12皿目 鼻毛。
「お父さんすごいね!!!」
息子に尊敬の念を抱かれるのは、父にとってこのうえない喜びだ。
太郎はもう小学3年生。いろんな事ができるようになってきた。幼い頃は、ちょっとした事でも、魔法のように感じたらしく、大人にとってすれば、なんでもない事をやってみせても、尊敬の眼差しでみつめられたものだ。最近は、一緒に過ごす時間が減った事もあり、父の偉大さを感じさせる機会が少なくなってきた。
数日前のこと。仕事が休みで、久しぶりに家族と夕食を過ごせた。その日は、妻が小学校の会合のため、帰りが遅くなるので、夕食は近所の店で済ませる事となった。
この季節は、外へ出かける事が少々おっくうになる。ちょっとそこまで出かけるにも、花粉対策が必要だからだ。我が家で、花粉症を発しているのは二人。太郎と私。
今年は例年に比べ少ないといえども、年々症状がひどくなる私にとっては、毎年、新たな対策を講じなければならない。花粉対策の新商品は必ずチェックする。この春はゴーグルタイプの眼鏡と、鼻の穴用の塗り薬を買った。なかなかよい。太郎にも子供用のゴーグルタイプの眼鏡を買ってやった。親子でお揃いだ。
お店での食事が終わり、清算を済ませた。出入り口の扉を開ける前に、眼鏡、マスクをして花粉の脅威に備えた。その時、唐突に『その機会』が訪れた。
「ねぇ父さん、今日って花粉飛んでるの?」
「たくさん飛んでいるよ。おまえも眼鏡をしな」
「父さんは花粉が見えるの?」
「とうさんぐらいになるとな、鼻でわかるんだ。正確には鼻毛だな」
「すごい!!お父さんすごいね!鼻毛でわかるんだ!!!」
太郎のキラキラと輝く目が、ゴーグル越しに見てとれた。それは、花粉レーダー搭載、超好感度微粒子センサー付きの『鼻毛』が、息子の尊敬に値するようになった事を物語っていた。
太郎が、『父さん』の前に、『お』を付けて、『お父さん』と呼ぶのは、父を偉大に感じている時だ。花粉症も悪いことばかりじゃないと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます