11皿目 土俵。
「うまい事言うねぇ〜〜♪」
太郎の放った思いがけない一言に、妻はとても嬉しそうな反応を示した。
ある日の夕食のあと、世界の美女を探していくという企画のバラエティ番組を、家族で見ていた。
内容はこんな感じだ。まず、一人の美女を決めて、その人が自分より綺麗だと思う人を紹介する。そして、それを10回繰り返すというものだった。
「10人目はとても綺麗なのだろうね〜」私は当たり障りのない感想を述べた。
それに対して、太郎が放った一言はこうだ。
「母さんが一番綺麗だよ」
タイミングは完璧。シンプルかつ大胆なそのセリフ。妻のハートにぐさりと突き刺さった。そして、その一言は、私の感想をことさら陳腐なものに仕立てた。
いいかい太郎よくお聞き。うまくかあさんを褒めたな。そう、お前は今日ポイントを稼いだ。それもかなりの高得点だ。すごいぞ。でも、とーさんに勝ったとは思うなよ。なぜだかわかるか?それはな、そもそも、土俵が違うんだ。
とーさんだって上手に褒めようと思えばできるんだぞ。お前達のこともよく褒めるだろう?部下や、お客様にだって毎日、毎日褒め続けているんだ。昨日もお店のアルバイトの素敵な笑顔を褒めて、褒めて、褒めちぎった。あの娘はちょっと勘違いしたかもしれないな。それから、とても綺麗なお客さまの、豪快な食べっぷりを褒めちぎった。うん、とーさんは接客業だからな。褒めるのは得意なんだ。本当は。
太郎なんかより、ずっと上手なんだぞ。いいか?よく聞けよ。これからとても大事なことを言うぞ。とーさんが、上手に褒められない女性は、この世にたったひとり。そう、かあさんだけだ。これが何を意味するかわかるか?
いいか?これはな『へ理屈』っていうんだ。
な?土俵が違うだろ。
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