14皿目 お小遣いがあがりました。

 私のお小遣い制度に改革がもたらされる。これまでは三日分のお小遣いとして千円札を一枚渡されていた。つまり、一日当333円ということになる。それが、今日からは一週間分として5000円渡される事になった。それは倍以上。理由は正直わからない。妻が突然言いだしたのだ。

 私は自分の金銭感覚をよく理解している。持っていたら、すべて綺麗に使い切る。手持ちが少なければ、少ないなりにやり繰りするし、余裕があればあったで全て使い切る。借金は嫌いだ。分割払いの購入なども嫌い。クレジットカードも極力使用しない。

 今までは散髪代や、仕事での付き合いなどでお金が必要になった時は、その都度、妻に事情を説明し支給してもらっていた。だから、大金を持っている時はそのほとんどが、その日のうちに消費される。

 さて、5000円も渡された。しかも、来週には、また5000円を渡すと言う。ということは、今週中に5000円も使い切らなければならない。あせる。この際だから、2週間はこれまで通りのお金の使い方をしてみる。そうすると、2週間後には約5000円余る事になる。それだけあれば、新しい人生ゲームが買える。

 いや、まてよ。なにも人生ゲームである必要はない。自分のお小遣いなのだから、好きなものを買ってよい筈だ。

 いいのかな?ひと月も我慢すれば、10000円にもなる。そうしたら、もっとすごいものが買えるぞ。いいのかな?

 いやまてよ。もしかしたら、なにかの罠かも。急に気前が良くなるなんて、何か裏があるに違いない。理由もなくお小遣いが倍増するなんて、そうそうあり得ない。お給料が増えた訳でもないのだ。ではなぜだ?

 考えられる理由は、①妻自身が無駄遣いを始めたので、罪悪感を持ち始めた。②妻に購入したいものがあって、私に反対されないようにに先手を打った。③ただ単に、小銭しか持ち歩かない私を不憫に思い始めた。

 こんな所だろうか。ならば、使った所でなにも問題はない筈だ。よし。使おう。好きなものを購入しよう。あんなものや、こんなもの。おぉ。希望が膨らんできたぞ。欲もでてきたぞ。あぁ。すばらしい。自由にできるお金を持つって、なんて素敵なんだろう。

 心にゆとりが芽生えた。夢と希望に思いを走らせている私を見て、妻が言った。

「余ったら、PASMO(交通機関系の電子マネー)にチャージしてね。そうしたら駅の売店で買い物できるでしょう」

 なるほど。それなら、あんな物やこんな物は買えないね。

 電子マネー。東京には、新しいスタイルのお小遣いがある。

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