13皿目 内緒。
「あぁん!それゎダメェ〜!」リビングに妻の声が響き渡った
休日の昼下がり、子供達を遊びに行かせた後、リビングではじめたのだ。
「早く終わらせないと、子供達が帰ってきちゃう」あせる妻の声はとても色っぽい。
「あん!ずっ、ずるい!そんなところ!」そう言いながらも妻の手の動きは止まらない。指先を器用に動かしながら、攻守交代のタイミングを図っている。
「まって、まって・・・」声にだしても事は進む。
妻の手に握られた、優雅な曲線をおびたそれは、世間一般に『おもちゃ』の部類として認知されている。そこから伸びるコードを少し弄りながら嬉しそうに言う。「今度はあたしが攻める番よ」妻の目がギラギラと光り、ソファから身を降ろし、絨毯の上に立てひざをついた。対戦相手の急所を探し、指先を動かした。しかし「あぁん!逃げないでぇ、だめぇ〜、そっちは・・・」妻の攻め技は呆気なくかわされた。完全に主導権を奪われ、身をよじらせた。攻められ、逃げまどう。次から次へと押し寄せる執拗な手が妻を蹂躙する。
されるがまま・・・やがて、妻の口からあきらめともとれる声が漏れた。
「も、もうだめぇ・・・」口調が激しくなってきた。「や!やめてぇ!あーんくやしい・・・だっだめ〜!」
数秒後「あ〜ん、むかつく〜」の声と共にクライマックスを迎えた。
しばしの放心状態。いいように弄ばれた自分が恥ずかしいのか、くやしいのか。今しがたの出来事を思い返している様子。そして、切り出して来た。「ねぇ、子供達が帰って来る前にもう一回できるかな?」
私は思った。きっとダメだと言っても、妻はもう一度したがる筈だ。案の定、妻は優雅な曲線を描いた例のものを握りしめ、それを自分の好みのモードに切り替えて、ボタンを押した。2回戦の幕が明けた。
「先手7六歩」
テレビスピーカーから、ゲームソフト特有の無機質な音声が流れた。今回は『角』で攻めるようだ。
太郎の為に買ってやった、将棋入門用ゲームソフト。初級レベルのキャラクターに負ける実力を、子供達には内緒にしたいらしい。
妻よ。将棋もいいけど、私との対戦がごぶさただよね。子ども達がぐっすり寝たあとに、どうかな?勝たしてやるから。
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