黎明の香り (1)


 長門ながと筑紫つくしの間にある狭い海峡を渡って、出雲の船団が行き着いたのは、遠賀おんがという地だった。


 海の道を行き来する交易船がよく立ち寄る海の要地で、このあたりには、小さな港がいくつもある。出雲の船が繋がれたのは、その中でも、阿多隼人あたはやと族が司る港だった。


 さすがは、南海へ向かう航路を取り仕切る一族の港で、そこには、さまざまな珍しいものが溢れていた。赤土でできた器や、南海の産物や、それから、隼人族が細工を得意とする、竹という植物でできた日用品や――。


 赤や紅色や、若竹の草色など、鮮やかな色合いで彩られた異国の港の風景が目に入ると、狭霧は目を輝かせた。


(……きれい)


 でも、近づきゆく港を散策したいとか、あちこちに積まれた見慣れぬ品を近くで見たいとか、手に取ったりしたいとか、そんなふうに思うことはなかった。

 

 船が着岸して、大国主たちが乗った大船から続々と人が降り、その船がからっぽになってしまうほど時が過ぎても、狭霧は、乗って来た小舟のそばを離れなかった。


 船の上と桟橋を行き来しながら、狭霧の手がせっせと運んだのは、薬草が詰められた甕や器の数々だ。


「これで終わりよ」


「あぁ、ありがとう、姫様」


 積み荷の番を任された兵へ最後の荷を手渡した頃、狭霧はすっかり汗をかいて頬を上気させていた。


 疲れを落ち着かせるように、一度ふうと大きく息を吐く狭霧へ、その兵は、大きな肩をすくめてみせる。


「本当に、風変りな姫君ですね。俺たちみたいな汗臭いのにわざわざ混じって、手を貸してくださるなんて……」


 兵はくすくすと笑っていたが、手伝いを買って出た狭霧を咎めるふうではない。


 周りには、荷降ろしをする兵たちが同じように行き来をしていたが、彼らも今のような狭霧には慣れたらしい。男に混じって力仕事をして、額や頬に汗をにじませる狭霧と目が合うと、彼らは、珍しいものを見るように苦笑を浮かべた。


 ただし、身分や血筋というものにことさら気を遣う事代ことしろたちは別だった。


「すみません、杵築きつきの姫様に荷担ぎみたいな真似をさせてしまって……!」


「だから、荷担ぎみたいな真似じゃなくて、荷担ぎでいいのよ、わたしは」


 いいの、気にしないでと、狭霧は紫蘭たちに何度もいっていた。それなのに、目が合うごとに深々と頭を下げられ続けるのは、居心地が悪いものだった。狭霧は別に、誰かから感謝してほしかったわけではない。好意からの気遣いというのも、時には、重荷に感じてしまうものだ。


「本当に、気にしなくていいのに……。紫蘭たちは忙しいんでしょう?」


「でも……ねえ」


 紫蘭と桧扇来は、目配せをし合って、びくびくとしていた。


 しかし、その直後、二人は細い身体をびくりと震わせることになる。


 桟橋の周りには、荷降ろしをする出雲の兵と同じほど隼人族の船乗りがいて、狭霧たちがいたあたりは、人でごった返していた。その人波をかき分けながら、やって来る男がいた。


「紫蘭、桧扇来……おまえたち、まだこんなところにいたのか!?」


 男は、白の衣の上下という、飾り気のない出雲風の身なりをしていた。


「高比古様がお呼びだぞ。先ほどの命令を聞かなかったのか!」


「は、はい……ただいま!」


 狭霧は呆れてしまった。


「なんだ、用事があったのに、わたしのそばにいてくれたの? 本当に気にしなくてよかったのに」


「でも……ねえ? 桧扇来」


「うん……ねえ? 紫蘭」


 二人の事代は、どちらも、あまり齢がわからない顔つきをしていた。二十歳前後に見えるが、実のところよくわからない。童の年だといわれればそうかと納得するし、三十を超えているといわれても、とくに疑わないだろう。着ている衣は、彼ら特有のもので、ほかではあまり見ない形だ。袖がいやに大きくて、ぶかぶか。動きやすい格好とはいえなかった。


 呼びに来た出雲の武人に引っ張られるようにして、二人はおずおずと狭霧に背を向けたが、まだ狭霧を気にして、ちらちらと何度も振り返る。二人は、揃って弱々しいため息を吐いていた。


「なんだか心配だよ、桧扇来……。桧扇来は、出雲を出てから狭霧様が休んでいるところを見た?」


「ううん、見てないよ、紫蘭。船の上でも、船を降りてからも、あの姫君はずっと働き通しだよ。それどころか……うん、そうだよ。姫様が休んでいる姿なんて、去年からずっと見てないよ――」


 ひそひそと話す二人のやり取りを聞きつけると、狭霧は、ぽかんと口をあけた。


(働き通し? 去年から? ――わたし、そんなふうに見られていたんだ)


 きょとんと真顔をして、二人の後姿が雑踏の奥へ消えるのを見送ったが、すぐになんだか可笑しくなって、いつの間にか吹き出した。


(去年から働き通し? まさか。まだまだ、全然足りないのに――)


 それから、こんなふうに胸で想った。


(今の話は聞かなかったことにしよう。もっともっと、くたくたに疲れるまで何かをしないと……動いていないと――)


 港の脇に井戸を見つけると、まっすぐにそこへ向かい、冷たい水でじゃぶんと顔を洗う。冷えた井戸水で額の汗をぬぐい去ると、濡れた顔を拭くのに、その場でしばらく立ち止まる。でも、そうして足を止めた、十か二十かを数えるほどの間ですら、「あれ? 今わたし、立ち止まっている……?」と気づくと、奇妙な違和感を覚える。それから、胸の底から恐ろしく思った。


(動いていなくちゃ。もっと、もっと……)


 そのうち、耳が、手伝いをせがむ声を聞きつけた。


「誰か、来てくれ……! 米の荷降ろしがまだ滞っていて……!」


 狭霧にとって、それは天の声だった。


(よかった、まだできることがあった)


 ほっと胸をなでおろすと、狭霧は声のした方角へ向かって足先を浮かせる。もちろん、手伝いにいくためだ。






 あちこちで力仕事を買って出たせいで、その晩、床に着く頃、狭霧はくたくただった。


 でも、出来る限り動いて、考えて、身も心も疲れ果てると、不思議と胸は安堵する。思い切り疲れてようやく、胸元に忍ばせたお守りに触れていい気もして――。


 そして、こういう時。髪飾りのお守りは、時々、褒美のように幻の声を聴かせてくれる。今も、そうだった。


『お疲れ様、狭霧。よく休んで――』


 ……うん、わかった。明日も頑張るね、輝矢……。


 借り物の寝具に寝そべって、指先でお守りの形をたしかめる。それから――。


 今日も一日疲れたね。おやすみなさい……。


 ほうっと口元に笑みを浮かべると、狭霧は、ゆっくりとまぶたを閉じていった。


 それはまるで、もう眠ってもいいよ、という合図だった。目を閉じるなりすぐに狭霧の頭はぼうっとして、何も考えられなくなる。眠りに落ちたのだ。






 遠賀に着いて、三日目。昼過ぎになると、さすがにどこの手仕事も落ち着くものだ。


「何かすることはない?」


 出雲の兵たちが仮の居場所とした岩場や川べりを転々としては仕事をねだったが、その頃になると、兵たちは「またか……」という風な苦笑いを浮かべた。


「もうないですよ、姫様。少し休んでください。ここにいる男どもにも、あとは、自分が休むのに居心地のいい寝床を探せとしかいってませんから」


「じゃあ、皆さんの寝床の支度を手伝いましょうか? わたしの寝る場所は用意してもらっているので。隼人の方に館を使わせてもらっていて……」


「いいですよ、狭霧様。そこまでしなくても……」


 そう答えた武人は狭霧の見知りの相手で、名を箕淡みたみという。


 箕淡は、幼い頃から狭霧に弓の引き方を教えてくれている弓の名手で、齢の頃三十半ばという男盛り。呆れ半分、感謝半分という風に箕淡はくっくっと大きな肩を震わせていたが、遠慮している風でもなかった。どうやら本当に、仕事らしい仕事はないのだ。


「でも、まだ日が暮れるまで時間があるし……。そうだ、夕餉の支度は?」


「もういいですよ、狭霧様。どうか休んでください。戦の旅の極意は、手を抜ける時には抜くことですよ? そうできなくなった時のために、どうか今のうちに……」


「でも……」


 狭霧の内側には責め立てるような声が響いていて、それは、足を止めることを許さなかった。


 ……まだ駄目だ。止まるな、動け、動け……。


 追い立てられるようにも、顎を上げて空を見上げると、太陽は天頂から少し下ったものの、まだ高い場所にある。


 たしかに、夕餉の支度をするには早いかもしれないが、できることなら、いくらでもあるはずだ。


 唇を強く横に引くと、狭霧はにこりと笑って箕淡を見上げた。


「じゃあ、少し森を見てきます。夕餉の足しにできそうな果物の樹を見つけられるかもしれないし、知らない薬草が生えているかもしれないから――」


「ええ、森を? ま、待ってください、一人で出歩くなんて、いけません! あ、安曇あずみ、安曇~!」


 箕淡はたちまち血相を変えて、大声である男の名を呼んだ。


 狭霧が箕淡と話していた場所は、遠賀の港から少し内陸に入った場所にある野だった。林を背後にしていて、そばには、海へ向かう川が流れている。出雲軍の野営となった川べりの土手には、白い天幕が三つ四つ建てられている。それは、軍の中でも特に身分のある武人が仮宿とする移動用の寝床だが――。


「あ、安曇……?」


 安曇――。それは、狭霧の父代わりとして、幼い頃から世話になっている人の名だ。


 安曇の性格はとても温厚で、普段は戦の香りなど感じさせない人なのだが、実は連戦練磨という話で、父、大国主の片腕とも称されている。


 ほとんどが野宿という戦の旅で、夜露をしのげる天幕を宿として使える人など、ほんの一握りだ。だが、大国主に次ぐ位をもつ安曇なら、その一握りに入っていてもおかしくない。


 箕淡が天幕の一つから呼び出そうとしている相手は、その人なのだ。そう考えると、狭霧の目には、少し離れた野に見えている天幕の群れが、厄介なものに映った。


「安曇の居場所って、ここなんだ……」


 狭霧はつい、逃げるように後ずさりをした。


「その、箕淡……。安曇にいっておいてね。わたしなら、すぐに戻るから……!」


 今のうちに逃げよう。いってしまおう。


 そろそろとその場を離れようとすると、箕淡は目を白黒させた。


「駄目です、狭霧様、私が一緒に……!」


「じゃ、じゃあね……!」


 安曇に知られたら、きっと大げさなことになってしまう。


 そんなんじゃないのに――。わたしが求めているのは、出雲の姫としてののんびりとした暮らしではなくて、そうではなくて……。


 こういう時こそ、逃げるが勝ちだ。


 背を向けるなり、狭霧はぴゅっと駆け出した。


「狭霧様! やめてください、あなたに何かあったら、私が大国主に殺される……! 安曇、安曇……! 誰か、狭霧様の後を追え、早く……!」


 背後から箕淡の情けない声が聞こえたが、狭霧は振り返る気になれなかった。


(本当に大丈夫、そんなのじゃないから!)


 ちょっと、近くの森へいくだけなのだ。それに狭霧は、付き添いの従者がいなくては何もできない姫君になりたいわけでもなかった。


 狭霧が駆けこんだ林の中は、兵たちが野宿をする場所になっていた。見渡せば、木の根を枕にして疲れを癒している男たちの姿が見える。


「いったいなんだ……?」


(捕まらないうちに、もっと速く……!)


 ぼんやりと顔を上げる兵たちの脇をすり抜けて、狭霧は懸命に足を動かし、少しでも遠くへいかなくちゃ!と、行く手の森を目指した。




 


 狭霧は足に自信があるほうだったが、それはきっと、幼い頃から毎日のように輝矢のもとに通っていたせいだ。


 輝矢の館に近づくのを禁じられてからは、どんな馬鹿げたことだろうが、思いつく方法はすべて試した。


 木登りをして館の大屋根へ上がり、そこを駆けたこともあったし、布を頭からかぶって番兵の目をごまかそうとしたこともあった。兵たちはそれをいたずらと呼んだが、狭霧にとっては真剣で、輝矢のもとへいくのは、何より大切なことだった。


 どうやら、追手は巻いたようだ。


 狭霧は林の果てに行き着き、さらさらと清らかな水音を立てる川のほとりへたどり着いていた。


 川には橋がかかっていて、その向こうには、遠賀の森が広がっている。それは、手仕事のついでに前にこのあたりまで来た時に、あの橋を渡って一度この目で見てみたいと、そう狭霧に思わせた、古い森だった。


 川にかかる橋は、丸太を渡しただけの素朴なものだ。


「よい、しょ……」


 水音の上に渡された丸木を跳ねながら渡り切ると、そこで足を止め、ふうと息を吐く。


 そこは、遠賀の森の入り口だった。ほんの少し先には緑の壁ができていて、その向こう側には、深い緑色をした立派な森がある。こんもりとまあるく茂る巨大な森と比べてしまうとあまりにも頼りなげに見えたが、細い道もあって、それは森の奥まで続いている。


 その森にあるものは、森をつくる木々の幹の色といい、緑の天蓋を為してこんもりとふくらんだ葉の重なりといい、枝の色や、小さな木の実の色にいたるまで、どれもこれも色味が深かった。どの色も不思議な深みがあって、重苦しい印象があるのだが、その理由を、狭霧は肌で感じた。


 ……きっとこの重みは、この森が重ねた時の重さだ。


 この森はきっと、橋の手前に広がっていた林よりも、ずっと長い時をかけて育ってきたのだ。こんなふうに、色に深みが出るまで――。


 頭上に広がる、分厚い緑の屋根。それを見上げながら、狭霧はゆっくりと森の小道を進み、森の中に入ってみることにした。


「うわぁ……」


 緑の天井からは、葉の色をした日差しが地面へ降り注いでいて、道に積もった落ち葉や、木の実や、花びらのかけらを、優しく撫でている。


 そして、一歩を踏み出して落ち葉がかさりと音を立てるなり、そこを根城にしていた小さな羽虫が、ふわんと舞い上がった。


「あ、ごめん……」


 古い森は静かで、人の気配はない。狭霧の足がたどるのが、いくら人の足が造った道だろうが、異邦人は狭霧に違いなかった。


 ここは、緑が暮らす緑のくにで、狭霧は客人としてこの森を訪れている――そういう不思議な感覚がこみ上げると、狭霧は口元をほころばせて、森に笑いかけた。


(お邪魔します――)


 異国に訪れた気分で、物見遊山を楽しむようにも、ゆっくりと小道を進んだ。


 人を恐れない小さな蜻蛉とんぼや蝶が、行く手をひらひらと飛び交っている。ここが虫の國なら、虫の飛翔を、人の狭霧が邪魔するわけにはいかない。ひらひらと追いかけっこをしている蝶がいれば避けて歩き、道に顔を出している根っこがあれば踏まないようにと、気をつけて歩いた。


 ここは緑の國。人の世界ではないのだから――。


 でも――。ある時、ふと、狭霧は足を止めた。


 ここは緑の國、虫が暮らす場所――。そう思いつつ森を分け入ってきたのだが、道を少し進んだあたりに、奇妙なものを見つけた。それは、狭霧の目に、いやに馴染むものだった。


「草園……?」


 森の奥には、人の手で植えられた緑が広がる一画があった。


 長い年月を経て豊かになったこの森の土は黒くて、地表は苔や蔦で覆われていた。だが、狭霧が見つけたその場所では、黒土は掘り起こされ、もとから生えていた草花は根こそぎ引っこ抜かれて隅へ山積みにされ、水気を失って乾いている。そのうえ地面には、畑じみた畝までつくられていた。


 丁寧に開拓された地面に植えられていたのは、どれも同じ草だった。花が咲く季節ではないのか、真四角の形をした草園を覆う草には、つぼみも花びらも見当たらない。でも、その草の葉が小さくて丸みを帯びていたせいか、一面が緑一色でも、不思議と可憐な雰囲気がある。その草には、不思議な印象があった。


「これは――?」


 それは、狭霧が知らない草だった。思わずしゃがみ込んで、指先で小さな葉をすくいあげてみる。葉は鈴なりになっていて、つやつやとしていた。それに――。


 狭霧は、鼻先を動かした。


(なに、この香り?)


 その葉には、芳香があった。ひと嗅ぎするだけで、すんと鼻の通りがよくなる涼しげな香りで、菖蒲や桃や、いい香りともてはやされる別の花の香りとはかけ離れている。でも、決していやな香りではなかった。


「……」


 ぽかんと唇をひらいて、森の一画を成す草園を眺める。


 葉の形といい香りといい、そこに群れる小さな草の何もかもが、狭霧の記憶にあるものとはかけ離れていた。あまりに異様で、記憶が混乱して、時が止まったと感じるほどだった。


 そのまま、どれだけ時が経ったのか――。


 しゃがみ込んで、不思議な芳香に酔ったようにしばらくぼうっとしていたが、ある時、狭霧ははっとして、毛を逆立てるほど驚いた。背後に、人の気配を感じたのだ。


(だ、誰かいる……? 人の気配が――)


 気のせいならいい。そう思いつつ、こわごわと振り向くが、狭霧が人の気配と感じたものは、気のせいではなかった。


 背後には、うずくまる狭霧を見下ろす背の高い人がいた。


(誰――?)


 振り返って、背後に立つ人を見上げるものの、その人の姿をまじまじと見るうちに、狭霧の目はますますきょとんとして、まばたきを忘れた。


 今、狭霧を混乱させた不思議な芳香を放つ可憐な草――。それと似たものが、人の形を得て目の前に現れた……そんな気がして、たまらなかった。


 古の森の小道で狭霧が出会ったのは、背の高い青年だった。


 胸の位置まで垂れた青年の黒髪は、両の耳元で綺麗に束ねられていて、鳥の羽を思わせる白い髪飾りがついている。身にまとっているものは、ほとんどが白一色の簡素なもの。でも、帯は品のいい紫色の綾布で、腰に佩いている武具も見事だった。剣に見えるが、出雲で狭霧が見慣れたものとは少し形が違う。柄には銀色の糸のようなものが巻かれているが、それがいったい鉄なのか、銀細工なのかは狭霧にわからない。とにかく、そこに立っていた青年は、狭霧が見たことのないものを数多く身にまとっていた。


 ゆっくりと視線があがっていき、狭霧の目が青年の顔にいきつくと、狭霧は唖然として、唇をぽかんとあけてしまった。


 そこにいる青年は、出雲で見かける若者たちとはかなり雰囲気が異なっていて、実のところ、見慣れない顔立ちをしていた。


 すっと横に伸びた眉。憂いを帯びて見える、優しげな二重の目。白い頬と、華やかな桃色の唇。そして、細い顎。

 

 いったい、なんて品のある姿なんだろう――と、つい見入ってしまうほど、そこに立つ青年には、優雅さや奇妙な存在感と呼べるものがあった。




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