために……?」


 こちらに気づかないハーニーは、なおも言い争いを続ける。

 区民が言う。


「あんたみたいな子供が何を言ったって無駄だよ! 人を殺してもない貴族が何言えるってんだい!」

「人を殺めないと話を聞かないって言うのなら……今ここで斬りますよ!? それなら話を聞いてくれるんですか!?」


 パウエルはたまらず笑う。


「できもしないことを言う」


 アルコーは自分のことでもないのに必死になるハーニーから目が離せなかった。


「あなたたちはどうしてそんな一辺倒に考えるんですか! どうして人の気持ちまで分かった気でいるんですか! 誰もが望んで戦ってるわけないでしょう!」


 叫びは遠くまで響く。


「力があるから仕方なく戦う人だっているんです! 自分がやらなければ誰かがやらなくちゃいけなくなるから、失くしたくないものがあるから戦う人がいるんです! そんな人まで責めなくていいはずだ!」

「私らに関係ないことだ!」

「いいや、ある! あなたがたを守った人のことなんですよ!? あなたがたが普段食べる肉や魚の命を、代わりに取ってくれる人と同じで、戦う責任を被ってる人がいるんですよ! それをどうして認めないんです!」


 区民はどうしても引き下がらないハーニーに辟易としていた。


「私らにどうしろというんだ」

「僕たちを褒めろとは言いません! ……放っておいてくれるだけでいいんです。いることを許してくれるだけでいいんです。それだけで救われる人がいるんですよっ!」


 ハーニーの言葉で民衆がざわつくほど都合よくはない。反感の根が絶えるほど浅い物ではない。

 それでもアルコーは空っぽの心で「今」に見惚れていた。

 夕日色の空の下で美しい景色を見るように目を奪われていた。

 こうも他人のために頑張れるものかと。

 こうも自分を捨てて他人を尊重できるものかと。


「私たちにもああいう頃があった」

「ああ……」


 パウエルの言葉に頷く。

 俺にもあんな風にひたすら生きた時があった。

 希望ばかりが目に映っていた時代があった……。

 それを今、目にしている。

 まるで過去が今という時に生きていると証明するように。


「止めてやれ」


 パウエルが不意にそう言った。


「ハーニー君はアルのためにやっているのだから私ではいけない。君が止めるべきだ」

「俺が……」

「そうだ。どうすべきか、分かるだろう?」

「ああ。放っておけない……。そういうことか」

「一瞬で老いたな。お前も」

「うるせぇ……」


 パウエルは小さく笑って来た道を引き返していく。リアを残したということが、ハーニーに会わないと許さないという制約のつもりらしい。


「行こう?」


 リアがハーニーの元へアルコーを連れて行こうとする。それはリア自身ハーニーが心配だからなのだろうが。


「ああ……」


 アルコーは誘われるままにそうする。

 今はすべきことが分かりやすく見えているから。





 どうしても譲らない区民に熱弁するハーニーを止めたのは、後ろから肩を掴んだがっちりとした手だった。


「もういい。よせよ」

「離してください! 彼らは分かってないんです!」

「俺がいいって言ってんだぞ」


 ぐい、と無理やり振り返らせられる。目元を赤くしたアルコーとリアがそこにはいた。


「どうしてリアが……? というか怪我は大丈夫なんですか!?」

「あんなの何でもねえよ。いいから落ち着け」

「でもそれじゃアルコーさんが……!」

「俺はもういい。もういいんだ」


 アルコーは目をつむって言った。穏やかな声色は初めて聞いた気がして、ハーニーは動けなくなる。

 考えてみるとおかしい。アルコーはこんなにも力強い目をしていたか。二つの足で勇ましく大地を踏んでいたか。余裕の感じられる状態だったか。

 なぜ、と思っているとアルコーはハーニーの横を通り抜けた。

 自然、アルコーは集団の前に出る。


「なんだあ!?」


 区民の威圧する声が響いた。

 アルコーは動じない。


「別に……大したことじゃないさ。俺の家がこの先にあるんだ」


 ふう、と呼吸音がした。


「許す必要はねえ。だが、俺の家はここにある。それを邪魔する権利は誰にもないはずだ。そうだろ?」


 ざわざわと話し合う声。アルコーは構わず集団へ歩いていく。立ちふさがるものはなく、皆嫌がって人の集まりが割れた。道ができる。


「行くぞお前ら」

「え……あっ、僕らも行こうっ」

「うん!」


 リアと共に慌てて追いかける。

 ハーニーはアルコーを通す人々を見て、少し嬉しかった。

 誰も帰ることまで拒絶しない。ちゃんと優しさがあるんだ……。

 そして、今さっきの自分を振り返って俯く。


「僕は……余計なことをしたんですね」

「いや……」

「でも僕の行動は無駄でした。皆態度ほど嫌っていない。こっちが気にしすぎていただけで」

「……そうだな。だがお前がここに来なければ、俺もここに来なかった。きっと一生の間来なかっただろうよ」

「……?」


 妙に落ち着いているアルコーに違和感。


「必要なのかもしれねえな」

「え?」

「ここにいる奴らみたいな、平和を愛する人間だ。いつだって反対する存在は要るのかもしれねえ。種の一つとして当然なのかもしれねえな」

「……どうしたんですか? なんか変ですよ。大丈夫なんですか? ここ」

「……なんていうかなあ」

「は、はい」

「どうでもよくなった」

「え? ええっ」

「あー、いや、そうでもねえかも」

「どっちなんですか」

「多少はましになったってことだ。少なくとも新しい考え方ができるようになった……」

「新しい考え方?」

「ああ。……珍しく前向きのな」


 数分歩くと、アルコーは一軒の家の前で立ち止まった。

 そこそこ大きな家。庭もあるいい家だが、どこもひどく痛んでいて庭も荒れ放題。誰も使わなくなって久しいのだろう。


「ここは?」

「俺の家だ。俺の親が建てた」


 アルコーは門を抜けて入っていく。振り返り、入るのを躊躇うハーニーに気づいて訝しんだ。


「何でついてこねえ」

「だ、だってここはアルコーさんの家ですよ?」

「……構わねえよ」


 ぶっきらぼうに言われていそいそとついていく。リアは対照的に楽し気だった。探検してる気分らしい。

 内装は外ほど荒れていない。ただ埃をかぶっていて年月を感じさせる。人が住んでいた。そう感じさせる過去の象徴ばかりがあった。


「……何も変わらないな」


 アルコーは感傷的につぶやいた。


「俺がいた時と何も変わらねえ。この場所だけは何も……」


 リアが傍に立掛けられた何かを指さした。


「これなに?」

「え? 何だろう」


 それは衝立だった。金の装飾がされている。


「それは俺の勲章だ。10年前の戦争のな。名誉の証だよ」


 アルコーは懐かしむようにそれを手に取った。


「……俺こそ過去を否定していたのかもしれねえ。俺自身が一番怖かったのかもな……」

「怖いって何がです?」

「これ以上拒絶されるのが。俺が……俺自身を許せなくなるのが」


 アルコーは思いと理由の詰まった場所を受け入れるように大きく息を吸った。


「お前のおかげだ」

「え?」

「お前のおかげで俺は自分を認めることができる。理由もできた」


 アルコーは満足そうに言うが意味が分からない。


「ど、どうして? 僕は何もできませんでした。説得だって失敗した未熟者ですよ?」

「そうだな。まだまだガキだ」


 アルコーは懐古するような優しい目でハーニーを見た。


「だが、お前みたいな子供ががむしゃらに生きる様は俺みたいな大人を奮起させるんだ。俺にもそういう時があったから……燻っていられねえ」

「はあ……」

「お前にもいつか分かる。今はガキをやってりゃいいんだ」


 そう言って笑うアルコーは明るい。


「しっかし、埃まみれだな。いっちょ掃除すっか」

「今からですか? もう夕方ですよ」

「一瞬で終わる。見てな」


 アルコーはまるで音楽の指揮者のように指先を揺らした。


「あっ」

「わあ!」


 風が巻き立つ。小さな風が広がっていく。


「アルコーさん魔法が!」

「へっ。当然だ……!」


 指を揺らすと風が部屋中を駆けていく。埃を拭き取るように風は流れていく。

 それは不思議な光景だった。部屋の中を埃が川となって奔っている。窓から差し込む夕日に照らされて、光が空を流れているようだった。


「窓を開けろ!」

「は、はい!」


 言われたままに窓を開く。庭へと続く大きな窓。そこから風たちは外へ出ていく。

 家中の埃を光にして、風は舞い上がっていった。

 光の道を作って、高く、高く。


「綺麗だねえ……」

「うん……」


 リアと二人で見とれる。部屋に目を戻して、また見とれた。

 清浄な部屋からは過去の香りがして、アルコーが今、毅然とそこに立っている。


「俺にも今は理由がある。過去を今にするくらいなんでもねえ」

「理由が?」

「ああ……お前みたいな若者がいるなら、それは守るに値する。老人としての役割ってとこか」

「老人?」

「例えだ馬鹿。……おら、帰るぞ」

「え? でもここがアルコーさんの家じゃ……」

「言っただろ。俺は理由を見つけたんだ。戦う理由を」


 それは、戦場が帰る場所ということか。

 以前ならそれを重々しく言っていただろう。

 しかし、今の彼は違った。

 希望ばかり見る子供のように表情は明るく、笑みすら携えている。

 もう大丈夫なんだ。

 だから嬉しくて返事も大きく。


「……はい!」

「もう夜だってのにうるせえな」

「す、すみません」

「つーかよ、お前敬語やめろ。普通に話せ」

「普通って何です?」

「そりゃお前、わっかんねえかなあ……。いいからよそよそしくするなってことだ」

「は、はあ」

「その煮え切らない態度もやめろ」

「文句ばっかり言って……う」


 アルコーがじっと見ていた。

 怒らせたかと思ったがため息が耳を打った。


「それでいいんだ。それで」


 唖然とする。

 アルコーが求めていたのは愚痴でもいいから気軽に話しかけられることだったらしい。

 それが分かると急に親しみが沸いてつい笑みがこぼれた。


「……笑うなよ」


 そっぽを向くアルコーは年の離れた大人に見えなかった。

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