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「お母さん…私どうしたらいいのかな」
同窓会の途中で娘から電話がかかってきた。電話に出て早々聞いた声は、あまりに悲痛に満ちていた。夫の悪い推測がおそらく当たったのだろうと私は感じた。
「何があったの?言ってごらんなさい。一人で抱えきれない悩みだったら存分に私に話しなさい」
娘は涙をすすりながら答えを返した。
「…胎児に遺伝子異常がある可能性が高いって言われたの」
その言葉が来ることがわかっていたけれど、それでもこの言葉を聞いて彼女は驚愕し、落胆した。しかし、悲しみの旋律はそれで終わらなかった。
「体質上、次の子供は望めない可能性も高いって」
娘の言葉に、言葉が出なくなった。神様がこの世にいるとしたらなんて残酷な仕打ちなの。娘が何をしたっていうの…あんなに子供を無邪気に欲しがっていたってのに!どうして…どうして私の娘を選んだの!
「…少しだけ答えを待ってもらえる?お父さんにも相談してみるわ」
私は答えを見つけられなかった。
「ごめんね、お母さん。楽しみにしていた同窓会の途中で」
「何言ってんのよ。私のことなんか心配しなくていいのよ。これはあなたが抱えている問題でしょ。大丈夫、お父さんだったらきっと何か解決策を教えてくれるわ」
「うん…待ってるね」
そういって電話は切れた。
しばらくしてから夫の姿を見つけた。
「あなた…!」
「どうした、そんなに取り乱して。何があったんだ」
とりもなおさず即座に、夫に今の電話の内容を話した。夫はそれを聞いてしばらく黙っていた。床を見た後、徐に頭を上げ、口を開いた。
「…今日はもう夜も遅い。明日いの一番に愛梨のもとに行こうとしよう。こういうことは電話で話すよりも直接会って話した方がよい」
夫も娘にどういえばいいか逡巡していた。あんなことをいっていたからおそらく今私と同じことを考えているのだろう。診断結果は将来の結果を正確に導き出している。可能性が高いなどと言っているが、そうではない。そうなるのだ。
(こんなことになるのなら周囲の言うようにデザイナーベビーをするべきだったのだろうか。遺伝子疾患を回避するために、受精卵の段階で遺伝子操作を行うべきだったのだろうか。
でもそんなことは親のエゴだわ。生まれてくる子どもが特定の性質を持つように事前に遺伝子を設計するなんて間違っているわ。でも…)
その次に出てくる言葉を遮るように、突如横から声が聞こえた。
「あれ?もしかしてお前将暉か?」
「そういうお前はまさか湊か?」
「そうだ。久しぶりだなー元気してたか?瑠奈さんもどうよ?結婚生活こいつに飽き飽きしているんじゃないの?」
「おい湊。悪い冗談はよせよ。俺と瑠奈が仲悪くなるわけがないじゃねぇか」
「相変わらず大した自信家だな」
昔の二人の姿を見ているようでとても懐かしい感じがした。さきほどまで悪く考えていた自分が浄化されるかのようなそんな気がした。
「そうそう今日お前に渡すものがあるんだった」
「お前が俺に贈り物?一体なんだ」
「俺じゃねぇよ。お前からだよ」
「?何を言っているんだ」
「30年前にお前から渡されたんだよ。30年後のお前に渡すようにってな。あの時からお前ってホント変な奴だったよな」
封筒を受け取った夫は戸惑いの色を露わにしていた。過去の自らの記憶を思い出せずにいるようだった。
「瑠奈。まさかこれがここに来る前に言っていたことか?」
「さぁどうかしらね?」
夫は封筒をあけ、中から一枚の紙を取り出した。
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