第3話 私 の 場 合


 そのころ私は大学の2年生で、進路に大きな悩みを持っていた。私はある小さな町の公立の大学の教育学部に籍をおいていた。もともと、学校の先生になりたくて、この学校に入学したわけではなかった。大学の実情も良く知らずに、ただ入学してしまったのであった。

 私は入学前に、既に「源氏物語」は原文で読み切っていた。そして、平安時代の多くの文学作品も読破していた。私は純粋に国文学の勉強がしたかった。しかし、地方の国公立大学は予算不足と相まって、人材不足であった。国文学の専任はいなかったのである。ただ、非常勤でいくつかの大学で教えている方が、週に二日講義に来るだけであった。研究者になりたいという密かな希望を抱いていた私は失望した。

 私は最初に入った大学を中退し、今の大学に入りなおした。年齢的にももうやり直しはできなかった。

 そんな私に久保田先生の例会を紹介してくれたのが、国語学の青木先生であった。青木先生は、一昨年私の大学の国語学の助教授として赴任してきた。色黒の痩せた人で、銀縁の眼鏡をかけていた。

 

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