7皿目 知られたくないこと。

 人生ゲームで盛り上がった日の翌日、午前7時30分。ご飯の用意が出来たとの声に促されて、私はのろのろと起き出して食卓についた。すぐに、花子が私の身に起きている小さな変化に気がついた。

「おとうさん、シャツが裏返しだよぉ。ふふふ」

 笑いながら私に注意した。無地の白い肌着が裏返しになっていたのだ。ちょっと見ただけでは裏表を判別しにくいそのシャツ。花子の観察眼に感心した。小さくても女の子なんだ。細かい所によく気がつく。将来、娘の彼氏になる奴は苦労するだろうなと、思ったと同時に、『女の勘』が芽生える瞬間に立ち会った気がした。

 裏返しのシャツが花子のツボにはまったのか、クスクスと笑い続けている。

「いつまでも笑ってないで、さっさと食べなさい」妻が顔を赤らめながら言った。

 花子は6歳にして、いつもと違う『何か』に気づく。きっともうじき気づくだろう。なぜ、母が顔を赤らめたのか。いや、もしかしたら、もう気づいているのかもしれない。父のシャツが裏返しになっているような朝。そんな朝には、決まって、夫婦の寝室の枕元に、ティッシュの箱があることを。

 花子の精神年齢は、納豆に夢中になっている太郎の遥か先を行く。子供達には、血液型の他にも、知られたくない事がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る